老舗の米専門店「銀座米屋彦太郎」が考えるお米の付加価値とは
東京・銀座三越の本館(イレ)地下3階にある銀座米屋彦太郎。創業者である嶋田彦太郎氏の名前にちなんだ、老舗の米専門店です。本店は1905年(明治38年)創業で100年以上の歴史を誇る東京・調布市の米問屋、株式会社山田屋本店。量が必要な時代から食味が重視される時代への変化を見越して、長年にわたって全国を渡り歩き、生産者と直接語り合いながら、厳選したこだわりの米を取り扱っています。
中でも、確かな品質と価値を求める目の肥えたお客様が多い銀座の地では、玄米の状態での量り売りとその場で精米する販売方式や、お米の専門家が常に相談に乗ってくれる対面販売が好評です。それ以外にも、贈答用としての需要も多い真空パックやレトルトタイプなど、生活様式にマッチする多様な食べ方を提案しています。
そんな銀座米屋彦太郎がいま考えているのは、米の新しい価値。食味や品種だけではない、時代の変化に即したこれからの米の付加価値とは何なのか。同社の秋沢毬衣(まりえ)さんに、お話を伺いました。
銀座米屋彦太郎が最も大切にしてきたのは、お米の品質と食味でした。しかし時代の変化とともに生産者の状況も変わり、スマート農業という技術が、稲作の世界にも登場するようになりました。
「私も幼い頃からお米の産地にお邪魔して、生産者さんから後継者不足などのお話を聞いてきました。先人の知恵や親が残したメモなどを頼りにお米づくりが受け継がれてきたというストーリーも、愛があってお客様に響きます。ですが、AIやドローンなどを使ったスマート農法・技術も、それと同じくらい農業と切っても切れない関係になっていくと感じています」
そのきっかけとなったのが、他社の商品をリサーチしている中で知った「スマート米」でした。
ただし、当初は「スマート米」のブランド価値は「栽培方法」にあると考えていました。そして、果たしてお客様にそれが米の付加価値として伝わるのかがイメージしにくかったそうです。
それをお客様にも端的に理解していただけそうだと感じたのが、2020年産のスマート米でうたわれるようになった「残留農薬不検出」という言葉でした。
「いち販売者としても、これまで『減農薬』や『特別栽培米』には注目してきましたが、『残留農薬不検出』のお米は扱ったことがありませんでした」
定められた農薬の使用回数を削減することで表記が可能になる「特別栽培米」などと違い、個別に検査しなければならない「残留農薬不検出」という指標は、現在の流通のガイドラインには規定がありません。それぞれの商品ごとに検査を行い、検査機関から発行された証明書が減農薬の証しとなります。
「スマート米の栽培方法をどれだけ伝えたとしても、お客様にとってその農法で栽培することに何のメリットがあるのだろう? と、最初は率直に説明が難しく感じたんです。ですが、よくよく紐といてみると、必要な場所以外には農薬を使用せず環境問題に配慮されている点、いつもお米の栽培でご苦労されている生産者さんがお米を作り続けていくための省力化の取り組みでもあるという点は、消費者にとってもメリットなんですよね」
スマート米の栽培に使われるピンポイント農薬散布テクノロジー・ピンポイント施肥といった技術によって、生産者には農薬コストの削減や労力の軽減、消費者には減農薬という安心、さらに地球環境への配慮にもなるという多数のメリットがあります。それらが、秋沢さんがこれまで交流してきた生産者が米づくりに励む姿と重なりました。
こうして、銀座の地で「スマート米」の販売がスタートしました。そして、実際に取り扱う中で、これまで大切にしてきた「食味」とは異なる、別の付加価値に気づくきっかけになったと、秋沢さんは言います。
「たとえば、玄米の場合は専用品種の『金のいぶき』とか『ロウカット玄米』とか、食味や栄養価で魅力をお伝えしてきました。ですがそのお客様側の要望も、変わってきているという実感があります。
大きなきっかけは東日本大震災です。福島のお米は今でもおいしいですが、放射線などの問題でトレーサビリティ(流通)の開示を求められることも多くなっています。ここ5、6年は生産者の顔が見えるとか、子どもたちに安心・安全なものを求めるといった要望も増えています」
こうした消費者の思いも分かった上で、今回秋沢さんが店頭販売に選んだスマート米は、福島県白河産のコシヒカリ。残留農薬不検出の無洗米玄米です。
