衛星による気候分析で母国に貢献したい 〜MJBL財団留学生 サラ・トキ・アラブさん(アフガニスタン)〜

農業分野における雇用創出を目指す、More Jobs Better Lives公益財団法人(以下、MJBL)は、開発途上の国や地域における農業振興を支援するため、「外国人留学生奨学金給付制度」を設立。

アフガニスタンから来日したサラ・トキ・アラブさんは、その第1期生に選ばれました。その研究テーマは「干ばつと降雪による鉄砲水のダメージを受けている農家を支えるための地理空間保護モデルの改善」について。現在は筑波大学大学院生命環境科学研究科で、母国の農業の発展に役立つ技術やシステムを研究しています。

今回はそんなサラさんの目を通して、日本という国の農業がどんなものなのか、私たちには見えにくいことをうかがってみたいと思います。同時に、母国アフガニスタンの現状と食生活、日本での研究、帰国後のビジョンについてお話をうかがいました。


名前:サラ・トキ・アラブ
国籍(出身地名):アフガニスタン・イスラム共和国(カブール)
経歴:2019年10月~筑波大学大学院 生命環境科学研究科(博士課程)

研究テーマ:干ばつと降雪による鉄砲水のダメージを受けているブドウ農家を支えるための地理空間保護モデルの改善
卒業後の計画:
・母国の農業システムやプログラム考案に貢献し、カウル大学での教授職に戻り、日本での経験や知見を学生に教える。
・遠隔地の農家を対象に、環境に配慮した機械や改良種、化学肥料、自然災害への新たな対処方法などを伝授する。
・農林省とともにアフガニスタンにおける農作物保険の策定を行う。

農業主体の生活を送るアフガニスタン

——アフガニスタンの農業について教えてください。
アフガニスタンでは農業が主な産業で、直接・間接的な農業従事者の約75%が農村部に住んでいます。そして、農業生産額がGDP(国民総生産)の51.5%を占めています。

我が国では、さまざまな種類の穀物、野菜、果物を生産しています。主要な穀物は小麦で、リンゴ、あんず、ブドウ、ナッツなどのフルーツも栽培しています。また畜産もとても重要で、家畜に与える飼料も栽培しています。最も多いのは羊で、多くはインドネシアの市場に向けて羊皮や羊毛を生産しています。


小麦を栽培するには降雨がとても重要ですが、雨が降らないことも多く、農家は干ばつなどの自然災害による影響を受けています。激しい干ばつは5年に一度の割合で起きるのですが、生産量に大きな影響を与えます。かと思えば、ひとたび山の雪が突然溶け出して洪水が起こると、私たちには制御できなくなってしまいます。

——アフガニスタンの人々はどんな食生活をしていますか?

主食は小麦で、ほとんど自国で消費されており、朝、昼食、夕食と、みんなナンです。人々は貧しく、米は高価なので買うことができません。

朝はナンと砂糖入り緑茶を飲み、昼食はナンと一種類の野菜を食べ、夕食もナンに野菜を加えます。また、私たちは主に中国やインドから輸入した緑茶を飲み、緑茶には砂糖とスパイスのカルダモンも入れます。いい香りなので。私は日本ではペットボトルの緑茶を飲んでいます。

——第1次産業が主要産業とのことですが、主な輸出品は何ですか?

アフガニスタンの輸入額は約60億ドルです。輸出額は約10億ドル。フルーツとナッツが主な輸出品です。

主要な農産物はブドウですが、収穫後のポストハーベストはありません。生では送れないので、レーズンに加工して主に米国、ドバイ、インド、中国などに輸出しています。

それから「アフガンナッツ」と呼ばれるピーナッツのような木の実も、私の国ではとても人気です。アフガニスタン特有のもので、他の国ではめったに見ることができませんが、中国だけが輸入し、1kg当たり1万6000円と非常に高価なものです。「アフガンナッツ」の中身は白っぽく、中国では薬として利用されているようです。その味は、まるで「動物の脳みそ」のように濃厚です。

日本の農業から学べること


——サラさんが農業を勉強しようと思ったきっかけは何だったのですか?


