農業ロボットとデータが変える農業経営の未来とは?──銀座農園株式会社(後編)

自社での果樹栽培や農家への販路提供に加え、農業ロボットの開発にも乗り出した銀座農園株式会社。今回は、単なるロボット導入にとどまらず、データを活用して高収益の生産システム構築を目指す今後のビジョンについて、前回に引き続き飯村一樹代表に聞く。


イスラエルでドローンを開発


──ロボットはどんな構造になるのでしょう。

下は運搬部になっていて、クローラーでの自律走行です。上は収穫する機能を持つマニピュレーター。両方とも取り外して単独使用が可能な設計になっています。さらに直接収穫するドローンも開発するつもりです。しかもイスラエルで。

──イスラエルですか!?

はい。現地のスタートアップとすでにその話を進めています。というのも画像認識技術やフライトコントローラーの技術はイスラエルの方が進んでいるので。日本にも優れたエンジニアはいるのですが、だいたい大手企業に属しているんですよね。だから我々のようなベンチャーはコンタクトできない。でも、イスラエルのスタートアップは好意的に対応してくれています。

技術的なことをいえば、クローラーを自律走行させると、どうしても曲がるタイミングで制御設計からずれてしまうのです。一方、ドローンは自動制御で飛んでいるので、画像認識次第ではありますが確実に収穫することができる。最終的には上からドローンで収穫し、下のクローラーでその果実を受け取るような仕組みにしたい。


──樹形をY字やT字に仕立てるとなると、改植が必要になりますね。植えてから実が取れるまでに何年もかかるのではないでしょうか。

たしかに改植は必要です。ただ、植えてから1、2年で実が取れるよう、土の量を制限して樹が大きくなりすぎないようにする根域制限栽培を検討しています。まず試しているのはブドウの「シャインマスカット」。2年生の苗木を植え、翌年には収穫できる計画です。将来的には苗木の生産も手がけ、我々のグループに参加する農家に配るつもりです。根域制限の栽培法については今年初めて収穫をするので楽しみです。もちろん梨についても実験します。

──農業ロボットでも果樹の収穫はまだほとんど手がけられていない分野ですよね。

だから可能性があると思っています。農業ロボット業界の産業構造をみると、土地利用型作物については株式会社クボタやヤンマー株式会社、井関農機株式会社がすでに先駆者として大きな存在となっているから入れません。施設園芸ではまだ市場には出ていないですが、パナソニック株式会社や株式会社デンソーがいる。一方、果樹にはそうしたメーカーは参入していない。

しかし、問題は山積しています。関東地方の梨農家の話を聞いていると、とにかく後継ぎがいない。現状の棚仕立てだと収穫に手間がかかって若者が受け継ぐ気持ちにならないんですね。ただし、市場では果物は売れる。だったらロボットに収穫を任せて、若い人にどんどん入ってきてもらいましょう、という考えです。

高収益の生産モデルを世界に広めたい

──貴社は果樹のデータプラットフォームを構築する計画も進めていますよね。となると、ビジネスとしては農業ロボットを売る、というよりも、生産システムを売るイメージなのでしょうか。

そうですね。我々はロボットを活用した農業の効率経営を目指していく会社です。農業ロボットを販売して儲けようとは考えていません。開発中の農業ロボットにはリモートセンシング機能を持たせ、それを使って果樹の生育や土壌、温度や日射などの生育環境を可視化していきます。収集したデータはAI(人工知能)で解析し、営農支援まで手がけていくつもりです。

──そのサービスを利用する農家からは収穫物を買い取ることも想定されますか。

そうですね。我々は2009年に流通分野からこの業界に入っています。いまもマルシェや漢方ジュースバーを展開しています。たとえば梨は市場の取引価格でキロ当たり300円前後。それがうちの漢方梨ジュースにすれば2000円になる。今後はお客さまの体調に合わせた漢方ジュースをつくっていくつもりです。二日酔いなら、この漢方を混ぜるとか。商品開発には日本薬科大学がついてくれています。このように、我々なら付加価値を高めることができるので、農産物を売るところまでお手伝いしていきたい。

それから、こうした生産段階で高収益を出せるモデルは日本だけではなく海外でも展開したいと考えています。日本だけだと果実の市場規模は7000億円くらいなので。まずは気候や事業拡大を考えてオーストラリア進出を計画しています。


銀座農園が構築する果樹のデータプラットフォームはあらゆる企業や個人に門戸を開いている。他社の製品やサービスから得られるさまざまデータを豊富に活用することで、バリューチェーンをより強固にしていく狙いがある。ロボットがそこにどう寄与するか、注目したい。

<参考URL>
銀座農園

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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