大規模・多品種米栽培では「適期作業支援アプリ」が必須になる 〜丹波篠山・アグリヘルシーファーム

コメ、黒豆、野菜を丹波篠山の70haの農地で栽培


2021年9月1日、兵庫県丹波篠山市にある(農)アグリヘルシーファームでは稲刈りが始まっていた。

「ここ10日間ぐらい昼休みも取らず、ずっと動いています。刈れるのは1日3haくらい。籾が濡れると品質が落ちてしまうので、夕方5時以降は刈らないようにしています」そんな話をする間も惜しむように、原智宏さん(43歳)は、コンバインに乗り込んで行った。

原さんの家は、戦前から丹波茶の生産加工と稲作を営む家族経営の農家だった。智宏さんが大学を卒業して就農したのを機に、栽培面積を増やして規模を拡大。2001年、智宏さんの父親が「農事組合法人アグリヘルシーファーム」を設立し、2007年には自身が代表理事に就任。現在は若手6人の社員とともに、コメや黒豆、野菜を総面積70haの広さで栽培している。

稲刈りが始まると、寸暇を惜しんでコンバインで作業に取り組む原さん

そんな原さんは、2019年よりオプティムの「スマートアグリフードプロジェクト」に参画。このプロジェクトは農薬使用量の削減による安全と環境への配慮、労力の軽減といった持続可能な農業を実現する取り組みとして知られている。

その中で用いられる栽培技術として、ドローンと AI画像解析により農薬使用量をできるだけ抑える「ピンポイント農薬散布テクノロジー」をはじめ、生育状況に応じて必要量の肥料を散布する「ピンポイント施肥テクノロジー」、育種の手間を省き圃場に直接種子をまく「ドローン打込条播技術」などが開発されてきた。

そして、2021年から新たに播種時期や気候により多品種を栽培する大規模農家の栽培をサポートする「適期作業支援アプリ」を導入し、効率的な米作りを推進している。


生育状況に応じた作業を推奨する「適期作業支援アプリ」とは


「適期作業支援アプリ」とは、米の生育状況に応じた適期農作業をレコメンド(推奨)する営農支援アプリ。品種や移植日などの情報を登録すると、生育期間を計算した上で適期農作業情報などのレコメンド情報が受け取れる。適期防除や適期農作業など日々の農作業を決定する上での支援アプリとして活用できるので、原さんの圃場でも今年から試験的に導入を始めた。

「オプティムさんは苗を田んぼに移す“移植日”から、品種ごとの“出穂期”を予測してくれる。そこから遡って作業スケジュールを立てられるようになったのは、大きな成果ですね」

“出穂期(しゅっすいき)”とは、イネが穂を形成する段階の初期で、葉の間から全体の4〜5割の穂が出現した時期のこと。早稲は田植えから50日後、晩稲は80日後と品種によって時期が異なる。

イネ自身が植物体を作る“栄養成長”から種子であるコメを作り出す“繁殖成長”に切り替わるポイントを始める時期で、生産者はこの日を起点に「追肥」「病害対策」「水管理」等の作業スケジュールを組んでいる。

スマホ上の適期作業画面。左からホーム、圃場の生育予測、水位・水温グラフの画面

「出穂期を起点に、散布や投入の日を定めている資材が多いです」と原さん。出穂から稲刈りを行う収穫日までが、コメの粒が充実していく「登熟期(とうじゅくき)」。コメの収量や品質を上げるためにも、正確な出穂期を予測することが必要なのだ。

「これまでは、出穂が一番早い品種のスケジュールを基準にして中稲や晩稲の作業日をズラしていました。だけど最初の出穂期がズレるとその後の品種もズレっぱなし。もっと正確な出穂期が知りたいと思っていました」

米粒を充実させるには、出穂期の見極めが肝心

しかし、より正確な出穂期を算出するには、田植え後の積算温度や日照量等、複合的なデータが必要になり、毎年の気候の変化を生産者が分析するのは困難だ。

そこでオプティムは、30日後までの正確な気象予測と平年のデータ、26日先までの気温データに基づいて、各品種の出穂期を算出した。分析にはWAGRI APIを活用している。

