日本産野菜の輸出に関わるQRコードを使ったトレーサビリティの「見える化」【生産者目線でスマート農業を考える 第22回】

こんにちは。日本農業サポート研究所の福田浩一です。

静岡県静岡市に本社を置く農業法人の株式会社鈴生(すずなり)が2021年度(令和3年度)レタスとブロッコリーをシンガポールに輸出し、冷蔵技術とトレーサビリティシステムによって現地の消費者からプラスの評価を受けました。特に紹介動画は消費者の商品に対する好印象につながったようです。

今回は、コロナ禍でコンテナが遅延した中での、レタス・ブロッコリーの輸出の取り組みについて紹介します。


今回の事例:静岡県でのレタス・ブロッコリーの輸出に関するスマート化実証


鈴生の代表取締役 鈴木貴博さんは「安全で安心な美味しい日本の野菜をもっと世界の多くの人にたくさん食べていただきたい」と野菜のさらなる販路拡大のため、試験的に輸出に取り組んできました。しかし、今までは輸送状況や消費者の評価などは十分にできていませんでした。

そこで、2021年に採択された国の「スマート農業実証プロジェクト」にて、プロジェクト名「生育予測とQRコードを活用したスマート商流システムによるトレーサビリティの確立とこれに伴う輸出拡大、並びにスマート農機の利用拡大」(代表機関:株式会社鈴生)の一環で、輸出の実証試験に取り組むこととしました。

調査の概要は以下の通りです。
  • レタスの安定的輸出の技術として、温度管理、ガス環境、輸出日数等を調査する
  • 現地での品質、購入者のアンケート調査を行う
  • 設定価格、輸出コスト等を明らかにして収益確保のための輸出条件を明らかにする

なお、プロジェクトの概要は、コントラクター事業とともに昨年紹介しています。
スマート農機の導入コストを大幅に下げる、日本の「農業コントラクター事業」普及・拡大の展望


実証試験の内容


実証試験は以下の通り、レタスとブロッコリーで行われました。

表1 実証試験の概要
資料:鈴生提供資料から筆者作成 注:輸送はブロッコリー、レタス、みかんを混載した
収穫から店頭販売までの輸送日数は通常は2週間程度ですが、コロナ禍における海上輸送の混乱から2倍以上の日数、30日間程度(日本国内12日間、輸送14日間、シンガポール国内3~5日間)かかってしまいました。

レタスとブロッコリーの順で調査結果を紹介します。

レタス
【輸出前のレタス:収穫2日後】
左から 玉レタス、 リーフレタス、 梱包の様子(鈴生提供)

【シンガポール到着後のレタス:収穫28日後】左から 玉レタス 、リーフレタス(鈴生提供)
鈴生によるとレタスの調査結果は以下の通りです。
  • 船便の乱れと年末年始が重なり、収穫から30日後に納品、通常より10日以上遅れた
  • 輸送による出荷箱の歪みはほとんどなく、潰れなどは発生しなかった
  • 玉レタスは外葉や切り口の傷み、褐変が発生したため商品率は約80%だった。味は良いとの評価
  • リーフレタスは鮮度低下のため商品率は約90%であった
  • データロガーの設定不調により輸送中のデータが記録されておらず、温度・湿度等のデータは取得できなかった。

このように玉レタスはリースレタスより、商品化率が若干落ちるものの、味などの品質では、高評価だったようです。


ブロッコリー
左・輸出前のブロッコリー:収穫後2日後、右・シンガポール到着後のブロッコリー:収穫28日後(鈴生提供)
鈴生によるとブロッコリーの調査結果は以下の通りです。
  • 温度5℃による輸送条件下では、品質への悪影響はないと思われる
  • ブロッコリーは鮮度保持フィルムで梱包することにより、品質保持に効果があることが確認できた。商品化率はほぼ100%だった

以上のようにブロッコリーはレタスに比べ、品質保持効果が大きかったようです。


現地での販売実績
現地での販売は、筆者も以前何度か訪問したことがある日系のスーパーマーケット「明治屋」と、モスバーガーで行われました。

写真:筆者撮影
明治屋は、3万人以上住んでいると言われている在留日本人を対象としているスーパーマーケットです。店内は、日本語で買い物をすることができます。

試験販売レタスは以下のようにQRコードから、動画と栽培情報によってトレーサビリティを確認することができます。


なお、ブロッコリーを輸出しましたが、1つ1つ個包装しておらず、QRコードを付けていないため、トレーサビリティシステムに対する消費者アンケートなどは行うことはできませんでした。

レタスは収穫後30日が経過し、店頭に長く置いておけなかったため、3日間のみのテスト販売となりました。値段は玉およびリーフレタスとも1個9.9シンガポールドル(以下、SDGと記す)、日本円だと約830円で販売されました。通常、農産物の輸出先の販売価格は、運送費・輸出業者・現地小売りの手数料などが付加されるため、日本での販売価格の2~3倍程度になると言われています。

