JAを“売り手”に流通の本丸に挑む 〜農作物予約相対取引サービス「TSUNAGU」【前編】
青果物の買い手と売り手がオンライン上で直接取引を確定させるサービス「ツナグ」が、2020度にも始動する。
ほかの同様のサービスと比べて特異なのは、売り手として主に想定するのが、農家や農業法人ではなく農業協同組合、「JA」であることだ。
全国に農産物の生産体制と流通網をくまなく築いている日本最大の農業組織と連携することで、青果物流通の本流に入り込んでいく。
当初は売り手として、農家や農業法人を想定していた。しかし、出荷量の安定的な確保や規格の統一、品質の検査や鮮度を維持する体制の強固さなどを重視してJAに変更。JAにはトマトやキュウリなど品目ごとに農家の集まりである部会があり、それだけ多品目かつ大量の野菜や果物を全国規模でそろえられるという利点もある。
買い手としては、主に業務関係者を想定している。
JAは量を確保できるものの、「ツナグ」で重視しているのはそれ以上に「質」である。理由は、市場での取引と差別化を図るため。
かつて市場での取引は、1社の卸売業者に対して2社以上の仲卸業者や買参人が買い入れ価格を競い合う「競り」(せり)が主流だった。
それがいま「競り」に代わって主役となったのは、卸売業者と仲卸業者や買参人が一対一で価格を決める「相対取引」。国内の市場全体での取引額の内訳は、競りが1割、相対取引が9割となっている。
基本的に、相対取引では現物を見ることなく、品種や価格、数量、規格について契約を済ませてしまう。出荷物は規格に沿って産地で選別してあり、均一化されている。ただし、均一化されているといっても、細かく見ていけば作り手ごとに質の優劣がある。
たとえば、「日持ちの良さ」などは、市場流通の規格では考慮しない。リコピンやポリフェノールなどの機能性成分についても同じだ。
しかしながら、こうした現状の規格が相手にしない農産物の「質」に価値を感じている買い手がいるのは事実である。
そこで「ツナグ」は、JAと連携して、まずは「需要が高い質」とは何かを明らかにしていく。そのうえで質を数値化して、評価する仕組みを構築するつもりだ。
数値化する手段としては、たとえばスマートフォンで野菜や果物を撮影するだけで、あとはその画像をAIが解析して甘味や塩味、酸味、旨味、苦味を瞬時に数値化するアプリケーションがある。
「ツナグ」での契約の流れは二通り。
一つは買い手からJAに注文をする流れ。買い手は「ツナグ」で作付けが始まる前か栽培期間中に発注する。売り手は受注に応えるかどうかを協議し、その可否を決める。
ただし、契約が成立するのは実際に作り始めた後、収穫する約2週間前だ。この時期まで来ると、受注した野菜や果物が予定していた時期や品質、量の通りに収穫して出荷できるかどうかの見通しが立つからだ。
もう一つは、JAが特定の期間中に売りたい農産物の品目や品種、数量、等級や規格のデータを載せ、買い手からの注文を受けるという流れだ。
こちらはあっさり書いているが、大半のJAではこんな対応はできない。なぜなら、生産に関するデータがなく、収穫の予定を把握できないからである。
実際、ほとんどのJAでは、個々の農家の作付け計画や栽培期間中の生育に関するデータを取っていない。出荷されてきた農産物を受け入れ、市場や直売所などに振り分けていくだけである。
一方、「ツナグ」では、このサービスの実証試験をする神奈川県のJAと品目ごとに農家の生産に関するデータを集め、一元的に管理する仕組みも構築しようとしている。
作付けを始めてからの生育の過程や収穫の時期や量に関する見込みのデータは毎週更新し、売り手も買い手も閲覧できるようにするのだ。これにより、買い手は中・長期的にどこのJAから、いつ、どのくらいの量や品目の野菜や果物が手に入るかの見通しを立てることができる。
JAは、「ツナグ」が買い手として想定する業務向けに、安定供給するだけの強固なインフラを築いている。
日本最大のこの農業組織と連携する「ツナグ」がどれだけ広がるのか。2020年には神奈川県、静岡県を中心に10カ所のJAへ導入し、2020年までには「300カ所のJAへ展開したい」と鈴木社長は語る。
後編では、「ツナグ」が次に狙う物流の短縮化、そして農家の技術レベルの向上についてご紹介する。
TSUNAGU
http://tsunagu.cc/
ほかの同様のサービスと比べて特異なのは、売り手として主に想定するのが、農家や農業法人ではなく農業協同組合、「JA」であることだ。
