良きビジネスパートナーとしてのJAとの付き合い方 【連載:元JA職員が語る「JAとの付き合い方」 第1回】

「SMART AGRI」をご覧のみなさん、初めまして。カズノ子と申します。「子」とついていますが、メガネをかけたアラサーのメンズです。

私は10年ほどJAに勤めた経験があり、販売業務を中心に行っていました。元JA職員と言いながらも、販売部門は種苗メーカー・資材メーカー・販売先やエンドユーザーといった外部との関わりが強いので、皆さんが想像するようなJA職員ではないと思います。

現在はその経験から、自宅と畑を行き来する狭い世界の中にいる農家さんを外の広い世界に連れ出して共に“儲かる農業”を目指して独立したところです。

世間ではJAというと、どちらかというと厳しい声をいただくことが多いように思います。農産物に関して厳しい規格を強いられるという声や、農業事業ではなく保険事業で成り立っているといったJA本来の役割とはかけ離れた見方をされることもあります。

イラスト:よこいしょうこ
ですが、そもそもJAは「農業協同組合」であり、農家さんたちが集まってできた組織です。私たちのような地域のJAは、地元の農家さんが少しでも儲かるようにと日々考えて活動しています。

今回は、JAのいいところもダメなところも知っている私から、「JAの中の人」の農家さんへの思い、農家側がJAをもっとうまく活用するための私なりの考え方をお伝えしたいと思います。


実はやりすぎちゃってる? JAのお仕事


さて、JAの中の人として接する農家さんの印象ですが……農家の皆さんは代表=社長です。なので、お付き合いする上で大変なことも多々ありました(笑)。

JAは、農家さんと外部(取引先)のパイプになる組織です。現在はJAを利用せずに農業を営む農業法人などもありますが、ほとんどの農家さんがJAを利用しています。

農家さんのためにさまざまな業務を行いますが、実は民間企業から見たら、「えっ! そんなことまでやっているの?」みたいなこともしています。

しかし、内側で働いていると一般社会ではありえないようなことにも気づかないままなのが怖いところ。そんな外からではわからないグレーな部分……気になりませんか?

実は農家さんにとってのビジネスチャンス・儲かるための種は、そこに埋まっているのかもしれません。


「あなたがJAと取引している理由は? 」 


「JAの言うとおりにしているのに儲からない……」

農業を営んでいる友人の父親が、そんなことを言っているのを聞いたことがあります。

「そもそも、なぜJAの言うとおりにしているんだろう?」
「それはJAしか選択肢がないと思っており、依存しているからではないのか?」

私と同じような30代くらいの“農家の息子世代”は、上の世代の経営に疑問を持つことが多いように感じます。

「なぜJAからしか資材を買わないのか」
「なぜJAにしか出荷しないのか」

その友人の父親は、

「昔からの付き合いだから」
「JAはなんでも知ってるから」

と答えるばかりだったそうです。

つまり、経営者として“なぜJAと取引するのか”という視点が抜けている場合があるのです。疑問を持ったなら、ぜひ一度「なぜJAと取引をしているのか」をじっくりと考えてみてください。

JAにいると、営農指導を行う時に「あれをやりなさい」「これはやってないの? 」ということが多くあります。そういった指導を毎回受けている農家さんは、だいたい同じ方でした。

でも、子どもの頃を思い出してみてください。お母さんにあれこれと口出しをされているとき、あまり話が頭に入りませんでしたよね。そして、言われた行動をすぐに“成長”につなげるのはなかなか難しいのです。

それは、JAと農家さんの関係も同じ。JAは“お母さん”ではありません。農家さんがしっかりと自立して、JAを立派な取引先と認識したうえで、なぜJAを利用するのか明確化することが大切です。

その例として、ふたつの農家さんを想定してみました。


ケース1:JAを取引先のひとつと捉えている農家


多くの農家さんと関わっていると、JAとしか取引をしていない農家さんと、JA以外の取引先(メーカー・販売先・他産地の農家さん)と関わっている農家さんでは経営感覚が違うことに気づきます。

