農産物流通の革命児「やさいバス」はコロナ禍でどう変わったのか
地域内で農産物の売り手と買い手をつなぐBtoBの物流サービス「やさいバス」。主な買い手であった飲食店が新型コロナウイルスの影響で営業を控えたことは、サービスにどのような影響や変化をもたらしたのか。
運営する株式会社エムスクエア・ラボ(静岡県牧之原市)の加藤百合子さんに話を聞いた。
──まずは、あらためて「やさいバス」のサービスについて教えてください。
もともと、地域の農家が生産した農産物を地域の飲食店に届けるために始めた物流サービスです。サービスを展開する地域ではJAの施設や新聞店などを「バス停」に見立てて設けて、農家が近くで出荷できる場所をつくります。
農家と飲食店には事前にオンライン上のシステムで受発注してもらいます。契約が決まれば、農家は指定の日時までに野菜や果物を「バス停」に持参するだけ。集荷するのは自社や運送会社のトラック。新たに本物のバス停を集荷場にして、路線バスによる貨客混載できるも始まっています。これらの「やさいバス」が集荷して、指定の時刻までに別の「バス停」に届けて回ります。飲食店にはそこに取りに来てもらうという流れです。システムでは決算やチャットでの意見交換もできます。
──利用者が負担するサービス料は。
買い手にはコンテナ1箱当たり税込み385円を、農家には売り上げの15%を負担してもらいます。
──コロナ禍で飲食店が休業や時短営業した影響がありましたか?
取引量は一時、コロナ前の6割くらいにまで下がりましたね。これはまずい、どうしようってなって……。そんな時に「無印良品」を展開する株式会社良品計画から声がかかったんです。これを機に、それまで取引をしてこなかった小売店に営業をかけました。ちょうど巣ごもり需要が高まったので、小売店との取引が増えていきましたね。今では主な取引先は飲食店から小売店に変わりました。
──緊急事態宣言が解除されて、飲食店も通常営業に戻りました。
ありがたいことに、コロナ禍の最中でも注文を続けてくれていた飲食店があるので、そうしたお店とはお付き合いを続けていきます。ただ、小売店に鮮度のいい地場産の農産物を出せるようになったので、それ以外の飲食店には近くの小売店でうちの野菜や果物を買ってもらうよう案内していくつもりです。
──小売店との取引は伸びていきそうですか。
そうですね。というのも、小売業界はSDGs(持続可能な開発目標)やESGを強く志向するようになって、農家が一方的にリスクを負う「消化仕入れ」を控える傾向にあります。責任をもって買い取り、売り切るという流れができつつあるんですね。
SDGsについては日本での取り組みが遅れているようですが、それでも欧米の企業が株主の小売店は熱心です。うちもこの流れに乗れるような事業を展開します。
──といいますと?
商品に張るラベルに農産物を運んだ距離を表示します。小売店は「やさいバス」を利用すれば、カーボンニュートラルに対応したことを証明できるようにしたいと思います。
──「やさいバス」は全国でどれくらい広がりましたか。
2017年に静岡県で始まり、2021年8月末時点で全国8県に広がりました。利用者は出荷者が700、購買者が1800です。
──農産物を運ぶのは県域だけですか。
いえ、県域を越えた広域連携も始めています。その一つが長野‐静岡便です。
静岡は夏になると野菜の数が少なくなるため、長野県川上村と連携。レタスでのご利用をいただいています。そのレタスは、静岡で販売されています。
帰りの荷物もつくろうと、静岡の魚介類やその加工品を輸送する「さかなバス」を11月から毎週走らせます。静岡県は新鮮な魚介類が手に入るだけではなく、干物を作る技術に長けているので、そうした“いいもの”を長野県に届けていきたいですね。
──「やさいバス」の今後の展開は?
付加価値を生み出すため、消費の情報が生産に戻るような仕組みを作りたいと思っています。私たちはこれを「バリュー・サイクル・コード」と呼んでいます。
そのために当社グループの台湾のチームと始めたのが、売れ行きを把握するシステムの開発です。
一般に小売店はPOSデータを戻してくれないので、「やさいバス」の売り場の分は自分たちで取るしかない。そこで「やさいバス」の売り場にカメラを設置して、撮影した画像を人工知能で解析することで、商品がいつ、どのくらい減ったかを追跡できるシステムをつくろうとしています。
──どう使うのですか。
瞬時の対応としては、商品が減ったら、すぐに積み足します。中長期的には需要を予測するのに使いたい。何曜日の何時に何が売れるかを把握して、需給をマッチさせていきます。開発を終えた段階で、台湾でも「やさいバス」を始めるつもりです。
──その話はどれだけ進んでいるんですか?