私の国の状況を見ると、農業が改善されておらず、農民が依然として伝統的な栽培方法を使用しています。そこでこの分野の改善と教育の推進に関心を持ちました。

それに加えて、農場でのロスが多すぎます。農場内だけでなく、農場を出た後もロスがあります。その理由として、製品の梱包と衛生面が確立していないこと、人々が集中していないこと、産業化されていないことなどが挙げられます。そして自然災害も多いのです。

自分の国で農業分野に少しでも改善をもたらすために、もっと学ばなければいけないと、私は自分自身に言い聞かせました。

——子どもの頃など、サラさん自身も農業をされた経験はあるのですか?

実は私の祖父はいくつか農園を持っていたので、子どもの頃はいろいろな種類のフルーツを育てていました。しかし、今日の自然災害と世情不安のために、すべてが変わってしまい、昔のように果物を楽しむことはできません。

——今回、留学先として日本を選んだのはなぜですか?

女性として私が見る限り、日本は世界で最も安全な国だからです。母国の同じ大学から何人かは海外へ留学しましたが、「夜、一人で出かけられない」と不満を言っていました。ここ日本は、問題なく安全に外へ行くことができます。

さらに、日本人の仕事の習慣は勤勉です。私たちはアフガニスタンで中村哲さんが、施設やスタッフもなしに、アフガンに住む多くの人々の生活を変えたことを知っています。

——アフガニスタンの方たちは、みなさん中村先生をご存じなのですか?

もちろんです。アフガンにいるすべての人は中村さんを知っています。亡くなられた時は本当に悲しかったです。

中村さん以外にも、日本政府にはJICAなどのプロジェクトがあり、さまざまなジャンルで支援を受けています。本当にありがたく思っています。

——サラさんは今、どんな研究をされているのですか?

現在、私の国のさまざまな地域の衛星画像からデータを取得し、ブドウの生産に関するデータを分析しています。今やっているのは、衛星画像を利用して、ブドウの生育状況を予測することです。

衛星画像と情報を通じて、自然災害が起きる前に農家に知らせることができ、少なくとも干ばつを予想して、農家に水を節約するようにと知らせることができます。私が学ぶ技術は私の国で間違いなく実現できます。

その後、自然災害と農家の収穫状況について現地調査をしたいと思っています。このデータを再度収集した後、衛星データに関連する他のいくつかの調査を行い、論文を公開したいと思います。

私の最終的な目標は、農家のための保険と助成金を整備することです。私の国では農民の状況はあまり良くありません。材料や肥料の量が少ない場合でも、非常に高い価格で購入したり、非常に低い価格で製品を販売したりするのです。私の国で保険と助成金プログラムが実施されれば、特に自然災害時に農家を支援するでしょう。

——アフガニスタンのブドウはおいしいですか?

おいしいですが、皮が薄く輸出に向かないので、イラン、パキスタン、ドバイと一部の近隣諸国に限って輸出しています。ドライフルーツの場合は、アメリカ、ドバイ、インド、それから関心の高いEU諸国に送っています。


冷蔵輸送のシステムがなく、また農家は長期間フルーツを保管できない上に、包装や衛生面に問題があり、フレッシュなフルーツは送れないのです。

それでも時々大量にとれることがあります。そんな時は5kg100アフガン円と、とても安く売られています。どの業界にも保存技術がないため、長期間保存することはできません。

——日本のぶどうとはどう違うのでしょう?

日本のぶどうは、アフガニスタンのものより皮が厚いですね。でもおいしいと思います。

ただ野菜が高すぎます。あまりに高くてショックでした。

——ワインに加工したりしないのですか?

ダメダメダメ! 宗教的な理由で、お酒を飲むことはもちろん、料理にも使いません。私は日本に着いて、初めて本物のお酒を見ました。それまで映画でしか見たことがありませんでした。

——日本の印象はいかがですか?

あらゆる日本の製品から学ぶことが多いです。清潔でパッケージシステムやテイストがとてもいいですね。ちょっと高いですが、日本の食べ物は健康的です。

おにぎりとお寿司、中でもマグロが好きです。私たちの国は山に囲まれていて、魚を育てるための十分な水も海もありません。魚は結婚式のような特別な時だけです。私の子どもたちもすごく日本料理が好きです。

——お子さんと一緒に来日されているのですね。

はい。4歳と8歳の子どもと一緒ですが、夫はアフガニスタンにいます。日本の方はとてもフレンドリーで協力的です。私が修士号を取る時、保育園が見つからなかったのですが、周りのママ友が「見てるよ。授業に行って」と預かってくれて、とても助かりました。

