コメとイチゴで周年生産&雇用確保──秋田県が取り組む「園芸メガ団地構想」の効果

秋田連載の最終回では、まず秋田県庁を訪ねた。目的は、県が掲げる水稲偏重からの脱却としての「園芸メガ団地構想」を取材するため。

すでに何度か述べた通り、秋田県は稲作地帯だからこそ、長期的な米価の下落に危機感を抱いている。

「園芸メガ団地構想」とは?

対応してくれたのは秋田県の園芸振興課。「メガ団地構想等大規模園芸拠点育成事業」の概要について尋ねると、次のような答えが返ってきた。

当初定義した「園芸メガ団地」は、原則として1カ所に団地化し、野菜や花きなどで1億円の販売額を目指すこと。ただ、規模の大きさから取り組み事例があまり出てこなかったのか、その後は「園芸メガ団地」の意味を拡大解釈し、「ネットワークタイプ」と「サテライトタイプ」などを用意した。

秋田県・「園芸メガ団地及びネットワーク型園芸拠点の事業概要」(PDF)より)

前者は、主要品目を原則共通とする複数の団地(1団地3,000万円以上)が生産や販売で連携し、1億円の販売額を目指す。

後者は、核となる園芸メガ団地の周辺地域に立地し、そこと主要品目の生産と販売で連携しながら、販売額3,000万円以上を目指す。県内ではこうしたメガ団地が20カ所で誕生。さらに13カ所で構築中だという。

対象となる品目は野菜と花き、果樹はいずれも5つ、きのこは菌床しいたけ。といっても、園芸はおうおうにして水田農業より人手がかかる。そこで機械化を検討している。

たとえば醸造用ブドウの生産。2016年に就農した農家のもとでは欧州の産地では一般的な垣根仕立てにして、イタリア製の多目的4WD作業車で農薬の散布やトリマー、スイングモア、バックホーなど一連の作業をこなしていく。いずれもアタッチメントを交換するだけでいい。

このうち意外だったのは、イチゴを入れていることだ。日本海側で日照量が少ないなか、どうやって育てるのか。気になったので、県庁を後にしてその産地化を進める大仙市に向かった。

大仙市は本連載の1〜2回目に登場した株式会社RICEBALLが大規模稲作を展開しているように、見渡す限りの水田地帯である。ここで稲とイチゴを作っているのは大槻四郎さんが代表を務める有限会社アグリフライト大曲だ。

大量離農で拡大する農地を「KSAS」で管理──株式会社RICEBALL(前編)
KSASコンバイン×乾燥機連携でコメの品質を均一化──株式会社RICEBALL(後編)

複合環境制御を導入し、イチゴを栽培

イチゴを栽培しているのは7棟のハウス。最初に建てた3棟はパイプハウスで、残りはすべて鉄骨ハウスだ。パイプから鉄骨に切り替えた理由は、ハウス内の環境を制御するため。「パイプだと熱気がこもるうえ、側窓を開けてもなかなかそれが抜けなかった」(大槻さん)。対して、鉄骨だと天窓を開ければ、早いうちに室温を下げられる。


この鉄骨ハウスの特徴は何よりも、ハウス内の環境をセンシングし、作物が育ちやすいようにそれを制御する仕組みを構築している点だ。そのために2017年に設置したのが、株式会社イーラボ・エクスペリエンスが開発したセンシング機能と通信技術を兼ね備えたセンサー「フィールドサーバ」。県の実証事業で室温や湿度、炭酸ガス濃度、日射量を計測している。


2017年度にわかったのは、日射量が不足していること。日本海側特有の悩みとして予測はしていたことだが、センシングによりあらためて確かめられた。2018年度はこの結果を踏まえ、光を補うためのLEDを取り付ける。

加えて、炭酸ガス発生装置のほか、加温にボイラーやヒートポンプも設置した。これらを複合的に制御しながら光合成を活発にする。「フィールドサーバ」でデータを取りながら、制御を最適化する方法を探るのだ。


ちなみに、3棟あるパイプハウスの加温については稲作農家ならではで、米ぬかペレットを燃料にしたボイラーを導入している。ただし、もみ殻を燃やすと1,000度以上になるものの、既存の炉は耐久性が低く、高温すぎると内部が溶けてしまうという悩みもあるそうだ。


園芸振興のためには周年雇用体制の確立も必要

ところで、大槻さんがイチゴを作り始めたのは5年前。その理由とは?

農業法人って雇用が非常に難しい。秋田県は水稲が主体の農業法人が大多数なので、夏場は仕事があるものの、冬になると雪が積もって何もできない。そうすると雇用労働者は確保できないんだ。通年で雇用する体系にしないと、働き手は別の職場に移ってしまう。だから、コメとイチゴで年中仕事があるようにしようと思ったんだ」


大槻さんは今回の実証実験の成果を踏まえ、周辺の農家とイチゴ団地をつくっていく。なにより地場産イチゴの需要はとどまるところを知らない。

「消費者は県内産を欲しがる。とにかく注文はすごくあります。個人のお客さんがハウスにまで買いに来るくらいですから」

その期待に応えるには、地場でいかに安定して作れるか。そこはコメとイチゴの年間雇用体制が築けるかにかかっている。


<参考URL>
園芸メガ団地等の全県展開に向けた取組(PDF)
園芸メガ団地育成事業の概要(PDF)
フィールドサーバ(イーラボ・エクスペリエンス)

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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX(現在登記準備中)を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。