じつはもう現地法人をつくりました。台湾のチームによると、向こうには日本人が知らないけれど、美味しい果物が結構あるみたいなんです。
まずは台湾内で「やさいバス」を定着させます。いずれは日本と台湾の間で鮮度のいい農産物を輸出入できる仕組みをつくります。台湾が成功したら、次はインドにも進出したいと思っています。
m2labo
https://www.m2-labo.jp/
運営する株式会社エムスクエア・ラボ(静岡県牧之原市)の加藤百合子さんに話を聞いた。
「バス停」を集出荷場に
──まずは、あらためて「やさいバス」のサービスについて教えてください。
もともと、地域の農家が生産した農産物を地域の飲食店に届けるために始めた物流サービスです。サービスを展開する地域ではJAの施設や新聞店などを「バス停」に見立てて設けて、農家が近くで出荷できる場所をつくります。
農家と飲食店には事前にオンライン上のシステムで受発注してもらいます。契約が決まれば、農家は指定の日時までに野菜や果物を「バス停」に持参するだけ。集荷するのは自社や運送会社のトラック。新たに本物のバス停を集荷場にして、路線バスによる貨客混載できるも始まっています。これらの「やさいバス」が集荷して、指定の時刻までに別の「バス停」に届けて回ります。飲食店にはそこに取りに来てもらうという流れです。システムでは決算やチャットでの意見交換もできます。
──利用者が負担するサービス料は。
買い手にはコンテナ1箱当たり税込み385円を、農家には売り上げの15%を負担してもらいます。
飲食店の休業や時短営業で取引量はコロナ前の約6割に
──コロナ禍で飲食店が休業や時短営業した影響がありましたか?
取引量は一時、コロナ前の6割くらいにまで下がりましたね。これはまずい、どうしようってなって……。そんな時に「無印良品」を展開する株式会社良品計画から声がかかったんです。これを機に、それまで取引をしてこなかった小売店に営業をかけました。ちょうど巣ごもり需要が高まったので、小売店との取引が増えていきましたね。今では主な取引先は飲食店から小売店に変わりました。
──緊急事態宣言が解除されて、飲食店も通常営業に戻りました。
ありがたいことに、コロナ禍の最中でも注文を続けてくれていた飲食店があるので、そうしたお店とはお付き合いを続けていきます。ただ、小売店に鮮度のいい地場産の農産物を出せるようになったので、それ以外の飲食店には近くの小売店でうちの野菜や果物を買ってもらうよう案内していくつもりです。
SDGs対応で輸送距離を表示
──小売店との取引は伸びていきそうですか。
そうですね。というのも、小売業界はSDGs(持続可能な開発目標)やESGを強く志向するようになって、農家が一方的にリスクを負う「消化仕入れ」を控える傾向にあります。責任をもって買い取り、売り切るという流れができつつあるんですね。
SDGsについては日本での取り組みが遅れているようですが、それでも欧米の企業が株主の小売店は熱心です。うちもこの流れに乗れるような事業を展開します。
──といいますと?
商品に張るラベルに農産物を運んだ距離を表示します。小売店は「やさいバス」を利用すれば、カーボンニュートラルに対応したことを証明できるようにしたいと思います。
11月から静岡‐長野間で「さかなバス」が始動
──「やさいバス」は全国でどれくらい広がりましたか。
2017年に静岡県で始まり、2021年8月末時点で全国8県に広がりました。利用者は出荷者が700、購買者が1800です。
──農産物を運ぶのは県域だけですか。
いえ、県域を越えた広域連携も始めています。その一つが長野‐静岡便です。
静岡は夏になると野菜の数が少なくなるため、長野県川上村と連携。レタスでのご利用をいただいています。そのレタスは、静岡で販売されています。
帰りの荷物もつくろうと、静岡の魚介類やその加工品を輸送する「さかなバス」を11月から毎週走らせます。静岡県は新鮮な魚介類が手に入るだけではなく、干物を作る技術に長けているので、そうした“いいもの”を長野県に届けていきたいですね。
──「やさいバス」の今後の展開は?
付加価値を生み出すため、消費の情報が生産に戻るような仕組みを作りたいと思っています。私たちはこれを「バリュー・サイクル・コード」と呼んでいます。
そのために当社グループの台湾のチームと始めたのが、売れ行きを把握するシステムの開発です。
一般に小売店はPOSデータを戻してくれないので、「やさいバス」の売り場の分は自分たちで取るしかない。そこで「やさいバス」の売り場にカメラを設置して、撮影した画像を人工知能で解析することで、商品がいつ、どのくらい減ったかを追跡できるシステムをつくろうとしています。
──どう使うのですか。
瞬時の対応としては、商品が減ったら、すぐに積み足します。中長期的には需要を予測するのに使いたい。何曜日の何時に何が売れるかを把握して、需給をマッチさせていきます。開発を終えた段階で、台湾でも「やさいバス」を始めるつもりです。
──その話はどれだけ進んでいるんですか?
じつはもう現地法人をつくりました。台湾のチームによると、向こうには日本人が知らないけれど、美味しい果物が結構あるみたいなんです。
まずは台湾内で「やさいバス」を定着させます。いずれは日本と台湾の間で鮮度のいい農産物を輸出入できる仕組みをつくります。台湾が成功したら、次はインドにも進出したいと思っています。
m2labo
https://www.m2-labo.jp/
SHARE