「第13回農業WEEK」で見つけた注目農業ソリューション【後編】

第13回農業WEEKが、2023年10月11~13日の3日間、千葉県の幕張メッセで開催された。国内最大級の農業関連展示会だ。今回新たに、これまでの国際農業資材EXPO、国際6次化EXPO、国際スマート農業EXPO、国産畜産資材EXPOに、「農業 脱炭素・SDGs EXPO」が加わった。

そんな農業WEEK展示物のなかから、編集部の注目ブース&アイテムを紹介していきたい。後編となる本稿では、ハードウェア・サービスを中心に紹介して行こう。


発泡スチロールの箱が積荷の鮮度を保つ「箱明」



ひと際多くの来場者を集めていたのが、今回初出展された「箱明(はこあす)」。軽トラック用の発泡スチロール製コンテナボックスである。発泡スチロールの特徴である断熱性により、生鮮食品など積み荷の鮮度を維持してくれる。

製造を担うのは、静岡県に本社を置く木村鋳造所。フルモールド鋳造法に特化した鋳造メーカーであり、発砲スチロール加工技術が極めて高い。開発を担ったのは群馬県の東京鋳造所。両社がタッグを組み「箱明」を生産販売する株式会社箱明を設立した。

説明してくださったのは箱明の代表取締役を務める小澤淳さん。


「私達は鋳造品メーカーですから、その生産工程で大量のCO2を発生しています。これは鋳物品メーカーとしては避けることのできない宿命みたいなもの。そこで、私達だからできる社会貢献はないか、と考えて開発したのが『箱明』です。大きな発砲スチロール加工に強みを持つ木村鋳造所と協力することで、ここまで形にすることができました。

農業の現場に限りませんが、発砲スチロール箱が大量に使い捨てされています。それを減らすことで化石燃料と廃棄物を減らすことができます。また『箱明』はエネルギーを使わず保温できますから、無駄なエネルギー消費もありません」

電気を使わない「箱明」だが、その保温性能は極めて高い。「外が炎天下であっても、内部を数時間は涼しい状態に保つことができますよ」と小澤さんは自信を見せる。

発砲スチロールの厚さは(場所によって異なるが)10cm弱に近い。その表面には、防水性や防食性、耐摩耗性、耐薬品性に優れた強力な皮膜を得ることができるポリウレア塗装を施している。金槌で叩いても割れない強度を有している。

2000年以降に発売されていた軽ラックであれば、キャリイ、ハイゼットだけでなく、アクティやサンバーにも搭載可能な寸法であり、収穫物等を入れるコンテナ40個を収納できる。


農業WEEKでの来場者の反応を見て仕様を決めて、2024年4月には発売したい、と木村さんは語った。価格は100~150万円を見込んでいる。今後の展開に期待したい。

株式会社箱明
https://hacoas.com/


プロ用DC50Vバッテリーの汎用化と「自動運転草刈機コンセプト」



日本の老舗作業機メーカーのやまびこブースでは、自社開発している多様な環境技術、製品、システムを紹介していた。そんななかから編集部が注目したのは、プロ用の「DC50V」バッテリーと「自律走行型草刈機コンセプト」である。

「DC50V」バッテリーは、やまびこが「プロが満足するバッテリーツール」をコンセプトに掲げて開発した強力で高信頼性を誇るバッテリーのこと。やまびこは「DC50V」バッテリーで使うことができる製品のラインナップ化を進めており、自社開発と並行して協業企業との連携による既販製品のバッテリー化にも取り組んでいる。

説明してくれたのはやまびこジャパン常務取締役 企画・新事業開発室長を務める水嶋伸介さんだ。


「脱炭素社会の実現に向けて、作業機械の電化が求められています。それには、十分な性能と信頼性を持ったバッテリーが必要です。そこで開発したのが『DC50V』バッテリーです。50Vですから用途によっては十分にプロの使用にも応えることができますし、信頼性については万全を期して過酷なテストを繰り返して、信頼性を確認しました」

