新富町こゆ財団が「新富アグリバレー」始動、アグリテックを集積し稼げる地域経済へ

2019年8月1日、一般財団法人こゆ地域づくり推進機構は、宮崎県児湯郡新富町を農業スタートアップの集積地とし、農業者の課題解決や稼げる地域経済の実現を目指すプロジェクト「新富アグリバレー」を開始した。これに伴い11月10日には、全国のアグリテック企業や学生などを招いたオープニングイベントを開催する。


新しい価値を創り、再投資する地域商社「こゆ財団」

一般財団法人こゆ地域づくり推進機構は、2017年4月に、宮崎県児湯郡新富町が旧観光協会を法人化する形で設立した地域商社だ。同財団は1粒1,000円の国産ライチを筆頭に、特産品のブランディングを通じて都市部へ価値と体験を提供する一方、販売で得た利益を町の新事業や起業家育成に再投資する地域システムを形成している。

行政機関では成し得なかった同財団によるスピード町経営の実践を背景に、ふるさと納税の寄附額は2016年度の4.3億円から2018年度の19億円へと2年間で約5倍に増加。これにより、国の地方創生優良事例に選出されたほか、移住者や起業家、農業ベンチャーが集積する「世界一チャレンジしやすいまち」として、地域経済の活性化に向けた新たな動向に注目が集まっている。

もともと宮崎県といえば、温暖多照な気候に恵まれ、2017年の農業産出額が全国5位の3,524億円にランクするなど、国内屈指の農業県に数えられる。中でも新富町は、山間部から平野部に至る起伏に富んだ地形を生かし、畑作から水稲、施設園芸、路地栽培、果樹栽培、畜産、酪農と多種多様な農業を営んできた。

こうした新富町及び同財団では2019年8月、町内農家や農業ベンチャーとともに、農家の所得向上と持続可能な農業を実現するためのプロジェクト「新富アグリバレー」を開始した。

食×農のシリコンバレーを目指して

「新富アグリバレー」は、現場で悩みを抱える生産者と、優れた技術力やアイデアを持つAI・IoT関連ベンチャーを引き合わせ、事業やサービスの実用化に向けた最適な環境とコミュニティを提供するプロジェクトのことだ。

具体的には、農業者やベンチャー企業、行政が交流・連携することで、次のようなメリットの享受が可能だとしている。

①実証実験をもとにした新技術の開発
多様な農環境を有する新富町で、新技術の導入に関心のある農家とアグリテックベンチャーによる実証実験の実施が可能となる。新技術の研究開発や農業課題の解決を目的に、プロトタイプの実用性が容易に検証できる。

②自治体や中間支援団体によるサポート
新富町役場や同財団のコーディネートにより、制度の活用や農地利用などの協力が得やすくなる。

③幅広いネットワークの活用
若手農家や農業ベンチャー、教育機関などが集まったスマートアグリ研究チーム「儲かる農業研究会」をはじめ、町内外に築いた農業に関連するネットワークの活用が可能となる。

④施設や共用設備の利用
2019年10月6日より、プロジェクトの拠点施設として、空き店舗を利活用したコワーキングスペースを使うことができる。施設内には、ミーティングルームや個室ワークスペース、FREE Wi-Fi、3Dプリンターなどを完備。入居企業は、農家・中間支援団体・行政と連携しながら、スピーディーに共創・協働を進めることが可能となる。

【新富アグリバレー施設概要】
住所:〒889-1411 宮崎県児湯郡新富町富田1-47-1
入居企業:10社
設備:ミーティングルーム、個室ワークスペース、FREE Wi-Fi、3Dプリンターなど
料金:入会金0円(ブース会員月額50,000円〜)
問い合わせ先:0983-32-1082

プロジェクトの発足にあたって、新富町と同財団は農業及びAI・IoT関連ベンチャー10社と連携。また、2018年6月に活動を開始したスマート農業研究チーム「儲かる農業研究会」においても、農業ベンチャーや高等専門学校とともに、AI・IoTを活用した選果機やスマートグラス、自動収穫機の共同開発を進めている。

同財団では、これらの協働企業と連携することで、今後はスマート農業分野の人材育成を図るほか、2025年を目処に上場企業の創出にも取り組む計画だ。


Society5.0に向けた地域づくりを

Society5.0は、デジタル革新やイノベーションを最大限に活用することで、新たな経済発展と社会課題の解決を図る未来社会のコンセプトを指す。

具体的には、IoTなどのサイバー空間(仮想空間)と人やモノなどのフィジカル空間(現実空間)を高度に融合したシステムにより、多様な知識や情報を共有し、新たな価値を生み出していく人間中心の社会のことだ。Society5.0の実現により、農業分野においても農作業の自動化や配送の省力化・省人化が進み、食品の増産やロス削減への寄与が可能になると考えられている。

同財団は、こうしたSociety5.0に向けた取り組みの一環として、2019年8月30日に東京で「スマート農業サミット2019」を開催。スマート農業に関する最新の知見や取り組み事例を発信する。同イベントでは、農産物直送ECサイト「食べチョク」を運営する株式会社ビビッドガーデンの秋元里奈氏や、農業機械の研究開発を進める東京大学大学院准教授の海津裕氏による講演会も行う予定だ。

そのほか、2019年11月10日に新富町内で開催する「新富アグリバレーサミット2019」においては、地元企業や農業ベンチャー、農業関連機関による討論会や学生などを対象とした農業ビジネスプランコンテストを実施する。

同財団は、こうしたスマート農業分野の取り組みを重点的に行うことで、持続可能な地域づくりやスピード町経営に役立てるとしている。また、新富町をSociety5.0の実現に向けた農業スタートアップの集積地として、稼げる地域経済の実現を目指すとともに、イノベーションをより加速したい考えだ。


【「スマート農業サミット2019」開催概要】
日時:2019年8月30日 19:30〜21:30
会場:C-Lounge(〒101-0047 東京都千代田区内神田1-15-10)
ゲスト:株式会社ビビッドガーデン代表取締役 秋元里奈氏/東京大学大学院准教授 海津裕氏

【「新富アグリバレーサミット2019」開催概要】
日時:2019年11月10日 10:00〜17:00
会場:新富アグリバレー(〒889-1411 宮崎県児湯郡新富町富田1-47-1)
内容:全国のスマートアグリのスタートアップ及び高等専門学校の学生が集結し、ビジネスプランコンテストを開催する
料金:無料


<参考URL>
新富町
一般財団法人こゆ地域づくり推進機構

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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