ロボットトラクターはなぜ畑作で使えないのか──帯広畜産大学畜産学部 佐藤禎稔教授に聞く<後編>【特集・北の大地の挑戦 第9回】

前編ではロボットトラクター(以下、ロボトラ)がリバーシブルプラウとブームスプレイヤー、ポテトハーベスターに対応していないことを伝えた。

とはいえ人手不足が府県以上に深刻な北海道の農家にとって、ロボトラは喉から手が出るほど欲しい相棒に違いない。その要望に応えるためどんな研究や開発をしているのか。帯広畜産大学畜産学部の佐藤禎稔教授(大規模農業機械学)に続けて聞いた。

佐藤禎稔(さとう ただとし)
帯広畜産大学 畜産学部 教授

プラウの自動反転装置を開発

――畑作でもロボトラを使えるようにするため、どんな研究や開発をされていますか。

まず我々が手がけたのがリバーシブルプラウを自動で反転させることでした。現状のロボトラにはこの機能が付いていないんです。水田用に開発されているため、必要ないんですね。

そこで我々はロボトラにセンサーやマイコンなどを装備させました。ロボトラが枕地に達したら、リバーシブルプラウが自動的に持ち上がるので、その動きをセンサーで感知して、自動で反転させるようになっています。実証試験では20インチ3連のリバーシブルプラウで成功しました。自動反転は10秒でできましたね。その動作を見た農家からは「スムーズでいいね」と評価してもらっています。これはおそらく世界初の成果で、農林水産技術会議の「2018年農業技術10大ニュース」に選ばれています。

光センサーでブームと作物までの高さを検知

――ブームスプレイヤーではブームの高さを調整できないのが問題ということでしたね。

これが一番ハードルが高かった。畑が平らでないと、ブームの高さが変わってしまう。そうなると、散布した農薬の量に濃淡が出たり、ドリフト(飛散)が発生したりします。だからブームの高さを制御しないといけない。通常のトラクターであれば人が手動でそれをこなしますが、ロボトラにはその機能がないんですね。


じつは30年前に超音波センサーを装置をブームに取り付けて、対象物との距離感を感知し、ブームの高さを調整する装置を作ったことがあるんです。ただ、当時は早過ぎて、商品化までには至りませんでした。今回は再挑戦ということで、光センサーを備えた制御盤を作りました。これをブームの要所に取り付けると、走行中に地面との距離を検知しながら、高低差が生じないように制御してくれます。実証試験では問題なく散布できました。これもおそらく世界初の成果でしょう。


自動化で農作業事故の撲滅と労働投下量の4割削減を

――ロボトラのもう一つの問題としては、牽引バックが難しいことと回り込みの作業パスがないということです。このため、現状のロボトラでポテトハーベスターを牽引して収穫作業を行うことはできません。

ポテトハーベスターは枕地に到達したら、バックしては少しハンドルを切って前進するということを繰り返しながら旋回するんです。しかし、ロボトラはバックできないから、これができないんですね。ただ、いまはまだ詳細を言えませんが、ある手法を使えばバックをしなくても、全面収穫ができることに気づきました。このほど実証試験をしたところ、まったく問題なく圃場全面を無事に収穫することに成功しました。

ロボトラならオペレーターの必要がない、これは農作業事故を減らすという意味でも大きいことです。というのもポテトハーベスターは走行中にオペレーターが畑に降りることがあり、その際に車体に轢かれる事故が後を絶たないんですよ。そうした事故をなくすためにもロボトラに期待するところは大きいんです。

我々はばれいしょの作業体系を一貫して自動化したいと思っています。そのためにポテトプランターメーカーでは欠株を自動的に補給する装置の製品化も進めています。それから培土も高精度にできるようにしています。実証試験では狙ったラインから数cmずれたので、もう少し精度を上げたいと思っていますが、農家さんからはうまく培土ができている状況だと褒めていただいています。いずれにしても、一連の自動化で作業者の労働時間を4割削減することが目標ですね。


ロボトラを巡っては夢や可能性ばかりが話題になる一方で、こうした現実的な話は知られていないのではないか。アグリテックを取材してきた身として自省の念にかられる。それと同時に、ロボトラを現実のものとするため、抜け落ちた技術をすくい上げ、実用に持っていこうとする佐藤教授の熱意には心から敬意を払いたい。


【特集】北の大地の挑戦~スマート農業の先進地にみる可能性と課題
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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