原さんがそのデータに基づいて作業体系を組んでみたところ、これまでにない成果が得られた。何よりも、早稲品種を基準に感覚的に予測していた他品種の出穂期を、品種ごとにより正確に予測できるのが良いと言う。

「単年度の予測で終わるのではなく、これから毎年データを積み重ねればより正確な予測が可能になると思います。そしてこのデータをJAを通して地域全体に知らせるようになればもっと便利ですよね。スマートホンが使えれば誰でもわかるので、高齢の農家や農家経験の浅い若手にも役立つはずです」

こうした適期作業を予測する技術は、大規模化と世代交代が進む稲作地帯でより大きな威力を発揮すると原さんはとらえている。


播種・栽培・収穫まで一気通貫で実現する「スマート米栽培技術」


「以前からAIやドローンを使った農業に関心はありました。ただ、スマートフォンと同じで機器の進化は日進月歩。どこと組めばいいのだろう? と考えあぐねていました」と原さん。そんな時、日頃から信頼している県の普及員に「AIを使った農地の解析を得意としている会社がありますよ。」と紹介されたのが、株式会社オプティムだった。

オプティムとの試験栽培が始まったのは2019年。最初に試みたのは、農薬のピンポイント農薬散布テクノロジーだった。ドローンで圃場を空撮し、病害や虫害を受けている箇所を抽出。そして薬剤を搭載した農業用ドローンを飛ばし、必要な場所だけに農薬を散布するオプティムの特許技術だ。

「それまで被害が出る前に予防もかねて全面散布していた僕らには、信じられないやり方でした」

アグリヘルシーファームでは「特別栽培米」を栽培する比重が大きく、元から農薬使用量を抑える努力を続けてきたが、栽培面積が広いため農薬の全面散布は欠かせなかった。ところがピンポイント散布後のデータを見ると、散布した場所だけきっちり効いている。

さらに場所によっては農薬散布そのものが不要で、AIによる圃場の解析とピンポイント散布を導入すれば農薬の使用量を一気に減らせることもわかった。コスト削減はもとより、農薬に一番近い場所で働く従業員の健康面を考えても、有効な技術だと考えている。


ドローンで圃場を空撮し、これからの育成方法を判断する


さらに原さんは2021年、ドローンによる湛水直播にも挑戦した。「代掻きした田んぼに、直接コーティングしていない籾を打ち込んでいきます。播種の量とか、技術的にはまだまだ改良の余地はあると思いますが、田植えをしなくてもきちんと形になってきました。苗作りをしなくても米作りができるのがいいですね」

同時に、水田の水位が計測できる「水位センサー」も導入した。以前は晴天が続くと「そろそろ見回りに行かないと……」と行動していたが、現地に行かなくても水位が何センチあるかわかるので、労力とコストを下げることができたと感じている。

ドローンによる水田直播の様子


スマート農業だけでは解決できない「土作り」の重要性


先進的な栽培技術を積極的に活用している一方で、原さんはおいしい米を作るための基礎とも言える、土作りをはじめとする環境の維持にも余念がない。

標高が高く、水にも恵まれた丹波篠山は元々食味の高いおコメの産地として知られてきた。そんな恵まれた環境の中で、社名を「アグリヘルシーファーム」と名付けたのは、食べる人の健康に役立てるお米を届けたい。そんな先代の願いが込められている。

家族経営の時代から健康志向の強い経営方針を掲げてきた。法人化して規模を70haに拡大してもその志を受け継ぎ、農薬や化学肥料の使用量を極力抑えている。そして原さん自身「さらにおいしい米を作るにはどうすればいいか」を常に考え続けながら土作りを進めてきた。

アグリヘルシーファームの原さん

2007年には独自のたい肥施設を設立。地元のブランド牛「但馬牛」の牛舎で一頭一頭大切に育てられているウシの足元に自社製の籾殻を投入した。これと牛ふんを混ぜて切り返し、十分発酵・熟成させてたい肥を製造している。さらに牛ふんだけでなく、鶏ふんの資材も使用。腐植物質フルボ酸資材を入れるなど、土壌の改善に努めている。

「たい肥を入れても、1〜2年ではなかなか変わりません。土の環境を変えようと思ったら、10〜15年はかかります。ずっとたい肥を入れ続けて最近やっと『なんか変わってきたな』と感じるようになりました。新しく預かった田んぼとは明らかに違います」

