最終目標は高度営農支援システム〜クボタ・飯田聡特別技術顧問に聞く【第2回】

農業機械とICTを利用してPDCA型農業を実現するため、農機メーカー最大手のクボタが提供する営農支援サービス「KSAS(クボタスマートアグリシステム)」。3つあるKSASの発展段階のうち、ステップ2、さらにステップ3について、前回に引き続き、飯田聡特別技術顧問に聞いた。

株式会社クボタ 特別技術顧問の飯田聡氏

日本型精密農業の進化

――KSASの進化ステップ2、日本型精密農業のさらなる進化について教えてください。

飯田:田んぼ1枚の面積がますます広がっていけば、1枚の中でも食味と収量でばらつきが出てくるようになりますね。では、どうやって均一化するか。その要望に応えるのがステップ2の日本型精密農業の進化です。

そのために収集するデータは4つあります。1つ目は、新たな精密収量・食味センサーを搭載したコンバインが計測する収量と食味。2つ目は、ドローンや衛星でのリモートセンシングによる生育情報。3つ目は、フィールドセンサーによる圃場環境や土壌肥沃度の情報。4つ目は、外部データから得られる気象や土質のほか、肥料や農薬などの資材情報など。

資料提供:株式会社クボタ

GIS(地理情報システム)をベースに、こうしたデータを圃場1枚ごとにレイヤーマップとして整理します。栽培を繰り返すたびにデータがたまっていく。そのビッグデータを分析して、可変施肥や適切な施薬及び水管理につなげる。このサイクルが回り出せば、極限まで省力化と省資源化が進んでいくでしょう。


圃場ごとのばらつきをなくす

――ビッグデータを活用して精密農業をする、というのは欧米では当たり前なんですか。

飯田:そうですね。向こうだと1枚が10haというのはざらにあり、日本よりもばらつきが大きいため、2000年代から普及が始まりました。KSASは日本市場向けに独自に開発しました。また、レイヤーマップにすることで、大型畑作でも利用できるようにしました。

資料提供:株式会社クボタ

ばらつきをなくすための核となるのはコンバイン。そこで、より精密なコンバインを2019年に本格発売します。従来機だと収量と食味の計測が圃場単位だったのを、数メートル単位にします。しかもこのコンバインはコメだけではなく、麦と大豆にも対応できる。これを畑作への展開の足掛かりにしたいです。

また、このコンバインには直接通信ユニットを標準装備し、収集したデータはクラウドに上げられるようにしています。

――ステップ2では、ほかにどんな機械やサービスを開発しているのでしょう。

飯田:ドローンにより広範囲の生育データを取れるようにリモートセンシング技術を開発しています。農業用のマルチスペクトルカメラで生育指標をグラフ化し、可変施肥を可能にしたい。ブロードキャスターや管理機だけでなく、ドローンでも追肥ができるようにします。

もう一つは、水田センサーと圃場水管理システム「WATARAS」との連携です。これはクボタグループのクボタケミックスがSIP(内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム)の中で、農研機構などと一緒に開発に取り組んでいるもの。水田センサーにより圃場ごとの水位をスマホで把握すると同時に、水の給排水も操作できるようにするものです。今年は300台を試験販売する予定です。

ちなみに、このサービスの基になっているのは、IoTによる水インフラの管理サービスとして官公庁向けに提供している「KSIS(クボタスマートインフラストラクチャシステム)」です。

――水位は生育ステージごとに設定するのでしょうか。

飯田:まさにそれをつくっています。品種ごとに植えた時期に応じて理想となる水位を設定できるようにしたいです。

――最後のステップ3はどんなイメージになるのでしょうか。

飯田:ひとことでいえば、高度営農支援システムの構築であり、フードバリューチェーンをみた最適な営農計画が立てられるようにすることです。

資料提供:株式会社クボタ

たとえばマーケットをみながら、何をいつ、どの程度作付けすれば儲かるのか、そのときの作業者の配置や機械の稼働などを見える化し、営農計画と作業のシミュレーションができるようにしたい。

これまでにも県の農業改良普及機関から指導を受けているケースはあるものの、ある程度はお客さんが自らそうしたシミュレーションができればいいなと考えています。

(後編に続く)

<参考URL>
株式会社クボタ
KSAS クボタ スマートアグリシステム
WATARAS
【特集】クボタが描くスマート農業の未来
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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