やまびこの「DC50V」が興味深いのは、他社と協力して既存の作業機械をこのバッテリーで電動化する、という取り組みだ。

「ご存知のとおり農業では多様な作業機が使われていますが、その動力には内燃機関(エンジン)が多く使われています。それをこの『DC50V』で置き換えることができれば、より多くの機械が電動化します。当社含め各企業さん単独でバッテリーを開発するのは容易ではありませんから、協力を呼び掛けているのです」

既に他社との協力は進んでおり、コンセプトモデルが多数展示されていた。

株式会社ニッカリと協力しているのはイチゴの「高設栽培用管理機」。管理機の上部に搭載されているのが「DC50V」バッテリーユニットで、高設栽培の培土を効率的かつクリーンに耕うんできる。モーター駆動は高トルクだから、高負荷運転でもトルク低下が起こりにくい。


吉徳農機株式会社と協力しているのは「歩行溝切機」。水稲栽培での中干に必要な溝切作業に使用する作業機だが、これも駆動をエンジンから「DC50V」への切り替えを模索している。


家庭用の電動機械では既に行われているように、プロ向けについてはやまびこの「DC50V」バッテリーさえあれば多様な作業機を使うことができる……そんな時代がもうすぐやって来る。

続いて説明いただいたのは「自律走行型草刈機コンセプト」。今春発売を開始したラジコン草刈機「RCM600」をベースに、自律走行機能を持たせた。ベース機「RCM600」は刈幅600mm、最大45度の傾斜地でも作業可能。プロポ(送信機)により遠隔で操作できるから、草刈作業の軽労化を実現する。

「ラジコンでも大幅に軽労化しますが、その先にあるのが自律走行。ラジコンと自律走行を切り替えることで、作業シーンや条件に応じた草刈が可能になり、さらなる軽労化が実現します。


現段階ではRTK機能は持たせておらず、LiDARとカメラにより自律走行する形にしました。最終的な目標はRTK機能の搭載ですが、草刈にそこまでの機能は必要なのか、と考えました。


隣に参考展示している「ロボットモア(TM-1000)」にはRTK機能を搭載しましたが、芝は平坦な場所に植えられるから。草刈をする場所は凹凸が多かったり、樹木の根が張っていたりしますから、どうしても刈り残しは手作業(刈払機)で行うことになります。それを考えると、LiDAR+カメラによる自律走行で十分ではないか、という現在の結論を形にしました」

「自律走行型草刈機」は、農業生産の現場を知り尽くした日本メーカーやまびこらしい、実に合理的な挑戦だ。開発の進展と将来の製品化に期待したい。

やまびこジャパン株式会社
https://www.yamabiko-corp.co.jp/


古い農機にも搭載できるFJダイナミクスの自動操舵システム



FJダイナミクスのブースで展示されていたのは、飛ぶ鳥を落とす勢いで普及している後付けの農機自動操舵システム。日本での発売が開始されたのは2020年10月だが、2023年8月にアップデートされた「AT2」がリリースされた。


そもそもFJダイナミクスとは、どのような企業なのだろうか? FJダイナミクスの日本総代理店を務めるFAG代表取締役の木伏裕一さんが教えてくれた。


「日本では農機自動操舵システムが知られていますが、FJダイナミクスはロボティクス企業です。自動化とデジタル化、それに電化をキーワードに、建設業や農業、空間情報を活用する業種などで、FJダイナミクス製品は幅広く利用されています。

新進気鋭の若手技術者を多数抱えており、とにかく開発力が高いのが特徴です。スピード感を持って次々と魅力的な製品を開発しています。その原動力となっているのが、本社のある中国に留まらず欧米やアジア諸国に開設している研究開発拠点とオペレーションセンターです。世界中でニーズを吸い上げながら、現地で開発まで行っているんですよ」

