農家に便利な「チャットツール」のメリットとデメリットをご紹介 今年こそ電話とFAXから脱却しよう

ITツールを活用した業務の効率化や生産性向上といったスマート農業は、何も最新のロボットトラクタードローンだけではありません。日々の連絡・報告や作業の管理などの効率化を図りたいと考えている方におすすめなのが「チャットツール」です。

農業では、依然として電話やFAXを利用しての注文や連絡、Eメールを用いた業務が中心となっていますが、スマホさえあれば使えるその手軽さから、高齢の生産者の間でも急速にチャットツールの利用が進んできています。

そこで本記事では、チャットツールの農業での活用方法やメリット・デメリットをまとめました。実際に農業関係者が導入した事例も紹介するので、ぜひ参考にして下さい。

チャットツールとは


農業の現場では、発注業務や従業員同士のコミュニケーションなど、あらゆる情報共有において電話やFAXをメインに使用しているという方が多いと思います。しかし、農業の課題である高齢化や担い手不足といった現状を打開するためには、コスト削減や作業の効率性を向上させることが重要です。

その最初の一歩として役立つのがスマホなどで使える「チャットツール」です。最近ではメールよりも手軽に使える使い勝手の良さから農業界でも浸透しつつあり、大規模農業法人だけでなく小規模な生産者でも活用され始めています。

チャットツールには大きく分けて、「LINE」などのプライベート向けと、「ChatWork」などのビジネス向けに作られた2種類があります。ビジネス向けと聞くと少し難しそうなイメージを抱くかと思いますが、使ってみると意外と簡単で農業現場でのさまざまな業務に活用することができます。また、セキュリティや複数人での使いやすさなどにも配慮されています。


農業でビジネスチャットツールを利用するメリット


業務でチャットツールを利用するのであれば、やはりビジネス向けのチャットツールがおすすめです。農業でビジネスチャットツールを利用するメリットを見ていきましょう。

作業員同士のコミュニケーションがスムーズに


チャットツールの最大のメリットは、リアルタイムで複数人とやり取りができるという点です。農業の現場では、複数の圃場が点在していることがよくあると思いますが、現場で作業するスタッフが他の圃場にいる人に何か連絡したいことがあるときなど、情報共有がスムーズに行えます。

もちろん、電話でもやり取りはできますが、電話に出るために作業を中断しなくてはならないこともあるかと思います。チャットであれば返信が必要なとき以外は内容だけ確認してあとで返信することもできるので、業務に支障をきたすこともありません。

タスク管理が行える


ビジネスチャットツールには「タスク管理」といって、やるべきことに期日を設けて従業員全員で共有できる機能を備えたものがあります。この機能を活用することで、圃場の管理作業から事務作業まで、業務の抜けや漏れをなくし効率化にもつながります。

情報管理がしやすい


チャットツールを使ってのやりとりでは、招待したメンバーのみでの会話になるので、余計な情報が入ってくることはありません。また、グループ内での会話はすべてログとして記録されるので、時間が経ってから気になることが出てきたときなど、過去のメッセージを検索して探すこともできます。

高度なセキュリティ機能を備えている


業務連絡で「LINE」のようなプライベート用のチャットツールやメールを利用している場合、誤送信などによる情報漏洩リスクが発生する可能性も出てきます。その点、参加者が限られているビジネスチャットでは、外部の人に誤送信してしまうこともありません。

また、ツールによっては認可済みのIPアドレスのみからアクセスを可能にする「IPアドレス制限機能」が実装されていたり、データを暗号化し外部から見れないようにすることも可能なため、より安心して仕事の連絡を行うことができます。

スマート農業ソリューションとの連携も


農業向けに開発されたチャットツールでは、スマート農業製品と連携することもできます。圃場の状況を見える化するICTソリューションなどからの通知をチャットツールで受け取れれば、アプリをいくつも起動する必要がありません。

ビジネスチャットツールを利用するデメリット


うまく活用すれば業務の効率化にもつながるチャットツールですが、デメリットが全くないという訳ではありません。導入後のトラブルを避けるためにも、懸念点を把握して解決策を考えておきましょう。

導入までに障壁がある場合も


スマホやチャットツールを普段から利用している方であれば問題ないと思いますが、デジタルに不慣れな方やスマホ自体を持っていないという方がいると、導入が難しい場合もあるでしょう。また、アプリを入れたけどそこから先の設定がわからず、サポートが必要になることもあるかと思います。

ビジネスチャットツールを導入する前にマニュアルを整備することも必要ですが、難しそうな場合は少人数だけでグループを作って徐々に広げていくというのもおすすめです。特に年齢層が幅広い職場では、できるだけわかりやすいシンプルなサービスを選択するようにしましょう。

