農研機構らの研究グループ、水稲の高温不稔の発生メカニズムを解明

農研機構は、国際農研、岐阜大学、島根大学らと行った共同研究で、水稲の高温不稔の発生メカニズムを解明した。

高温不稔で空になった籾
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154560.html

高温不稔は、稲の開花時に穂が高温に曝されることでコメが実らなくなる生育障害。
過去の室内実験では、開花時の気温が35℃を超えると発生しはじめ、1℃の温度上昇で不稔率が16%増大するという報告がされている。しかし、屋外での調査例は少なく、気候条件など温度以外の根本的な原因についてはわかっていなかった。

湿潤な地域ほど高温不稔の発生リスクが高まる


研究では、世界11の国と地域に観測地点を持つ国際的な水田微気象観測ネットワーク「MINCERnet」と自立型群落内微気象測定装置「MINCER」を活用して、各観測地点の水田の群落上と群落内の気温・湿度を連続で測定。

国際的な水田微気象観測ネットワーク「MINCERnet」
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154560.html

自立型群落内微気象測定装置「MINCER」
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154560.html

MINCERによる水稲群落内熱環境の測定の様子
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154560.html

水田の群落内熱環境イメージ
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154560.html

高温不稔にやや弱い標準品種(IR64)と高温不稔に強い耐性品種(N22)の両方を栽培して、開花期間や開花時間帯、不稔率等のデータを収集し、農研機構が開発した穂温推定モデルで各水田の水稲の穂温を計算した。

次に、各観測地点での開花時刻を調べ、開花期7日間の開花時間帯の気温と穂温の分布を比較。

その結果、セネガルなど乾燥した気候の観測地点では、穂温が群落上の気温よりも5℃以上低くなる一方、ベナン、中国、台湾、アメリカなど湿潤な気候の観測地点では、穂温が群落上の気温よりも高くなる傾向が確認できた。

全観測地点で解析対象とした年の開花期7日間の開花時間帯の気温・穂温の分布
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154560.html

そこで、開花時間帯の気温・穂温と不稔率との関係を調べてみると、群落上の気温を指標とした場合には不稔率との相関が認められなかったが、穂温を指標とした場合には不稔率との相関が認められた。

不稔率と開花期7日間の開花時間帯の平均温度との関係
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154560.html

さらに、各観測地点の開花期頃の30日間の気象条件を参考に、開花時間帯の穂温の分布範囲と不稔率の分布範囲を、標準品種(IR64)と高温不稔耐性品種(N22)の両方で推定。

その結果、ベナン、フィリピン、中国など湿潤な地域では蒸散に伴う気化冷却効果が小さく、水稲の高温不稔が起こりやすい事実が明らかになったほか、高温不稔耐性品種(N22)を導入すれば、すべての観測地点で高温不稔リスクを抑えられると推定された。

標準品種(IR64)と高温不稔耐性品種(N22)の高温不稔リスク分布
出典:https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/niaes/154560.html

農研機構らは今回の研究で得た成果を通じ、高温不稔の発生リスク予測をはじめ、コメ生産予測の精度向上や適応技術の有効性評価に貢献していきたい考えだ。


農研機構
https://www.naro.go.jp/
国際農研
https://www.jircas.go.jp/ja
岐阜大学
https://www.gifu-u.ac.jp/
島根大学
https://www.shimane-u.ac.jp/
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。