ロボットトラクターはなぜ畑作で“使えない”のか──帯広畜産大学畜産学部 佐藤禎稔教授に聞く<前編>【特集・北の大地の挑戦 第8回】

農機の中で自動化や無人化がとりわけ期待されているのはトラクターだろう。作業機を付け替えることで数多くの仕事をこなせるだけあって、運転する時間が多いからだ。

農林水産省は2020年までに遠隔監視による無人化のシステムの構築を公言している。ただ、「抜け落ちた技術がある」と指摘するのは帯広畜産大学畜産学部の佐藤禎稔教授(大規模農業機械学)。「いまのままでは北海道の畑作地帯では使いきれない」という。一体どういうことなのか。帯広市にある研究室を訪ねた。

佐藤禎稔(さとう ただとし)
帯広畜産大学 畜産学部 教授

畑作こそロボトラの使用回数が多い

――国内の農機メーカーがロボットトラクター、いわゆるロボトラを発売しました。

ロボトラを出しているのはヤンマーとクボタ、井関農機ですね。馬力が最も大きいのはヤンマーで113馬力。続いて井関農機が65馬力、クボタが60馬力。その他のメーカーではロボトラと言っているけど、実際にはGPSガイダンスシステムを標準装備しているだけで、人や障害物を認識するセンサーは付いていません。ここが他の3社と違いますね。

各社のロボトラは稲作で使う分には問題ありません。ただ、畑作となると話は別です。

――といいますと?

その前に知ってもらいたいことがあります。畑作では耕うんや播種、中耕除草、防除、収穫など、それ一台でいろんな作業をしなくてはいけない。つまり、多数の作業機に対応しなければいけないし、それだけ使用回数も多いんです。

この表は、稲作と畑作でのトラクターの主な作業を一覧にしたものです。稲作ではブロードキャスターで肥料をまき、耕うんや砕土、整地はロータリーで行う。トラクターを使うのはせいぜい3回です。

注:帯広畜産大学 佐藤禎稔教授の資料をもとに作成

一方の畑作では、たとえばばれいしょを作る場合、ブロードキャスターで肥料をまき、リバーシブルプラウやディスクハロー、ロータリーハローで耕うんと砕土、整地をします。さらに播種にはポテトプランターが必要です。管理作業には株間除草機や成畦培土機を使い、ブームスプレイヤーを10回ほど使います。合計するとトラクターの使用回数は20回にもなるんですね。

しかも十勝地方では畑作4品目として、ばれいしょのほかに小麦、豆類、てんさいを輪作します。トラクターを使う回数はそれぞれ小麦が10回、豆類が14回、てんさいが15回になります。累計すれば60回近くになり、稲作と比べると圧倒的に多いわけです。

大手農機メーカーの開発部長から「なぜ畑作用にロボトラがいるのか」と聞かれた際、この表を見せたら驚いていました。ただ、いずれのロボトラも水田用に開発されているので、残念ながら畑作の一部の作業機については連動することを想定されていないんです。

現状で連動できない3つの作業

――どの作業機と連動できないのでしょう。

リバーシブルプラウとブームスプレイヤー、ポテトハーベスターです。このうちリバーシブルプラウは牽引するだけなら問題ないのですが、プラウを反転させる機能が付いていません。ブームスプレイヤーではブームの自動開閉や散布高さを自動で調整できないんですね。それからロボトラは牽引バックもできないので、これだとばれいしょの収穫時に畦数が少なくなると旋回ができなくなるんです。そうなると全面収穫ができないので、取り残しが出てしまう。

大きく分けて、以上3つの作業に現在のロボトラは対応していないんです。これらを克服しない限り、ロボトラは畑作では十分に使えないといっていいでしょう。


「いずれのロボトラも水田用に開発されている」というのは初耳であり、驚きだった。水田用であるために畑作では使い切れない。それでは北海道の畑作地帯の農家だけではなく、国民も困ってしまう。なんといっても北海道は国内の農業産出額の1割強を誇り、十勝とオホーツクの両地方はそのけん引役である。

両地方の生産力が落ちれば、食料が行き届かなくなる恐れだってあるのだ。そうならないために、ロボトラを巡ってどんな研究や開発がなされているのか。

【特集】北の大地の挑戦~スマート農業の先進地にみる可能性と課題
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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