岡山大学、塩害によって植物の生育不良が引き起こされる仕組みの一部を解明

岡山大学大学院環境生命科学研究科(農)博士後期課程のHiya Hafsa Jahan大学院生(国費留学生)、同大学学術研究院環境生命自然科学学域(農)の宗正晋太郎准教授、村田芳行教授らの研究グループは、塩ストレスが植物の生育阻害を引き起こす原因の一端を明らかにした。


2つのカリウムイオン輸送体が塩ストレスによる根の成長阻害に関与


灌漑による塩の集積や台風による海水の内陸侵入によって引き起こされる塩害は、世界中で農作物の生産に悪影響を及ぼしており、塩害に強い作物品種の開発が望まれている。しかし、そのためには塩が誘導するストレスに対して、植物がどのような機構で応答しているのか、その仕組みをよく理解する必要があるという。

植物が塩ストレスにさらされたとき、最初にそのストレスを認識して反応する場所は根だ。塩ストレスは、植物の生育に必要な三大要素の一つであるカリウムイオンの細胞からの漏出を誘導し、それが生育阻害と密接な関係があることが明らかとなっていたが、それを引きおこす主要な分子機構はわかっていなかった。


岡山大学で行われた研究では、モデル植物であるシロイヌナズナを用いて、塩ストレス下でのカリウムイオン漏出
を担うカリウムイオン輸送体として、シェーカー型カリウムチャネルである「GORK」と「SKOR」を同定。

シェーカー型カリウムチャネルとは、ヒトやショウジョウバエなど幅広い生物種において高度に保存された輸送体だ。これらを欠いた植物体では、塩ストレス下のカリウムイオン漏出が減少し、根における塩ストレス耐性が向上することが判明した。

さらに、GORKとSKORはカリウムイオン漏出だけではなく、活性酸素種の産生やカルシウムイオン濃度の上昇など、
その他の塩ストレス応答の調節にも関与していることがわかったという。以上の結果から、カリウムイオンチャネルGORKとSKORは、根の塩ストレス応答において中心的な役割を持つことが明らかとなった。

通常、GORKやSKORは、気孔開閉運動や木部でのカリウムイオン輸送の調節など有益な働きを持っているが、塩
ストレス下ではその存在が植物にとって不利に働くと見られている。同研究の成果は、カリウムイオンチャネルを標的とした、新たな耐塩性作物の生産技術の開発につながると期待されている。

論文情報

論文名:Outward-rectifying potassium channels GORK and SKOR function in regulation of root
growth under salt stress in Arabidopsis thaliana
掲載紙:Journal of Plant Physiology
著者:Hafsa Jahan Hiya, Yoshitaka Nakashima, Airi Takeuchi, Toshiyuki Nakamura, Yoshimasa
Nakamura, Yoshiyuki Murata, Shintaro Munemasa
DOI:10.1016/j.jplph.2024.154322
URL:https://doi.org/10.1016/j.jplph.2024.154322



岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    柏木智帆
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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