農業ロボットで農業のイメージを変えたい──有限会社エコ・ライス新潟(後編)

農薬不使用や農薬使用量削減で稲作をする農家らが共同で立ち上げた有限会社エコ・ライス新潟(新潟県長岡市)。前編では、地元や関東圏の学校に向けての取り組みや、長岡工業高等専門学校と共同開発した除草ロボットについて紹介した。

後編では、同社が試験中のほかのロボットや、女性や高齢者が働きやすい現場を作るさまざまな工夫について、引き続き同社社長の豊永有さんに聞く。

有機農業を実現する「アイガモロボット」も試験中

エコ・ライス新潟は、試作中のアイガモロボットも試している。

有機稲作の農家の間で取り組まれているアイガモ農法では、マガモの雛を水田に放して、雑草を食べてもらう。さらに水を濁らせて雑草の光合成に必要な日光を遮ったり、雑草の種子を土に埋没させたりする効果も期待している。エコ・ライス新潟の会員農家もこの農法を実践しているが、マガモが鳥やイタチの餌食になるのが悩みだ。

そこでマガモに代わって導入したのが「アイガモロボット」だ。小さな本体に取り付けた2本の自走式クローラーで、苗をまたぐようにして走行。結果、条間の雑草を踏みつぶしたり、水を濁らせて雑草の光合成を遮ったりする。搭載したCCDカメラで苗の植えてある条を認識し、そこからずれないように自走するようになっている。


農業のイメージをロボットで変えたい

豊永さんがロボットに目を付けたのは、農業のイメージを変えたいからでもある。

「これからの農業は面白いと思われることをしないと駄目。農業って楽しいよね、と思われる仕掛けをしていかないと、誰もやりたがらないでしょ」

もうひとつ、地域を盛り上げたいという思いもある。

「高専の学生たちからはどんどんアイデアが出てくる。彼ら、いい意味でオタクだからね。もし自分たちが地域の農業の役に立てるとなったら、地域にある高専の役割も生まれるじゃないですか。それが彼らの励みにもなるし、もしかすると地場のメーカーに入社して、将来農業ロボットを造ってくれるかもしれない」

女性や高齢者の作業負担を機械で軽減

ところで、エコ・ライス新潟の従業員9人のほとんどは女性。以前は男性ばかりだったが、現在は女性の雇用を積極的に行っている。

「男性は、焦って運転しているトラクターをひっくり返すなど、仕事を早く終わらせたくてつい無理することもあったりするからね。女性は、重いものを持てないし、仕事量にすれば男性に比べて7割くらいしかできないかもしれないけど、確実に仕事をしてくれる」

彼女らに長く働いてもらうためにも力仕事を軽減する工夫をしている。たとえば精米機のぬかの排出口に袋を取り付けられるように改造した。製造メーカーの既定の設計だと、ぬかが溜まった後の処理が煩瑣だった。

加えて30㎏の玄米袋をパレットに積む作業を軽減するため、精米機のそばにキャッチャーを設置した。本体にアームが取り付けてあり、操作盤のスイッチを押すことで、人手に代わって玄米袋をつかんだり離したりする。


今回の取材時、この作業は70代の男性が行っていた。農家に定年はないが、統計を見ていると、体力的な理由から70歳を機にいっせいに辞めていくのが現実である。しかし、このような工夫を施すことで、力仕事も楽々とこなすことができているのが印象的だった。

残る農業法人にとっての課題は、拡大する面積に伴っていっそう必要になる労働力の確保だ。そのためには生産現場にロボットを導入する。市販されていなければ自ら造る。そんな農業法人が出てきていることを頼もしく感じた。

<参考URL>
有限会社エコ・ライス新潟
長岡工業高等専門学校

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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