「農薬」は今後も必要なのか? 【フードカタリスト 中村圭佑のコラム 第4回】

SMART AGRI読者の皆様、こんにちは。FOODBOX株式会社の中村圭佑です!

昨年書いた「ジェネリック農薬」という新たな農業資材の紹介から、はや数カ月が経ち、2021年になってしまいました。今回は「オリジナル農薬」を中心に、「食の安全」 について考えていきたいと思います!

農薬の「安全性」とは?


私自身が農薬メーカーで働いていたこともあり、下記のような質問をされることが度々あります。

「農薬」は安全ですか?
「農薬」は今後も必要ですか?

答えは、どちらも「はい」です。

まず、農薬の「安全性」について。

正直、一般消費者の方々には理解いただけないほど専門性が高いのですが、簡単に言うと「お酒」「たばこ」よりも毒性が低い農薬がほとんどです。

富山での田植え同時処理作業(箱粒剤)。筆者撮影

日本の農薬登録制度にて許可が下りている農薬は「病害虫への効果」「人への毒性」「作物への残留」「環境に与える影響」について非常に厳しい検査を合格しています。

ご参考までに、現在は1つの「オリジナル農薬」(特許)を開発するのに約10~15年、約150億円以上の費用がかかると言われています。登録制度も厳しくなっており、時間も費用もかかるようになっています。

次に、今後も農薬が「必要」かという点について。

消費者の価値観やライフスタイルの変化が起こっている国々では、無農薬や有機栽培が求められていく傾向が強くなっています。ただし、このような国でも全作物を無農薬で作るというのは難しく、必ず農薬は必要です。

また、世界の人口増に伴い、世界向けに穀物・野菜・果樹などを作っている国々では、効率的に安全な農作物を作るために農薬が必要で、登録許可が下りた農薬が登録基準に従い使用されています。

大事なのは正しいルールと使い方


無農薬栽培の難しさ・手間を説明する際、一般消費者に分かりやすいように例えを考えてみました。

「もし、あなたのご自宅でゴキブリが出た場合、どのように駆除されますか?」

直接駆除する方もいるかもしれませんが、多くの方は市販の殺虫スプレーなどを使われると思います。

では、1匹だけでなく毎日のようにゴキブリが出ると仮定した場合、毎日手で捕る、もしくは殺虫スプレーなどを使わない方法で駆除できるでしょうか? 非常に手間ですし、難しいと思います。

これをやるのが、農業でいういわゆる無農薬(正確には「無農薬」という表現は法的に認められていません。「栽培時農薬不使用」)という栽培になり、非常に手間がかかります。しかも、自宅よりも何倍も広い畑で行うので、周りの環境も含めコントロールが非常に難しいと言えます。

実際、殺虫剤も安全性が科学的に担保されているので、一般に販売されています。ただし、取扱説明書を理解せず使用方法を誤ると、健康に影響が出る可能性があります。

農薬も同じで、重要なのは安全を担保する登録制度(使用ルールなどを含む)と、それにのっとり使用しているかという点だと考えています。

食料飽和状態の日本では意識しにくい「フードセキュリティ」


そもそも、日本における「食の安全」はかなり偏った理解をされていると感じています。

書籍ゲノム編集食品が変える食の未来』の著者である松永和紀さんによると、「食の安全」は下記の3つに分類されます。

1.フードセーフティ(Food Safety):微生物や自然毒による食中毒を防ぎ、農薬や食品添加物の適正使用を促す
2.フードディフェンス(Food Defense):食品に毒物が仕込まれる等の犯罪、破壊行為を防ぐ
3.フードセキュリティ(Food Security):食料を安定的に生産し、供給するという食料安全保障を意味する

このうち、日本で注目されていることの多くが1つ目の「フードセーフティ」であり、農薬や食品添加物の使用等々の議論に偏っているようです。

2つ目の「フードディフェンス」については、毒物混入などの事件が時々起こりますが、その都度報道で取り上げられ、日頃から意識することはほとんどないと思います。

そして、いま世界で最も注目されているのは3つ目の「フードセキュリティ」。世界の人口が爆発的に増えていく中、いかに食料を安定的に供給していくかという点が議論されています。これは食料が飽和状態の日本ではほとんど議論されることはなく、日常の生活で消費者の方々が考える機会もないのが実情です。

しかし、このコロナ禍において、他国では農産物の輸出規制を一時的に行った国もあり、国内における食料の安定供給が必要との声が上がりました。

今回のように、世界的な混乱が起こった際、特にメディアに翻弄される日本では、何かがトリガーとなって一時的な食料不足になるリスクがあると感じています。

富山での田植え同時処理作業(箱粒剤)。作業の効率化、低コストにつながります。筆者撮影

農薬は、この食の安定供給面で非常に重要な役割を担っており、「天候」「病害虫」のリスクから作物を守り、安全な作物を効率良く生産する手助けをしてくれるものです。ぜひ消費者の皆さまには、正しく理解していただきたいと思いますし、皆さまに理解してもらう努力が、我々にはあるとも考えています。

さて、今回はオリジナル農薬の重要性と「食の安全」について見てきました。次回は日本における「無農薬」、「有機栽培(オーガニック)」の定義、「有機JAS」、「GAP」等の認証制度に焦点を当ててみたいと考えています。


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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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