ぐるなびとJA山武郡市が見据える「理想のスマート商流」は実現できるか

2021年に採択されたスマート農業実証プロジェクト、「需給の変化に産地・実需データを活用し柔軟に対応する生産・出荷体系の構築実証 ~データを活用し農業経営を実践する産地づくり~」。その参画企業のひとつが株式会社ぐるなびです。

「ぐるなび」と言えば、全国の飲食店検索や予約・クーポンなどで、日頃からお世話になっている読者も多いでしょう。それだけに、実証プロジェクトの中でもひときわ目立って見えました。

しかし、ぐるなび自身は飲食店を経営しているわけではなく、直接的には農業に関わりはありません。それだけに、なぜスマート農業に取り組むことになったのかが非常に気になっていました。

そこで今回、ぐるなびがどんなかたちで実証プロジェクトに関わり、どんな成果が見られたのかを、ちょうど実証プロジェクトで1年が経過した4月にオンラインインタビュー。株式会社ぐるなび 常務執行役員 CX部門 戦略推進室 室長の田村敏郎氏と、同戦略推進室 戦略投資グループ グループ長の梶山祥子氏、さらにぐるなびと協業しているJA山武郡市(さんぶぐんし) 次長の初芝浩氏、課長の小梛哲義氏にお話をうかがいました。

株式会社ぐるなびの田村敏郎氏と梶山祥子氏
JA山武郡市の初芝浩氏と小梛哲義氏

実証プロジェクトの概要


今回の実証プロジェクトの目的は、生産→出荷→販売までのデータを連携させて、生産業務の全体効率化・収益力向上を実現するというものです。

データの連携によって実現したい目標は以下のとおり。
  • 生産の効率化
  • 栽培状況・収穫・出荷状況等の可視化
  • 販売方法の改善
  • 販売データに基づく消費者ニーズの把握
  • 消費側の需要データを農家に還元することで、マーケットインの発想と仕組みを持ち込む

こうした仕組みを実現するためにまずぐるなびが取り組んでいるのが、「農業現場の情報の可視化」です。そのために、「ぐるなびアグリサービス」というJA向け生産管理システムを新規に開発。農家とJAが情報を共有できるこのサービスにより、農家の業務効率化と、JAによる質の高い指導が可能になります。

それと同時に、JA山武郡市での業務のDX化にも取り組み、紙での管理をデジタルデータに置き換える作業も進めています。

現状、多くの農業現場での情報のやりとりは紙によるアナログのやりとりがまだまだ残っており、農家、JA、卸、実需者の間でうまく情報が連携できていません。農家とJAのデータを優先的にデジタル化することで、卸や実需者とも情報共有がしやすくなります。

データ連携がさらに進んだ「未来の日本の農産物流通」像


例えば、ある産地で予定より多くの農産物が生産・流通された場合、市場に大量の農産物があふれることは、決していいことばかりではありません。当然のことながら、市場原理により安値での取引になってしまうからです。

そうなると、栽培にかけた手間や資材は変わらないにもかかわらず、収益が下がってしまいます。産地ではあえて出荷せずに畑にすき込んだり、二束三文の手取りにしかならないとわかっていながら泣く泣く出荷したりもしています。

このような状況に対して、「ぐるなびアグリサービス」によって産地の栽培・出荷情報を卸や実需者とデータで連携できれば、産地で多くの量が取れた時、実需者側にその情報が共有され、販促・PRを仕掛けることができれば、価値を下げることなく、より多くの消費者に購入してもらうこともできるはずです。


逆に、実需者側のニーズから考えれば、ニーズのある品目・規格・時期等のデータや、消費者の購買行動のデータ等を産地に共有することで、今度は実需者・消費者ニーズに基づいて、産地側が「売れる」作付・出荷体制を構築することもできます。

このような体制は、全国の生産者、JA、卸などが理想とする流通の仕組みです。しかし、実現するために必要なことはわかっていても、あまりにも立場もデータも多岐に渡るために実現が難しかったというのが、これまでの状況でした。

今回のプロジェクトでぐるなびが挑んでいるのは、そんな理想であり難題でもある「スマート商流のシステム化」です。

実需者の部分は、今回の実証プロジェクトにも名を連ねている大手ネットスーパーの「楽天西友ネットスーパー」の販売実績データを参照しています。

過去に実施していた「ぐるなび」に紐づく農産物流通サービス


実はぐるなびは、過去に農業に進出したことがありました。2016年〜2017年頃に人のインフラを活用した農産物の流通を行っていたのです。

「産地からなかなか市場に出回らなかったり、ロットが小さかったり、さばきにくい農産物を、営業マン自ら調達して『ぐるなび』の飲食店に販売していたことがありました。しかし、飲食店の要望が多岐にわたり、生産者側も安定供給することが難しかったために撤退しています」と語るのは、ぐるなびの田村氏。この時の経験から、流通に携わるには人ではなくシステム化が必須だと考えたと言います。

「我々はインターネットサービスカンパニーですので、流通のデジタル化をまずはやらなければなりません。農家と農産物をトレーサビリティ情報でつなげることで、農産物の付加価値情報が可視化されますし、中・長期的にはその情報をぐるなび加盟飲食店でも利用できるようになります」

今回の実証プロジェクトによる農家・JAのDX化は、ぐるなびが飲食店向けに展開している「ぐるなび仕入モール」(飲食店向け業務用卸ECサイト。2021年11月17日オープン)との連携など、ぐるなび加盟飲食店とつないでいくことも視野に入れています。