——日本の農業をご覧になって感じた、いい点と悪い点を教えてください。

実際、日本人は非常に備えがあり、農業部門のすべてについて厳格です。彼らの農業は私の国よりはるかに進んでいます。でも、若者はあまりいないです。老人が多く、高齢化が進んでいるのがわかります。

私も茨城県のいくつかの農場に行きました。私の先生が調査のためにドローンを飛ばしているところです。畑に行くたびに、高齢の女性がいつもスイカでもてなしてくれました。その畑は高齢者が栽培していますが、とてもよく管理されていました。

——アフガニスタンとの国の農業の長所を教えてください。

私たちは農業の先進技術だけでなく、国の安全面の問題に直面しています。それでも私たちには、海外に輸出できるさまざまなおいしい農産物があります。特にナッツやぶどう、レーズン、ザクロなどはとても品質がよく、量も豊富です。

そしてサフラン。アメリカなどの企業から援助を受けて生産しています。これもまた他国と共有できる農産物です。いい香りで、お茶、クッキー、お米の着色などに使えます。とても高価でまるで金のよう。有効な農産物です。


日本の農業技術で安全で安心な農作物の栽培を


——アフガニスタンでは食料はどのように調達されているのですか?

農家の人たちは、長い間自家採種で種子を生産してきました。近年は、財団が生産性の高い種子を提供する活動をしていますが、それはまた、私たちが築いてきたすべての生産性を壊しかねない状況になっています。

その上、私たちの国は非常に乾燥していて水に乏しいのです。それでも農家の人たちは栽培を続ける準備をしています。このため、小麦のような主食でさえも自給できていません。

新しいタネはパキスタンからきていますが、新しい種を使うと新しい病気が入ってくるので、農家の人たちは不安を感じています。「新しい種の方がいいですよ」といわれても、問題があります。国内に作物の病気を審査できるところがないので、現場で作ってみるしかありません。

——世界的な流れとなっているSDGs、農薬や化学肥料の使用に関しても減っていると聞きます。

農薬や化学肥料を減らすことはとても良いことです。私の国では農業大臣が、持続可能な農業のためにSDGsを実現しようとしています。

しかし、水に乏しい地域では、農家はアヘン用のケシを栽培しています。これは私の国では違法な栽培ですが、政府はそれを制御できません。なぜなら彼らは世界の密輸業者とつながっているからです。ヨーロッパ諸国にすら輸出しています。

政府は改善を望んで種子を提供していますが、水がないため、少しのお金しかなく、農産物を高値で販売することはできません。これが農家がアヘンを作る理由です。

麻薬の密輸をどの国がサポートしているのかわかりません。国際的な密輸業者がサポートしているのかもしれません。しかし、それはアフガニスタン南部の政情不安定な場所であり、政府も入れない状況で、コントロールできないのです。

それでも一部の水がない地域でも、果物や野菜の化学肥料を減らした栽培に挑戦している農家もいます。

——日本でも、連作障害などの問題を抱えていますが、どうすれば、環境を守りながらの農業ができると思いますか?

私たちには日本のような、土壌分析のできる研究機関がありません。自然災害が原因の地滑り、洪水、干ばつが長年続いているため、農民たちは土がどうなっているかわかりません。

——母国へ帰ったら、日本で学んだことをどのように生かしたいですか?

帰国したら、筑波大の教授から学んだ知識を、私の生徒たちと共有したいと思います。私は政府と協力して、自然災害が起きた時に、農民を支援する保険と助成金政策を策定する予定です。この事業を推進するために、農業省を支援したいと思います。

さらに我が国の農業支援と安全のために、衛星データを役立てたいと思います。私は国の農業の状況を衛星画像で分析することで、農民と農業省に貢献したい。それが私の目標です。

——日本として、アフガニスタンになにか協力できることはあるでしょうか。

特に要望はないのですが、日本の農家さんが使っている技術を、アフガニスタンはじめ、他の国でも共有していただきたいですね。日本の技術はもちろん私の国よりも優れているので、おそらく世界中で共有できると思います。

最後に。日本政府の方、大学の先生、周りのみなさんに、たくさん支援していただいて、研究を続けられています。ありがとうございます。



MJBL財団
https://www.mjbl.jp/
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。