料金がかかる場合がある


ほとんどのビジネスチャットツールは無料ではじめることができますが、チャット以外の機能を利用したいとなると有料になってしまうことがあります。とはいえ、基本的なチャット機能は無料で使えるものが多いので、まずは無料のプランではじめてみて必要な機能がでてきたら有料プランに切り替えるのがおすすめです。

休日などにやりとりが発生することも


チャットツールは手軽にメッセージを送ることができるため、休日や業務時間外のやりとりが発生してしまうことがあります。業務時間外に仕事の連絡が来ることに抵抗がある人もいるので、誰もが気持ちよくチャットツールを活用するためにも社内でルールを設ける必要があります。

どうしても伝えておかないと忘れてしまうといったシチュエーションが想定されるのであれば、予約投稿ができるチャットツールを選ぶのもおすすめです。

おすすめのビジネスチャットツール4選


ここでは、おすすめのビジネスチャットツールを紹介します。代表的なサービスから農業向けのサービスまで、それぞれの特徴を見ていきましょう。

LINE WORKS


出典:https://line.worksmobile.com/jp/
LINE WORKS(ラインワークス)は、プライベートで利用している方も多いLINEのビジネス版です。社員やアルバイトの人はもちろん、近隣の農家や生産部会の人などとそれぞれグループを作り連絡を取り合うことができます。

チャット機能のほかに、メンバー内で気づいたことをメモに残して共有できるノート機能や、メンバーの予定を管理できるカレンダー機能、写真や書類を共有・管理できるファイル共有機能、離れた圃場から急ぎの用事で連絡したい場合には音声通話やビデオ通話など、業務で活用できるさまざまな機能を無料で使うことができます。

LINEと機能や操作性は似ているものの、別のアプリになるので、個人で利用しているアカウントや友達リストと連携することはなく、プライベートと仕事を分けて利用できます。

料金プラン
フリー:ユーザー数100人まで無料(使える機能に制限あり)
スタンダード:1ユーザーあたり月額450円 ※年間契約
アドバンスド:1ユーザーあたり月額800円 ※年間契約
公式サイト:https://line.worksmobile.com/jp/

Farm Chat


出典:https://farm-chat.com/
Farm Chat(ファームチャット)は農家向けに開発されたチャットツールです。基本的なチャット機能の他に、市況や気象情報、農薬検索といった農業に関する便利な機能が備わっています。グループ内では、直売所の出荷履歴や収量調査など、さまざまな状況に対応した調査が行える機能も。

他のシステムとの連携機能も充実していて、JA向けの情報共有アプリ「ファームボックス」や農水省の「MAFFアプリ」をはじめ、AI潅水施肥システム「ゼロアグリ」、農業向け経営管理クラウドサービス「RightARM」といったスマート農業製品からの情報も受け取ることができます。

料金プラン
個人利用:無料(チャット・グループ情報共有などの機能は利用不可)
グループ利用:1ユーザーあたり月額300円
公式サイト:https://farm-chat.com/

Chat work

出典:https://go.chatwork.com/ja/

 

Chat work(チャットワーク)は、複数人でやり取りする「グループチャット」、1対1の「ダイレクトチャット」、メモ代わりとして使える「マイチャット」など、チャット機能が充実したサービスです。シンプルな操作性と使いやすいタスク管理機能が特徴で、遠くの圃場にいる作業員に指示を出したいときなどにも便利なツールとなっています。

音声通話やビデオ通話、ファイル管理など機能面では「LINE WORKS」と似ている点も多いですが、既読機能がないので返信に対するプレッシャーを感じづらく、自分のタイミングで返信できるというメリットもあります。未読のメッセージをメールで通知してくれるので、見逃しを防ぎたいという場合にもおすすめです。

料金プラン
フリー:ユーザー数100人まで無料(使える機能に制限あり)
ビジネス:1ユーザーあたり月額500円 ※年間契約
エンタープライズ:1ユーザーあたり月額800円 ※年間契約
公式サイト:https://go.chatwork.com/ja/

Slack


出典:https://slack.com/intl/ja-jp/

Slack(スラック)はアメリカ発のビジネスチャットツールです。基本的なチャット機能や通話機能については他のチャットツールと共通している機能も多いですが、連携できるアプリやサービスは2400以上(2022年12月時点)と、カスタマイズ性の高さが特徴となっています。少し上級者向けなので、ITに強い人材がいて業務を大幅に効率化したいという場合におすすめのサービスとなっています。

チャットツールでは、メンバーが多い場合やコミュニケーションが活性化されたときなどにメッセージが流れてしまうことがありますが、Slackの「スレッド機能」を使えば特定のメッセージのみに返信できるので、トークルームが整理され見やすいというメリットがあります。

また、「クリップ機能」を使えば最大5分間の動画を簡単に録画して送ることができるので、圃場の状態を共有したい場合などにも便利です。

料金プラン
フリー:無料(使える機能に制限あり)
プロ:1ユーザーあたり月額925円 ※年間契約
ビジネスプラス:1ユーザーあたり月額1600円 ※年間契約
公式サイト:https://slack.com/intl/ja-jp/