「やはり私どもとしては、『おいしさ』という部分で勝負したい。そのうえで残留農薬不検出でもあるということ、誰が、どのような過程、根拠で栽培したかがしっかりしているということで、安心もおいしさもうたえる商品として、白河産コシヒカリを選びました」
販売を開始してから、店頭に並ぶ「スマート米」への問い合わせも多く、売れ行きも好調とのこと。意外だったのは、透明なパッケージのメリットでした。
「パッケージが透明で玄米の粒が直接見られるので、『きれいな玄米だわ』とおっしゃって買ってくださる方もいました。計り売りの玄米ももちろんきれいなんですよ(笑)。ただ、間近で手にとって玄米の粒の大きさや色、状態も見られるところがよかったのだと思います」
これまで銀座米屋彦太郎は、日本のお米のセレクトショップの先駆者として、百貨店への出店や、真空パックの食べ比べセットといった新しいコンセプトや販売方法を編み出してきました。
しかし、そういった先進的な取り組みもここ数年で一般化してしまい、目新しいものではなくなっています。「スマート米」の販売を通して、今後消費者が求める「新しい付加価値」の部分が、スマート農業によって生まれるのかもしれないと秋沢さんは考えています。
「食味や産地、品種、販売方法など、お米への付加価値の付け方は飽和状態になっています。そんな中で、『スマート米』の栽培方法や残留農薬不検出といった安全・安心のエビデンスは、新しい価値の提案になると思います」
特に、現在玄米を求める方は健康志向の女性、それも比率的に20〜30代の若い女性が多いとのこと。ダイエット目的や、医者やジムのトレーナーに勧められて、専門店である銀座米屋彦太郎に相談に来られる方も多いそうです。
「そのようなお客様からは、選び方だけでなく炊き方なども聞かれるので、初めての方には炊きづらくないもの、失敗しにくいものをお勧めしています。そうやって玄米食ユーザーが増えていけば、次は農法に対しての関心や安心、安全を求める方が絶対に増えていく。さらに、子どもにも食べさせたいなどとなってくると、残留農薬不検出なども注目されると思います」
実際、山田屋本店では調布市で介護施設や保育施設への業務販売も行っていますが、7分付き米や麦入りの米を採用するところも増えているそうです。
新型コロナウイルスの影響で外食産業が大打撃を受けた2020年。年末からは国内の米の消費量の減少により、2021年は減産を余儀なくされそうというニュースも飛び交いました。
しかし、秋沢さんは110年もの歴史を持つ米屋の6代目として、「厳しいとは思っていない」と、笑顔で応えます。
「私の父の世代からは『厳しい』と言われるのですが、私自身はまったく思っていないんです。もちろん、たくさんの量を売ることは難しいかもしれませんが、お米はお客様にご紹介できる幅もすごく広い。たとえば、食べ合わせとか栄養面でも提案できます。炭水化物ダイエットも一時期流行しましたが、若い世代の方々にはご飯でスタイルをキープするなど、バランスのいい食事としてあえてお米を食べようという機運も生まれてきています」
減産や飼料用米・加工用米への転用といった、生産者の思いとはまったく異なる政策的な動きの中で、秋沢さんの言葉は、思いを込めて米づくりに励んでいる生産者を勇気づける言葉に感じられます。
それと同時に、これからは生産者側も、JAが引き取ってくれればいいという考え方を変えざるをえなくなっていくでしょう。ユーザーの需要を見て、米のどんな付加価値を訴求するかというところから、生産者自身もしっかり考えていくことが求められます。
ただし、生産者だけが頑張らなければいけないわけではありません。丹精込めて作った米の嫁ぎ先として、銀座米屋彦太郎のような、生産者の思いと努力を汲み取ってくれる米屋の存在があります。
「銀座米屋彦太郎はいわば、おいしいお米を披露していただく“舞台”。私たちがその主役であるお米の魅力を言葉にしてお客様に伝える場所でありたいですし、銀座米屋彦太郎という舞台で、自慢のお米を使って生産者さんたちに歌って、踊ってほしい。だからこそ、生産者さんからももっと密に想いをお伺いしたいと思っています」
【老舗今昔】ごはんは、ごちそう。米の魅力を届ける<銀座米屋彦太郎>|三越伊勢丹
