ロボットトラクター1台でばれいしょの無人収穫を実証 収穫労務費を4割削減

帯広畜産大学の佐藤禎稔教授とヤンマーが、無人で走行するロボットトラクター(ロボトラ)によるばれいしょの収穫を実験して成功した。

2019年には佐藤教授に、「ロボットトラクターは畑作では使えない」という主旨のインタビューを行っているが、それが1年経って解決したかたちだ。

ロボットトラクターはなぜ畑作で“使えない”のか──帯広畜産大学畜産学部 佐藤禎稔教授に聞く<前編>【特集・北の大地の挑戦 第8回】
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ロボットトラクターはなぜ畑作で使えないのか──帯広畜産大学畜産学部 佐藤禎稔教授に聞く<後編>【特集・北の大地の挑戦 第9回】
https://smartagri-jp.com/smartagri/884

これで耕うんから種イモの植え付け、農薬の散布まで含めた一貫体系を、1台のロボトラでできることを確かめたことになる。ロボトラを使いこなせば労務費の4割削減が可能とみている。

佐藤禎稔(さとう ただとし)
帯広畜産大学 畜産学部 教授



けん引バックなしでも全面収穫可能に


過去の連載で紹介したように、ロボトラを畑作で利用するうえで課題となるのは、リバーシブルプラウとブームスプレーヤー、ポテトハーベスターという3つの作業機と連携できないことである。両者は、このうちリバーシブルプラウとブームスプレーヤーの2つについては、2018年度までの実験で課題を克服した。

残るポテトハーベスターについては、ロボトラだとけん引バックができないのが課題だった。ばれいしょの収穫時に畦数が少ないと、旋回ができないので全面収穫ができない。結果、取り残しが出てしまう。


そこで今回の実験ではけん引バックをしなくても、ある手法を使えば全面収穫ができるようになった。あいにく「ある手法」については特許の絡みで現時点では公にできないそうだ。

※けん引車両でのバック操作は、乗車しているトラクターに加えて、けん引車両の動きもコントロールしなければならない。ロボットトラクターではけん引車両のサイズなども含めてバック操作が行えない。

タブレット端末は作業機側に設置


今回の実験でもう一つ試したのは、ロボトラではなくポテトハーベスターの選別ステージにタブレット端末を取り付けて、堀取りの稼働や停止のほか、走行速度や経路の設定などの操作である。

ばれいしょの収穫でロボトラによる無人のけん引作業を目指した理由は、トラクターのオペレーターの削減と安全確保のためである。

タブレット端末をロボトラに取り付けていると、枕地旋回などで操作の必要が生じるたびに、走行中にもかかわらず人がポテトハーベスターから降りてロボトラに向かわねばならない。

北海道の畑作地帯では、従来のトラクターでポテトハーベスターをけん引している最中、人がトラクターから乗り降りした際にひかれる事故が後を絶たない。

実験ではポテトハーベスターからの操作も支障はなく、佐藤教授は「作業精度も良く、完璧に収穫できました」と語る。


労務費の4割削減にめど


ロボトラによる作業の一貫体系をつくるにあたって、北海道の畑作4品目の中でばれいしょを実験の対象に選んだのは「畑作の中で作業が一番難しいし、回数も種類も多いため」(佐藤教授)。

ばれいしょでトラクターを使うのは、ブロードキャスターでの肥料の散布やリバーシブルプラウ、ディスクハロー、ロータリーハローで耕うんと砕土、整地をするなど合計すれば20回にも及ぶ。

「ばれいしょでロボトラによる作業の一貫体系ができればビートや麦、豆類でも問題なく使える」

佐藤教授らは共同研究で北海道の畑作4品目にかかる労務費の4割削減を目指してきた。ポテトハーベスターの実験に成功し、その達成にめどをつけた。

ロボトラの監視を圃場ごとに行わなければならないとすると、GPSガイダンストラクターと同様に労働者の削減はほとんど期待できない。費用対効果が見合う活用をするうえで前提となるのは、遠隔監視によって1人が複数台のロボトラの作業の監視と制御を同時にすることである。

遠隔地のモニター画面で複数のロボトラを同時に監視し、制御する実験も始まっている。しかし、北海道の畑作地帯では府県と違って分散錯圃ではなく、個々の農家が耕作する農地はおおむねまとまっている。

この利点を生かして、例えば一人が畑の真ん中の位置にいて監視しながら、隣接する4つの畑で同時に4台のロボトラを走行させることを想定している。

ロボトラはその可能性が広く社会的に注目されているが、生産現場に落とし込むという点ではいろいろと課題が残されている。

それを丹念につぶしてきた佐藤教授とヤンマーの今回の研究は高く評価されるべきである。加えて北海道の農業現場は府県以上に労働力不足が深刻であることから、早く実装されることを願いたい。



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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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