パレットを返却しない青果物流通の常識を変えよう【窪田新之助のスマート農業コラム】

久しぶりに地方卸売市場を訪れて、場内のあちこちを見て回った。その時に気になったのは、段ボール箱などの荷物を載せる台である“パレット”があちこちで山積みになっていること。

それぞれのパレットには所有者と思われる業者の名前が印字されている。1枚ずつ見ていくと、実に多くの業者のパレットが積んであることがわかる。

しかし、その多くは持ち主の手元を一度離れてしまうと、各地を旅したまま、返却されることはない。というのも青果物の流通の世界ではパレットに対する“所有権”という概念がないようなのだ。

これまではそれで通じたのかもしれない。ただ、物流の環境が悪化する中、それを常識としていては、青果物の流通は成り立たなくなるだろう。



これから深刻化するトラックドライバー不足

言うまでもなく、物流業界ではトラックドライバーが足りなくなっている。この傾向はこれから拍車がかかる。

鉄道貨物協会の「大型トラックドライバー需給の中・長期見通しに関する研究調査」(2014年5月に公表)によると、2030年度は2020年度と比べてトラックドライバーが18%減少するらしい。同研究調査は2030年度にはトラックドライバーが需要に対して8万6000人不足するとも予測している。

それでも青果物を輸送してもらうには、積んだり下ろしたりするのに人手を要する手荷役を減らして、物流業者に「選ばれる荷物」「選ばれる荷主」にならなければならない。


“パレット回収率”の低さは自分事としてとらえるべき

そのために欠かせないのは、産地でパレットに荷物を積み、その状態で倉庫での保管や移動、輸送をする「パレチゼーション化」だ。パレットならば、人力に頼ることなく機械で一連の作業をこなせる。労働環境の改善が進めば、ドライバーの雇用にも好影響を与えるだろう。

そのために、JAグループは全国どこでも同一の規格のパレットを使えるよう、レンタル品の普及を始めている。

その時に課題となるのが回収率。農業界の慣習は返却しないことを当たり前としてきたため、レンタル品についても回収率が上がらないそうだ。

回収率が低いままであれば、レンタル料金の値上げが引き起こされてしまう。下手をすれば、パレットが供給されない事態につながりかねない。その場合、農家の手取りに跳ね返るだけではなく、最悪の場合は青果物が輸送できない事態を招く。

この課題は産地だけではなくサプライチェーン全体が自分事としてとらえるべきことである。卸売市場や仲卸などは持ち主に返却すべきで、関係者を挙げた意識の変革が求められている。


大型トラックドライバー需給の中・長期見通しに関する研究調査(p.31~) - 鉄道貨物協会[PDF]
https://rfa.or.jp/wp/pdf/guide/activity/25report.pdf

【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
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    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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