全国に農産物の生産体制と流通網をくまなく築いている日本最大の農業組織と連携することで、青果物流通の本流に入り込んでいく。
量よりも質を重視
「ツナグ」の運営会社はその名も株式会社Tsunagu。2003年創業の同社は、もともと農業資材の販売業をしていたが、2016年に現在の「ツナグ」に至るプラットフォームの構築に取り掛かった。当初は売り手として、農家や農業法人を想定していた。しかし、出荷量の安定的な確保や規格の統一、品質の検査や鮮度を維持する体制の強固さなどを重視してJAに変更。JAにはトマトやキュウリなど品目ごとに農家の集まりである部会があり、それだけ多品目かつ大量の野菜や果物を全国規模でそろえられるという利点もある。
買い手としては、主に業務関係者を想定している。
JAは量を確保できるものの、「ツナグ」で重視しているのはそれ以上に「質」である。理由は、市場での取引と差別化を図るため。
かつて市場での取引は、1社の卸売業者に対して2社以上の仲卸業者や買参人が買い入れ価格を競い合う「競り」(せり)が主流だった。
それがいま「競り」に代わって主役となったのは、卸売業者と仲卸業者や買参人が一対一で価格を決める「相対取引」。国内の市場全体での取引額の内訳は、競りが1割、相対取引が9割となっている。
基本的に、相対取引では現物を見ることなく、品種や価格、数量、規格について契約を済ませてしまう。出荷物は規格に沿って産地で選別してあり、均一化されている。ただし、均一化されているといっても、細かく見ていけば作り手ごとに質の優劣がある。
たとえば、「日持ちの良さ」などは、市場流通の規格では考慮しない。リコピンやポリフェノールなどの機能性成分についても同じだ。
しかしながら、こうした現状の規格が相手にしない農産物の「質」に価値を感じている買い手がいるのは事実である。
そこで「ツナグ」は、JAと連携して、まずは「需要が高い質」とは何かを明らかにしていく。そのうえで質を数値化して、評価する仕組みを構築するつもりだ。
数値化する手段としては、たとえばスマートフォンで野菜や果物を撮影するだけで、あとはその画像をAIが解析して甘味や塩味、酸味、旨味、苦味を瞬時に数値化するアプリケーションがある。
二通りの契約方法
「ツナグ」での契約の流れは二通り。
一つは買い手からJAに注文をする流れ。買い手は「ツナグ」で作付けが始まる前か栽培期間中に発注する。売り手は受注に応えるかどうかを協議し、その可否を決める。
ただし、契約が成立するのは実際に作り始めた後、収穫する約2週間前だ。この時期まで来ると、受注した野菜や果物が予定していた時期や品質、量の通りに収穫して出荷できるかどうかの見通しが立つからだ。
もう一つは、JAが特定の期間中に売りたい農産物の品目や品種、数量、等級や規格のデータを載せ、買い手からの注文を受けるという流れだ。
こちらはあっさり書いているが、大半のJAではこんな対応はできない。なぜなら、生産に関するデータがなく、収穫の予定を把握できないからである。
実際、ほとんどのJAでは、個々の農家の作付け計画や栽培期間中の生育に関するデータを取っていない。出荷されてきた農産物を受け入れ、市場や直売所などに振り分けていくだけである。
一方、「ツナグ」では、このサービスの実証試験をする神奈川県のJAと品目ごとに農家の生産に関するデータを集め、一元的に管理する仕組みも構築しようとしている。
作付けを始めてからの生育の過程や収穫の時期や量に関する見込みのデータは毎週更新し、売り手も買い手も閲覧できるようにするのだ。これにより、買い手は中・長期的にどこのJAから、いつ、どのくらいの量や品目の野菜や果物が手に入るかの見通しを立てることができる。
JAは、「ツナグ」が買い手として想定する業務向けに、安定供給するだけの強固なインフラを築いている。
日本最大のこの農業組織と連携する「ツナグ」がどれだけ広がるのか。2020年には神奈川県、静岡県を中心に10カ所のJAへ導入し、2020年までには「300カ所のJAへ展開したい」と鈴木社長は語る。
後編では、「ツナグ」が次に狙う物流の短縮化、そして農家の技術レベルの向上についてご紹介する。
TSUNAGU
http://tsunagu.cc/
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