こういった農家さんは、農薬をひとつ買うにしても他社と比較して、

  • ここから買った方が安い
  • この業者から買う方がいろんな情報を教えてくれる

など考えて買っています。

販売にしても、JAは「大きなロットを扱うのが得意」で「出荷にかかる調整作業なども一括で面倒みてくれるから人件費が削減できる」という面があります。

一方、他社は「小ロットだが手間や手数料が取られない分、高い利益率で販売できる」など、取引先ごとの強みを理解し選択しているのです。

この選択する作業こそが、農家が経営感覚を研ぎ澄ますことに繋がっているのだと思います。

「JAに頼んだ方が手間や時間がかからなくていいんだ」という声もあります。確かにそうかもしれませんが、“なぜそう考えるのか”が重要です。

単に楽をしたいからなんでもやってくれるJAに頼む、自分でやると余計な経費がかかる、自分にしかできないことを優先的に行うためにJAに頼む、という理由とでは、見えている世界が違います。

最初はコスパがいいからという判断でもいいので、なぜそのJAと取引をしたいのか、明確にしてから取り引きを進めてみるといいでしょう。


ケース2:JAにおんぶにだっこの農家


「なんでもやってくれて助かるよ」

そんなことを言われるとJA職員としてはうれしいです。しかし、「農家さんがやってくれないからやっている」というのが本音です。

受け身の農家さんは、いつまでも受け身のままです。こういう農家さんの口癖は「JAが言ったから」。成功したのはJAのおかげと言ってくださいますが、あくまで失敗したらJAのせい、です。

自分で選択をしていないので、失敗しても何が悪かったのかわからないまま1年が過ぎてしまいます。こういう農家さんは、離農することが多いというのが現状です。

理由は、言われるがままに農業をしていて、支出をコントロールできていないことが多いため。

「JAは農家を儲かるようにするのが仕事だろ! 」

そんな声も聞こえてきそうですが、経営が傾いた農家に対して容赦なく肩をたたくJAが多いのもまた、事実です。

なかには親身になって経営改善のアドバイスをしてくれるJAもあるかもしれません。しかし、そのアドバイスを鵜呑みにして「JAの言うとおり」になったところで、その農家さんの経営感覚は変わらず、負のスパイラルに入ってしまいます。

農業を続けていくためには、自立して経営感覚を磨き、儲かる経営を目指さなくてはいけません。


農家が儲かればJAも儲かる



「俺はまったくJAは利用していない! 」という農家さんはごく少数でしょう。皆さん、少なからずJAを利用していると思います。

JAは総合事業なので、農家さんが儲かって大きくなれば、利用してくださる事業が少なくても 、別の事業で利用手数料が増えていきます。

また、ご自身の地区のJAには他地区のJAや企業と比べて、得意分野・強みがあるはずです。

  • 他社よりも頻繁にコミュケーションが取れる体制にある。
  • 作物ブランド力が強く、販売面に頼れる。
  • 直売事業が細かいところまで配慮されている。
  • 肥料・農薬・資材のスペシャリストがいる。
  • 作物の試験場があり、栽培技術指導ができる。

などの強みをうまく利用することが、経営感覚を磨くことに繋がると思います。


JA=お母さんから自立して経営感覚を磨こう

“ビジネス”というのは選択して、失敗・成功を繰り返して成長します。

その意味では、もともと農家さんは作物を作る上で失敗・成功のプロセスから学ぶことは大得意ですよね。その感覚を「取引先」という視点に移してみれば、自身の経営の選択肢が増え、儲かる農業に繋がると思います。

たくさんの農家さんを見ていて思ったのは、「儲かる農業をしている」から「良い作物を作れる」ということ。

「良い作物を作りたい! 」

たしかに、農業のやりがいはこれだと思います。その目的のためにも、JAを“ひとつの選択肢”としてうまく利用してみましょう!

さて、次回は「お母さん(JA)に頼らずに、自分でやるべきことを考えてみよう」というお話をしたいと思います。自立をしたら、自分が“農業で実現したいこと”や、そのためにどんな行動をとるべきかをじっくりと考えてみましょう。

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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