https://www.mistore.jp/shopping/feature/foods_f2/story_komeyahikotaro_f.html
お米のお取り寄せ通販サイト 米屋彦太郎
https://hikotaro.jp/
中でも、確かな品質と価値を求める目の肥えたお客様が多い銀座の地では、玄米の状態での量り売りとその場で精米する販売方式や、お米の専門家が常に相談に乗ってくれる対面販売が好評です。それ以外にも、贈答用としての需要も多い真空パックやレトルトタイプなど、生活様式にマッチする多様な食べ方を提案しています。
そんな銀座米屋彦太郎がいま考えているのは、米の新しい価値。食味や品種だけではない、時代の変化に即したこれからの米の付加価値とは何なのか。同社の秋沢毬衣(まりえ)さんに、お話を伺いました。
専門店として、生産者のこだわりをどう表現するか
銀座米屋彦太郎が最も大切にしてきたのは、お米の品質と食味でした。しかし時代の変化とともに生産者の状況も変わり、スマート農業という技術が、稲作の世界にも登場するようになりました。
「私も幼い頃からお米の産地にお邪魔して、生産者さんから後継者不足などのお話を聞いてきました。先人の知恵や親が残したメモなどを頼りにお米づくりが受け継がれてきたというストーリーも、愛があってお客様に響きます。ですが、AIやドローンなどを使ったスマート農法・技術も、それと同じくらい農業と切っても切れない関係になっていくと感じています」
そのきっかけとなったのが、他社の商品をリサーチしている中で知った「スマート米」でした。
ただし、当初は「スマート米」のブランド価値は「栽培方法」にあると考えていました。そして、果たしてお客様にそれが米の付加価値として伝わるのかがイメージしにくかったそうです。
それをお客様にも端的に理解していただけそうだと感じたのが、2020年産のスマート米でうたわれるようになった「残留農薬不検出」という言葉でした。
「いち販売者としても、これまで『減農薬』や『特別栽培米』には注目してきましたが、『残留農薬不検出』のお米は扱ったことがありませんでした」
定められた農薬の使用回数を削減することで表記が可能になる「特別栽培米」などと違い、個別に検査しなければならない「残留農薬不検出」という指標は、現在の流通のガイドラインには規定がありません。それぞれの商品ごとに検査を行い、検査機関から発行された証明書が減農薬の証しとなります。
「スマート米の栽培方法をどれだけ伝えたとしても、お客様にとってその農法で栽培することに何のメリットがあるのだろう? と、最初は率直に説明が難しく感じたんです。ですが、よくよく紐といてみると、必要な場所以外には農薬を使用せず環境問題に配慮されている点、いつもお米の栽培でご苦労されている生産者さんがお米を作り続けていくための省力化の取り組みでもあるという点は、消費者にとってもメリットなんですよね」
スマート米の栽培に使われるピンポイント農薬散布テクノロジー・ピンポイント施肥といった技術によって、生産者には農薬コストの削減や労力の軽減、消費者には減農薬という安心、さらに地球環境への配慮にもなるという多数のメリットがあります。それらが、秋沢さんがこれまで交流してきた生産者が米づくりに励む姿と重なりました。
安心とおいしさを伝えるために選んだ、白河産コシヒカリ
こうして、銀座の地で「スマート米」の販売がスタートしました。そして、実際に取り扱う中で、これまで大切にしてきた「食味」とは異なる、別の付加価値に気づくきっかけになったと、秋沢さんは言います。
「たとえば、玄米の場合は専用品種の『金のいぶき』とか『ロウカット玄米』とか、食味や栄養価で魅力をお伝えしてきました。ですがそのお客様側の要望も、変わってきているという実感があります。
大きなきっかけは東日本大震災です。福島のお米は今でもおいしいですが、放射線などの問題でトレーサビリティ(流通)の開示を求められることも多くなっています。ここ5、6年は生産者の顔が見えるとか、子どもたちに安心・安全なものを求めるといった要望も増えています」
こうした消費者の思いも分かった上で、今回秋沢さんが店頭販売に選んだスマート米は、福島県白河産のコシヒカリ。残留農薬不検出の無洗米玄米です。
