“緑の香り”で農作物を高温から守る資材「すずみどり」が農芸化学技術賞を受賞

農業生産資材づくりを通じて日本農業の再生を目指す株式会社ファイトクロームは、作物の高温耐性を高める揮発性バイオスティミュラント「すずみどり」の開発で、公益社団法人日本農芸化学会から「2019年度農芸化学技術賞」を受賞することが決定した。授賞式は同学会2019年度大会にて行われる。

「すずみどり」のイメージ

農芸化学技術賞は、農芸化学分野において注目すべき技術的業績をあげた技術・商品に与えられる賞であり、年間2~4件程度が受賞している。過去の受賞は、アサヒスーパードライの開発(1993年:アサヒビール)、トレハロースの製造法(1998年:林原)、セサミンの機能解明と健康食品の開発(2008年:サントリー)、機能性ヨーグルトの開発「R-1ヨーグルト」(2014年:明治)など、いずれも商品化されているものばかりだ。

今回は、2008年より神戸大学と開始した植物の高温耐性に関する共同研究、および2018年に本格販売を開始した商品名「すずみどり」の製品化が評価されたもので、ファイトクロームとしては初めての受賞となる。

「すずみどり」の概要

「すずみどり」は、ヘキセナール(緑葉の香り成分)を使用した、ビニールハウスや温室内に吊るすだけの高温耐性付与資材。10アール(1000平方メートル)あたり10~20パックで効果がおよそ1カ月持続する。

すずみどり(標準小売価格 10パック入袋 3700円(税別))

地球温暖化に伴い、世界中で毎年のように農作物の減収が報道されており、有効な対応策の開発は現場からも切望されている課題となっているが、2-ヘキセナールは0.01~0.001ppm程度の極微量で、50℃近い環境下でも植物がしおれない、枯れないなどの効果を示すことが判明した。


ただし、2-ヘキセナールが非常に不安定な物質であり、容易に空気中で酸化されて、効果を示さない別の香り成分へと変化してしまうなど、製品化にあたっては多くの課題も残されていた。特に、農業現場で使用するためには、極微量の香り成分を長期間にわたり安定的、持続的に与える必要があり、これらの課題も解決する必要があった。

多くの検討を行った結果、すずみどりは昇華性の錠剤中に2-ヘキセナールを含有させ、ガスバリア性の高いフィルムで覆うことで、これらの問題点を解決。設置時は、パックの両サイドのフィルムをカットして圃場に吊り下げて使用する。2014年より実際の圃場試験を開始し、トマトなどの果菜類、葉菜類、花卉類、水稲などの多くの作物で、収穫量が2割程度増収するなどの効果が確認されているという。


「すずみどり」のポイント
  1. 植物は本来、高温耐性機能を持っている。この機能は普段はスイッチがOFFになっているが、高温時にONになる。高温耐性機能をONにする情報伝達物質を特定することで人為的に植物の高温耐性機能をコントロールできるのではと考えたのが研究の端緒。
  2. 高温耐性機能は活性酸素処理によってもスイッチがONになると知られる。そこで活性酸素によって植物内の脂肪酸が酸化されてできる化合物が引き金になっているのではと仮定し、実験により「2-ヘキセナール」がその物質であると突き止めた。
  3. 高温耐性を遺伝子組み換えでないやり方で獲得した。遺伝子組み換え作物に対する受容度が低い我が国では受け入れられやすい。
  4. 植物由来の物質なので作物への処理に抵抗感が少ない。
  5. 協力農家での実証実験でイネ、キュウリ、トマトなどへの効果を確認。
  6. 「植物の高温耐性誘導剤および高温耐性誘導方法」(特許番号5608381)で2014年9月に特許取得済み。

<参考URL>
株式会社ファイトクローム
すずみどり

SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
パックごはん定期便