そんなFJダイナミクスの日本における看板製品の農機自動操舵システムが「AT2」に進化した。

「基本的には『AT1』で完成されていましたので、今回のアップデートでは、実際に使う農業生産者さんが使いやすく、また取り付けを行う業者さんが作業しやすいように進化しました。具体的には、GNSSアンテナとIMUがコンパクトに、一つにまとめられました。これで配線が簡単になり、搭載作業が格段に楽になるうえ、見た目もスッキリします。


もう一つの変更点はタブレット型モニターの採用。『AT1』より薄型に、そして大画面になりました。これは農業生産者さんの利便性を考えてのアップデートです。また、ご要望いただいてた大径ハンドルを選べるようになったのも『AT2』の新しいところです」


FJダイナミクスの自動操舵システムが人気なのは、どんなメーカーの農機にも後付けできるから、である。自動操舵システムが欲しいからといって、おいそれと農機本体を買い替えることはできない。そこにピタリとハマった。

「そこはFJダイナミクスの一番のウリですね。また、北海道など農機を複数台所有している農業生産者さんの利便性を考慮して、他社製システムからのデータ移行も可能な仕様にしています。どんなに古い農機でも、『AT2』を搭載することで、最大±2.5cmの直進精度を1km/hから18km/hで維持できるようになります」と木伏さんは自信を見せる。

アップデートを受けてさらに便利になったうえ、税込で99万円(取り付け費用は別途10万円前後)と破格の低価格を維持した「AT2」。まだまだ快進撃は続きそうだ。

FJダイナミクス
https://www.fjdynamics.com/jp


発酵菌床製造装置を核に循環型農業を実現する「楽々」


脱炭素SDGs EXPOゾーンで大々的にブースを展開していたのは、新潟市に本社を置くスタートアップ企業、楽々(らら)。キノコ類を栽培するための菌床を無人かつローコストで製造できる「発酵菌床製造装置マッシュファメンタシステム」を中心に、循環型農業を実現する仕組みを展示していた。代表取締役の駒場裕美さんが教えてくれた。


「これまでの菌床製造では、おがくずや栄養剤、pH調整剤などの添加物と種菌を混ぜ合わせて、袋詰め、ボイラー加熱、放冷、接種と多くの作業を行っていました。これらの各工程は別々の設備で行われ、そこでは必ず人の手が必要とされます。


これらすべての作業を不要にして全自動で菌床を製造できるのが『発酵菌床製造装置マッシュファメンタシステム』です。弊社は幾つも特許を取得して作り上げました。

菌床の材料はコットンハルとビートパルプ。コットンハルとは、搾油済みの綿の実を粉砕して核を取り出した後の殻と短繊維の混合物のこと。ビートパルプとは、テンサイの加工後に出る副産物のこと。いずれも畜産飼料として使用されてきたものが菌床の材料となります。


お客様のご希望があれば、コーヒー飲料粕や無農薬栽培の稲わらなどを10~30%混ぜ込むことも可能です。このような原料に水を加えて殺菌→発酵させた後、種菌を混ぜることで菌床を製造します」

「発酵菌床製造装置マッシュファメンタシステム」を導入することで、ボイラー設備やクリーンルームが不要になる。だから環境にも優しく、ローコストで菌床を製造できる。


培地を、原料由来の土壌微生物叢を活用し発酵させることにより、水っぽさがない高品質なキノコ栽培が可能になる。さらに使い終わった菌床は野積みすることで再発酵して、完熟たい肥として二次利用できる、と駒場さんは説明してくれた。

太陽光発電を使用した更なるローコスト運用など、実現が容易ではないと感じる展示が散見されたのは、展示会ゆえだろう。

菌床を購入して栽培している生産者や新規でキノコ生産を始める方にとっては、ローコストで発酵菌床を製造できるうえ循環型農業を実現する「発酵菌床製造装置マッシュファメンタシステム」は魅力的ではないだろうか?

株式会社楽々
https://lalalog.jp/




取材:川島礼二郎、SMART AGRI編集部(武井英貴)
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
パックごはん定期便