「やはり私どもとしては、『おいしさ』という部分で勝負したい。そのうえで残留農薬不検出でもあるということ、誰が、どのような過程、根拠で栽培したかがしっかりしているということで、安心もおいしさもうたえる商品として、白河産コシヒカリを選びました」
販売を開始してから、店頭に並ぶ「スマート米」への問い合わせも多く、売れ行きも好調とのこと。意外だったのは、透明なパッケージのメリットでした。
「パッケージが透明で玄米の粒が直接見られるので、『きれいな玄米だわ』とおっしゃって買ってくださる方もいました。計り売りの玄米ももちろんきれいなんですよ(笑)。ただ、間近で手にとって玄米の粒の大きさや色、状態も見られるところがよかったのだと思います」
食味だけでなく、安全・安心がお米の新たな付加価値に
これまで銀座米屋彦太郎は、日本のお米のセレクトショップの先駆者として、百貨店への出店や、真空パックの食べ比べセットといった新しいコンセプトや販売方法を編み出してきました。
しかし、そういった先進的な取り組みもここ数年で一般化してしまい、目新しいものではなくなっています。「スマート米」の販売を通して、今後消費者が求める「新しい付加価値」の部分が、スマート農業によって生まれるのかもしれないと秋沢さんは考えています。
「食味や産地、品種、販売方法など、お米への付加価値の付け方は飽和状態になっています。そんな中で、『スマート米』の栽培方法や残留農薬不検出といった安全・安心のエビデンスは、新しい価値の提案になると思います」
特に、現在玄米を求める方は健康志向の女性、それも比率的に20〜30代の若い女性が多いとのこと。ダイエット目的や、医者やジムのトレーナーに勧められて、専門店である銀座米屋彦太郎に相談に来られる方も多いそうです。
「そのようなお客様からは、選び方だけでなく炊き方なども聞かれるので、初めての方には炊きづらくないもの、失敗しにくいものをお勧めしています。そうやって玄米食ユーザーが増えていけば、次は農法に対しての関心や安心、安全を求める方が絶対に増えていく。さらに、子どもにも食べさせたいなどとなってくると、残留農薬不検出なども注目されると思います」
実際、山田屋本店では調布市で介護施設や保育施設への業務販売も行っていますが、7分付き米や麦入りの米を採用するところも増えているそうです。
米余りの時代でも「厳しいとは思っていない」
新型コロナウイルスの影響で外食産業が大打撃を受けた2020年。年末からは国内の米の消費量の減少により、2021年は減産を余儀なくされそうというニュースも飛び交いました。
しかし、秋沢さんは110年もの歴史を持つ米屋の6代目として、「厳しいとは思っていない」と、笑顔で応えます。
「私の父の世代からは『厳しい』と言われるのですが、私自身はまったく思っていないんです。もちろん、たくさんの量を売ることは難しいかもしれませんが、お米はお客様にご紹介できる幅もすごく広い。たとえば、食べ合わせとか栄養面でも提案できます。炭水化物ダイエットも一時期流行しましたが、若い世代の方々にはご飯でスタイルをキープするなど、バランスのいい食事としてあえてお米を食べようという機運も生まれてきています」
減産や飼料用米・加工用米への転用といった、生産者の思いとはまったく異なる政策的な動きの中で、秋沢さんの言葉は、思いを込めて米づくりに励んでいる生産者を勇気づける言葉に感じられます。
それと同時に、これからは生産者側も、JAが引き取ってくれればいいという考え方を変えざるをえなくなっていくでしょう。ユーザーの需要を見て、米のどんな付加価値を訴求するかというところから、生産者自身もしっかり考えていくことが求められます。
ただし、生産者だけが頑張らなければいけないわけではありません。丹精込めて作った米の嫁ぎ先として、銀座米屋彦太郎のような、生産者の思いと努力を汲み取ってくれる米屋の存在があります。
「銀座米屋彦太郎はいわば、おいしいお米を披露していただく“舞台”。私たちがその主役であるお米の魅力を言葉にしてお客様に伝える場所でありたいですし、銀座米屋彦太郎という舞台で、自慢のお米を使って生産者さんたちに歌って、踊ってほしい。だからこそ、生産者さんからももっと密に想いをお伺いしたいと思っています」
【老舗今昔】ごはんは、ごちそう。米の魅力を届ける<銀座米屋彦太郎>|三越伊勢丹
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