販売時の評価

(1) 販売担当者へのアンケート調査結果(モスバーガーのみ)

販売担当者は全部で4人。現地出身が2名、日本人の方が2名です。販売担当者たちの意見は、現地出身かどうかで以下の通り傾向が異なりました。

日本人の担当者は、トレーサビリティシステムの必要性を評価していますが、現地出身担当者はそうではありませんでした。シンガポールでは、レタスは炒めて食べるのが普通ですが、それでも鮮度を重視されているようです。また、価格も重視され、高くても日本産を購入したいと言った担当者は、日本人1人だけでした。

表2 シンガポール販売担当者へのアンケート調査結果
資料:鈴生提供資料を一部加工

(2)消費者へのアンケート調査結果

一方、消費者(日本人)56名へのアンケート調査結果は、以下の通りです。なお、店頭での調査は、コロナの状況で難しかったため、現地一般消費者に対して静岡県協力のもと、インターネットで行いました。

資料:鈴生提供の消費者56名へのアンケート調査結果を加工

日本産レタスに対しては、回答者のうち約6割の方が「安心」「高級」との印象を持っていました。

商品添付のQRコードから視聴できる産地の紹介動画に対しては、7割近くの方が「魅力を感じる」、5割弱の方が「おいしそうに感じる」と回答する一方、「付加価値はない」は1割ほどで、消費者の付加価値に対して懐疑的な意見は少数でした。

資料:鈴生提供の消費者56名へのアンケート調査結果を加工

QRコードで動画視聴できるレタスにてついては、「高くても買いたいと思う」「そうは思わない」が拮抗しており、評価がわかれました。

資料:鈴生提供の消費者56名へのアンケート調査結果を加工

また、シンガポールの消費者は、野菜を購入するとき、約9割が「鮮度」、6割以上が「価格」「生産国」を重視しており、トレーサビリティである「商品情報」重視は約3割と少数派でした。

資料:鈴生提供の消費者56名へのアンケート調査結果を加工

課題と今後の展望


2020年のシンガポールの一人当たりGDPは5万9798米ドル(約777万円。1ドル=130円で試算)と、日本の4万122米ドル(約521万円)より1.5倍も高いです(World Bank, World Development Indicators databaseより)。それでも、現地スタッフの意見からは、1個9.9SDG(約830円)のレタスをはじめ、日本産野菜については、トレーサビリティシステム付きであったとしても、鮮度や価格の面で否定的な意見が出されました。

シンガポールには、国境が隣接しているマレーシアをはじめ、アメリカ、オーストラリアなどからも安価な野菜が入ってきます。シンガポールの農林水産物・食品小売価格調査(2012年2月時点、JETROシンガポール事務所)によると、レタスの価格は日本産(福岡県)1kg当たり34SDGなのに対し、アメリカ産は2.2SDG、オーストラリア産は7.9SDG、マレーシア 産は2.9SDG(300g)となっています。

日本産レタスは、アメリカ、オーストラリア産の4倍以上の価格です。今後、販売量を増やすには低価格化は避けて通れないと思います。その上、新鮮さではマレーシア産には勝ち目はないでしょう。

鈴木社長は「コロナ禍で通常よりレタス・ブロッコリー運搬の時間がかかったにも関わらず、現地でのレタス・ブロッコリーの状態は予想以上に良かったです。コンテナの遅延などがなければ、今後の輸出に期待できると感じました。特に、ブロッコリーは、レタスに比べ状態がかなり良く、今後、可能性があると思います」と手ごたえを感じています。

一方で、鈴木社長は課題も感じており、「政治的なリスクと輸送コストについて課題が見えてきました。コロナ禍で港が商品を受け取ってくれない、輸送コストを考えると、安くて大きい野菜は厳しいと考えています。今後、今回の結果をもとに、品目やサイズなどを考慮して輸出が実現可能となるように軌道修正をかけ、将来、商用ベースの野菜輸出が実現可能となるように頑張っていきたい」と抱負を語られていました。

今回の実証試験では、QRコードで動画視聴できる日本産レタスがシンガポールの消費者に付加価値として評価されていることが分かりました。輸出のスマート化はまだ始まったばかりです。今後、筆者もトレーサビリティシステムなど輸出のスマート化がレタスだけでなく、ブロッコリーを含めた他の野菜輸出進展にどのように寄与できるかについて、また報告したいと思っています。

※本実証課題は、農林水産省「スマート農業実証プロジェクト(課題番号:露3C5商、実証課題名:生育予測とQRコードを活用したスマート商流システムによるトレーサビリティの確立とこれに伴う輸出拡大、並びにスマート農機の利用拡大の実証、事業主体:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)」の支援により実施されています。

株式会社鈴生
https://oretachinohatake.com/index.html
JA静岡経済連
https://jashizuoka-keizairen.net/
JA全農インターナショナル株式会社
http://www.zennoh-intl.com/

【連載】“生産者目線”で考えるスマート農業
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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。