JA山武郡市の業務DX化で、大量の紙資料をデジタル化


今回の実証プロジェクトでぐるなびは、「ぐるなびアグリサービス」だけでなく、JA山武郡市の業務のデジタル化にも取り組みました。特にJAで長年培われてきた作業のデジタル化は大変な作業だと、ぐるなびの梶山氏は振り返ります。

「まずは、それまですべてが紙でのアナログ管理になっていたJA山武郡市さんの業務を洗い出しました。JAで使っている『栽培記録管理簿』という資料は、農家さんが出荷作型ごと圃場ごとに作成・提出しているため、紙の量は膨大になり、JAでのチェック・管理業務負荷はとても大きいです。それをデジタル化することで、JAの業務工数を大きく縮減でき最低限の職員数で作業を回せるようになり、またチェックも簡素化でき、間違いもなくなります」

JA山武郡市としても、農業所得増大に向けた農業振興計画を実践していく中で、業務のデジタル化を進めようとしているタイミングに、今回の実証プロジェクトへの参加を勧められました。そして、業務のDX化を課題としていたJA山武郡市とぐるなびが協力して、「ぐるなびアグリサービス」の実証実験に取り組むことになりました。

ぐるなびとの協業についてJA山武郡市の初芝氏は、「我々JAとしての最終的な目標はあくまで、農家さんの所得が上がることです。今回の実証プロジェクトでは、ぐるなびさん、楽天さんも参画されていて、生産・販売・消費までがつながることも魅力でした」と、その意義を語っています。

需要に応じた生産・出荷体系の確立は可能?


今回のぐるなび、JA山武郡市、そして販売先としての楽天西友ネットスーパーらによる実証プロジェクトは2カ年計画で、この4月で1年が経過しました。成果としてはネットスーパーでの売上目標に対して1年目の段階で中間目標をクリアしており、農水省からも高い評価を得ています。

ただ、農家、JA、ネットスーパーが情報共有できる流通のプラットフォームとしての「ぐるなびアグリサービス」の構築が、ぐるなびが目指す最終目標。このシステムが実用化されれば、実証プロジェクトだけで終わらず、他の産地やJAでも実装可能になり、JA同士の連携さえも可能になります。

「『ぐるなびアグリサービス』では、有用と思っていただけるようなデータの収集を目指しています。JAの営農事業の効率化、データ活用による売上向上はもちろん、ノウハウの蓄積にも役立てられると考えています」と、梶山氏は実証プロジェクトの先も見据えています。

2年目の実証に向けた課題


「需給の変化に産地・実需データを活用し柔軟に対応する生産・出荷体系の構築実証」という今回の実証プロジェクトのポイントをあらためて考えると、
  1. 「需給の変化」をどのように察知するか
  2. 「産地・実需データ」をどのように記録し関係者間で共有するか
  3. 上記2つの情報をどのように「生産・出荷体系」に結び付けるか
というところにあります。これらは、農家、JA、ネットスーパーなどの販売先それぞれが共有できるデータを入力しなければ実現できません。

ぐるなびとして1年続けてきた課題も、農家が作業を入力することの難しさがあったと言います。すべての農家が、デジタル技術に興味を持っていたり、現状に危機感を抱いているとは限りません。しかし、作付け状況や生育状況が把握できなければ生産・出荷の時期が読めず、必要としている人がいてもいつまで経っても需給をマッチングさせられないわけです。

ただ、当初は入力などが難しかった農家も、「実証を続ける中で変化していった」と梶山さん。「農家自身が販売の履歴を見られることを新鮮に感じる農家さんも増えてきました。アンケート調査でも、64%の農家が履歴の閲覧に『興味がある』と答えています」。


さらに、JA山武郡市の小梛氏は、「農家が入力した作付け・生育状況はJAでも共有できているので、営農指導などに活用できてプラスに感じてもらえているようです」というメリットも実感しています。

ぐるなびの梶山さんは、「『ぐるなびアグリサービス』によって3種類のデータを活用できるようになります。①栽培・出荷データによって、農家の生育状況をデータで把握し、生育状況に合わせて実需者側で販促キャンペーンを打つといったことが可能になります。②購買データによって、実需者・消費者データを産地に還元し、JA・農家が“売れる”品目を把握し、規格や時期等による販売計画を立てることができます。③産地データによって、産地の安全・安心の取り組みや、生産者の思い・こだわり等の情報を訴求し、産地のファンをつくり、消費者・飲食店の購買につなげられるようになります」というデータの活用方法を提案しています。

ぐるなびとJA山武郡市が中心となっている「ぐるなびアグリサービス」の開発と実証は、まだ完成しているわけではありません。1年をかけてさらに進化させていくことになります。

もし両者の理想のデータ連携を確立できれば、全国の多くの農家とJAにとっても有益な仕組みになるはずです。ぐるなびとJA山武郡市の残り1年の取り組みに、引き続き注目していきたいと思います。

実証テーマ: スマート商流 | 実証品目: トマト・にんじん・トウモロコシ等 | 実証面積: 4ha
実証課題名:需給の変化に産地・実需データを活用し柔軟に対応する生産・出荷体系の構築実証
構成員:株式会社ぐるなび、JA山武郡市管内生産者、JA山武郡市、楽天西友ネットスーパー株式会社、楽天グループ株式会社
【連載】スマート農業に挑む企業たち
SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。