原さんが「なんか変わった」と感じるのは、地上に現れる茎葉ではなく、地中に伸びる“根”なのだそう。それも全体を支える太い根ではなく、毛細血管のように地中に伸びる細く細かい毛細根。土壌からより多くの養分やミネラルを吸収するには、この毛細根の量が決め手となる。その量が以前よりも格段に増えてきたという。時間をかけた土作りの成果は、如実に現れている。

ドローンセンシング追肥マップ。追肥ポイントがわかる

「スマートアグリフードプロジェクト」で持続可能な農業を実現


国は今、「みどりの食料システム戦略」を打ち出し、2050年までに実現を目指す取り組みとして「化学農薬使用量(リスク換算)50%の低減」「輸入原料や化石燃料を原料として化学肥料の使用量の30%低減」「国際的に行われている有機農業面積の割合を25%(100万ha)に拡大」といった目標に掲げている。

農薬や化学肥料の使用を減らし、有機農業の面積を増やすことは理想的ではある。しかし、その状態で作物を収穫するのは難しい。

アグリヘルシーファームではコシヒカリ、キヌヒカリ、つきあかり、ミルキークイーン、日本晴、あきだわらなどのうるち米に加え、加工用もち米の栽培。しかも農薬や化学肥料の使用量を慣行栽培の半分以下に抑えた特別栽培米が大部分を占めている。

自身で栽培した米を高精度の精米機にかけ、直接顧客に販売するBtoBが中心。安全性に配慮して育てられる特別栽培米は、飲食店や病院からもニーズが高まっている。

その一方で、全国的に高齢化が進み、栽培の続行ができなくなった農家が地元のイキのいい若手生産者に田んぼを託すケースが増えている。他聞に漏れず、原さんの元にも「うちの田んぼも作ってほしい」という依頼が舞い込み、栽培経験のない圃場でいきなり作り始めることも少なくない。

その上、農薬や化学肥料の使用量を極力抑え、各品種のポテンシャルをフルに発揮して栽培を続けるためにはどうすればよいのか? かつては、生産者自身の経験と勘に頼る部分が大きかったが『栽培面積の増加』『農地の点在』『品種の多様化』にプラスして温暖化が進み、予測のつかない異常気象の連続……。「経験と勘」だけでは、とても太刀打ちできない状況が続いている。

そういった状況に対応するために、スマート農業による圃場のデータ分析や労力を軽減できる新たな栽培方法は、これからより必要とされるようになっていくだろう。

「これまでオプティムさんと構築してきたデータに、土壌環境の分析も連動させながら、より精度の高い環境循環型かつ持続可能な米作りを実現させたい」熱く語る原さん。

時間をかけた「土作り」を通して身近な有機物を分解させ、製造する有機質たい肥の活用や病害虫に負けない健康な作物を栽培する……。こうした原さんの時間をかけた取組みは、結果的に持続可能な農業の実現にもつながっていく。

原さんとその仲間たちが栽培したコシヒカリは、「丹波篠山スマート米」として販売されている。そしてその一粒一粒に、未来につながる最新技術が凝縮されている。

スマート米2022(21年度産米)スマート米 丹波篠山 兵庫県産 コシヒカリ 1.8kg


農事組合法人アグリヘルシーファーム
https://agri-hf.jp/agri/
丹波篠山スマート米
https://smartagrifood.jp/?pid=154114152
みどりの食料システム戦略
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/



■減農薬のあんしん・安全なお米を選ぼう!


毎日食べるお米は、子どもや家族みんなにあんしんな商品を選びたいですね。

全国各地のこだわりの農家さんと、スマート農業でお米づくりをしている「スマート米」は、AI・ドローンなどを利用し、農薬の使用量を最小限に抑えたお米です。

玄米の状態で第三者機関の検査により「残留農薬不検出」と証明されたお米、農林水産省ガイドライン「節減対象農薬50%以下」のお米、そして「特別栽培米」もお選びいただくことができます。

各地の人気銘柄から、あまり見かけない貴重な銘柄をラインナップ。お求めはスマート米オンラインショップ SMART AGRI FOOD  からどうぞ。

SHARE

最新の記事をFacebook・メールで
簡単に読むことが出来ます。

RANKING

WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。