【特別対談 クボタ×長野県連合青果(前編)】青果流通業界が抱える転換点の課題

農業だけでなく食産業の発展には、サプライチェーンに関わる事業者がデータの活用で連携することが求められているのではないだろうか。農業の生産現場でセンサーやロボットが収集するデータは青果流通業者にとって重要な武器になるのではないか。

農機メーカーと青果物流業でそれぞれ大手である、株式会社クボタの飯田聡特別技術顧問と長野県連合青果株式会社の堀陽介社長にそんなテーマで対談していただいた。


本対談は、飯田顧問からクボタが手がける農業機械とICTを利用してPDCA型農業を実現するためのサービスの「KSAS(クボタ スマート アグリシステム)」やロボット農機の開発の話から始まった。

詳細については本メディアで既報であることから、今回は堀社長の話からつづっていくことにする。

■【特集】クボタが描くスマート農業の未来
目指すはPDCA型農業 〜クボタ・飯田聡特別技術顧問に聞く【第1回】
最終目標は高度営農支援システム〜クボタ・飯田聡特別技術顧問に聞く【第2回】
農機の無人化に向けた現状と課題 ~クボタ・飯田聡特別技術顧問に聞く【第3回】

聞き手:窪田新之助

転換点は2020年の改正卸売市場法

長野県連合青果株式会社 堀陽介社長

窪田:
堀社長には、転換点を迎えた青果流通業界と、御社のこれまでとこれからについて聞かせていただきたいと思います。

堀:私は長野県連合青果の三代目。昨年社長に就任し、今期が初決算でした。まだ確定していませんが、今のところ売上は580億円、営業利益は増益となる見込みです。

長野県連合青果は、2017年度決算で売上高600億円、2015年には同じく長野県で青果の卸売業をしている(株式会社)長印さんと、共同持ち株会社R&Cホールディングスを設立しました。グループの売上高は2017年度決算で1460億円になります。

飯田:それは大きいですね。

堀:業界では東京・大田市場の東京青果に続いて2番目の規模です。もともと長印さんとは競合してきたのですが、長野県に全国で2番目の青果流通グループをつくろうという想いが合わさって経営統合をすることにしました。

青果流通業界は大きな転換点を迎えています。その発端となったのは、2020年に迫っている改正卸売市場法の施行です。前身となる中央卸売市場法は1923年に米騒動を背景に、食糧を公平に分配していくことを目的に制定されたと言われています。

過去には、相対取引の導入や買付集荷の全面自由化などの改正はあったものの、今回は自由競争の流れが加速する方向へ大幅に改正されることになりました。流通業者は食料分配機能の役目が低下してきており、飽食の時代にあって需要をどうつくり出すかが求められていると思います。

飯田顧問のお話で共感できたのは、適正な需要に適正な生産をすれば、それが儲けの源泉になるということ。我々も同じ考えです。いまのサプライチェーンの仕組みだと、どうしても量や質といった面で需要に応えられないことがあります。以前は集荷機能を競合他社と競争してきましたが、いまはいかに世の中に需要をつくっていくかが求められています。

その流れの中、社会課題を解決するために農家や産地と連携していかないと、我々の存在価値はなくなってしまうのではないか。現に国産青果物の卸売市場の経由率をみると、10年前までは約9割だったのが、いまでは8割程度にまで下がっています。これまでゆるやかに落ちてきたものが、来年の法改正により今後は一気に加速するかもしれません。

ロボットに合わせて生産基盤自体を変える

株式会社クボタ 飯田聡特別技術顧問

窪田:
いま、「適正な需要に適正な生産」というお話がありました。具体的な取り組みがあれば教えてください。

堀:ミカンの産地を支援することに取り組んでいます。最近は異常気象もあって年ごとに出来栄え、特に味にばらつきが生じやすいですが、同じ品質のミカンを安定的に作れないかということで、我が社は農協さんと組んで安定した食味確保のための支援を始めています。それにより、産地のブランド化、消費者の評価を得ることにつながります。

我が社はこれまで営農支援に関しては直接的に関与することはありませんでした。ただ、日本の農業の生産力が落ちている中、サプライチェーンに携わる関係者全員が日本の農業が衰退する流れを少しでも食い止めるために貢献できることを、今より一歩踏み込んでいくべきと考えます。

私たち流通業者でも直接的に生産に対してできることがあるはずです。ロボットで果樹の分野に進出するお考えはありませんか?

飯田:そういう意味では、我々も生産性向上のために多くの自動機械を造っていますが、段々畑でミカンを収穫するロボットはなかなか難しい。

実は30年前にミカン取りロボットの開発を手がけたんです。ただ、傾斜地で走行作業させるうえで安全性の確保などの問題も多く断念した経緯があるんです。個人的には果樹園での自動化はやらないといけないと思うんですが、まだ畑作や野菜作の優先順位が高い状態です。

これからは機械やロボットに合わせて生産基盤を変えていくことも視野に入れるべきだと思っています。たとえば、果樹だと海外はきちんと列になっていますね。列と列の間をトラクターや高所台車で入っていって効率的に収穫する。サプライチェーンを踏まえたうえで生産基盤そのものを変えていくことも必要であると考えています。

堀:同感です。スマート農機を使った仕組みは流通まで考えて確立した方がいいと思います。私は長野県農政部に、サプライチェーンに携わる者が県の農業振興のために何ができるか、知恵のプラットフォームをつくりましょうと持ち掛けました。そうしたら県が長野県農業士協会とつないでくれ、本年度事業として交流を開始していくことになっています。

※ ※ ※

対談ではっきりしたのは「飽食の時代にあって需要をどうつくり出すかが求められている」という点で、生産側と流通側が同じ問題を抱えているということだ。

この共通した問題に対処するには、ステークホルダーがいかにバリューチェーンを構築するかが問われてくる。そのための場づくりとして堀社長は長野県に対し、「知恵のプラットフォームをつくりましょう」と持ち掛けたという。食産業の発展にはこうした取り組みがほかでも広がっていくことが期待される。

(後編へ続く)

<参考URL>
長野県連合青果株式会社
株式会社クボタ
KSAS クボタ スマートアグリシステム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。