WowTalk


出典:https://www.wowtalk.jp/

Wow Talk(ワウトーク)は、シンプルな操作性で年代問わずに直感的な操作が行えるビジネス向けチャットツールです。無料トライアルはあるものの基本は有料のサービスで、チャット機能や通話機能をはじめ、タスク管理やファイルの送受信、掲示板機能など、他のチャットツールにもある機能を利用できるのはもちろん、テンプレートから簡単に記入できる日報機能も備えているのが特徴です。

22カ国語の言語が翻訳できるので、外国人就農者との情報共有に使えるチャットツールを探している方におすすめのサービスとなっています。

料金プラン
シンプル:1ユーザーあたり月額300円(使える機能に制限あり)
スタンダード:1ユーザーあたり月額500円
プロフェッショナル:1ユーザーあたり月額800円
公式サイト:https://www.wowtalk.jp/

チャットツールでどう変わる? 農業現場での導入事例を紹介


チャットツールがなんとなく便利そうということは伝わったと思いますが、「電話じゃダメなの?」「メモ用紙に書いて伝えれば事足りる」「作業しているとスマホを操作するのもやりにくい」といった声もあるかもしれません。

そこで、実際にこれらのチャットツールが農業現場でどのように活用されているのか、すでに導入している事例を見ていきましょう。


JA鳥取西部──「LINE WORKS」で農家とJA職員の連携がスムーズに


鳥取県米子市に本所を構えるJA鳥取西部(鳥取西部農業協同組合)は、電話では繋がらない場合がある生産者とのコミュニケーションをスムーズに行うため、チャットツールの導入を検討。プライベートでは「LINE」を利用している農家が多いことから、操作がわかりやすい「LINE WORKS」を採用しています。

チャットツール導入後は、農家とJA職員が円滑に連携できる環境となり、農作物に関する知識などを掲示板で共有することで、生産者からの相談にも素早く対応することができるようになったそうです。

また、若手の営農指導員では解決できない問題も、品目ごとのグループトーク機能で共有することで知識のある先輩職員に対処してもらえたりとスピーディーな情報伝達が可能になっています。


新潟県 カガヤキ農園──「Chatwork」の履歴機能でミスの削減や効率化を実現


新潟県の農業生産法人カガヤキ農園では、主な連絡手段は電話やFaxを中心としていてメールすらも使用していない状況でした。しかし、農機の運転中の通話の危険性や情報共有の難しさから「Chatwork」を導入。主に社内全体や部門ごとの情報共有に活用していて、天候に左右される出荷スケジュールをリアルタイムで速やかに共有できるようになったそうです。

また、チャットツールを使うことで電話やメモと異なりやりとりの履歴が残るので、マニュアルの共有によるミスの大幅削減など、業務の効率化につながったと言います。


JA沖縄中央会──「WowTalk」で外国人就労者とのコミュニケーションが円滑に


JA沖縄中央会(沖縄県農業協同組合中央会)では、農業分野における外国人材の派遣事業を開始したことをきっかけに、「農業者」、「外国人就農者」、「JA沖縄中央会」の3つを結ぶことができる「WowTalk」を導入しました。

WowTalkでは22カ国語の言語が翻訳できるので、生活習慣や文化が異なる外国人就農者へのトラブル回避のための注意喚起や、必要書類の提出期限の周知に活用。生産者に対しては現場での労務管理としてタイムカードの画像などを送ってもらい、外国人就農者が打刻した情報との照合を行っています。

無料のサービスから始めてみよう


ビジネス向けチャットツールは、従業員同士の気軽なコミュニケーションや業務の効率化を実現できる便利なサービスです。使いやすさ重視であれば若者から高齢者までユーザーが多い「LINE WORKS」、農業に特化したさまざまな情報も得られるチャットツールを利用したいのであれば「Farm Chat」というように、目的をしっかりイメージしておくと選びやすくなります。

単に連絡手段をチャットにすることで、スマホの通信量を抑えたりできる(電話や4Gなどの回線ではなく、圃場や事務所のWiFiを使うなど)ことのメリットも大きいでしょう。使い方がわからないという人なら、最低限の連絡と業務メモだけから始めるといったことでもいいと思います。

チャットツールを導入するかどうか迷っていたり、使いこなせるかわからないという場合は、無料で利用できるものから始めてみてはいかがでしょうか。


LINE WORKS:「【導入事例】 JA鳥取西部(鳥取西部農業協同組合)」
https://line.worksmobile.com/jp/cases/ja-tottoriseibu/

Chatwork:「農産物の出荷がリアルタイムに把握でき、ケアレスミスも1/10に」
https://go.chatwork.com/ja/case/kagayaki.html

WowTalk:「沖縄県農業協同組合中央会」
https://www.wowtalk.jp/case/ja-okinawa.html

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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