農家が開発した水口監視IoTシステムで見回り頻度を減少──五平農園

これまで、高齢化と人口減少に向けた秋田県のさまざまな取り組みを紹介してきた(ページ下部の連載リンクを参照)。

今回は、個人が製作した非常にシンプルな水田のIoT水位監視システムの例を紹介しよう。

80枚の水田管理のために朝夕に見回り

五平農園(秋田県由利本荘市)の佐々木亨さんは、水田の畦に立て、遠隔地から用水路をウェブカメラで監視する装置を開発した。周囲の農家が離農するのに伴い、経営する水田面積が広がり、見回りが難しくなってきたため。

佐々木さんは元プログラマー。大分や東京の会社で勤務した後、10年前に現在の場所で実家の農業を継いだ。経営の概要は水稲のほか、ハウスで作る200坪のミニトマトと200坪のほうれんそう。


水田面積は就農してからしばらくは当初の2ヘクタールから微増する程度だった。面積を増やしたくてJAに相談したこともある。それが、5年前くらいから放っておいても周りからの委託が増え、ついには20ヘクタールに到達した。しかも一部の依頼は断っているという。

「日当たりが悪かったり、1枚当たりの面積が10アール以下のような小さいところは受けていません。作業効率が悪くなりますからね」

規模が広がるに従い、悩みの種となってきたのが水田の見回り。目下、20ヘクタールで80枚。見回りの頻度は1日当たり朝夕の2回が理想だという。それにかかる時間は半日にもなる。

用水路からの堰板で水田の水位を調節

それにしても、なぜ頻繁に見回りする必要があるのか。

五平農園が管理する用水路では田へ直接に水を引き込むポンプはない。田に入る水量は、用水路に挟み込む堰板の枚数と、水口に挟み込んである樋板の開閉度によって決まる。ここに毎日2回にわたって見回りする理由がある。

水管理の方法はおおむね次の通り。

朝方に田の水位を確認した際、次の見回りの時間である夕方に狙うべき水位となっているよう、入水量を調整する。この作業は朝夕が逆転することもある。

いずれのケースでも、いじるのは主に二つ。一つは用水路の堰板。これを差し込むことで、用水路の水位を上げて、水口に水を引き込める。もう一つは水口の樋板の開閉度。このにつによって田に入る水量が決まってくる。

市販製品で水位監視システムを自作

ただし、水量を決定する要因はもう一つある。用水路を流れる水の量そのものだ。上流の田にどれだけ引き込まれたかによって、下流にある五平農園の田に入水する量や速度は変わる。

そこで、開発した今回の監視装置では、堰板に当たる水しぶきを監視することにした。撮影した画像からは水の勢い、つまり水量がおおまかに把握できる。それに水口の樋板の開閉度を踏まえ、田に入る水量がざっとわかると考えた。


この装置の製作に当たって使ったのは主に次の機材。3000円で入手したウェブカメラ(USB接続)、3Gモデム、自分でプログラミングした自作の小型コンピューター、田の水位を計測するセンサー。これをボックスに入れて、ポールで畦際に立てる。そして水口付近を撮影し、15分刻みでサーバーへと画像とセンチ単位の水位を送信するようにした。


一年目は装置が稼働しないなどのトラブルはあったものの、概して期待通りに画像を取得し、見回りの頻度を減らすことができた。

監視の経験から水量の予測が可能に

期待していた以外で良かったことがある。ウェブカメラで水口を注意深く監視したことで、その付近の用水路が、いつ、どの程度の水量になるかがざっとわかるようになってきたのだ。

それはつまり、上流の農家がどんな水の使い方をしているかが読めるようになったことでもある。結果、堰板の開閉度の確度を高められるようになった。「おまけにウェブカメラがなくても頻繁に見に行かなくてもよくなった」と佐々木さん。

ここでオチがある。2年目となるはずだった今年、とあるメーカーから類似の製品が登場したのだ。佐々木さんが開発に取りかかることにしたのは、その当時、市販品がなかったから。来年からはその製品を導入する予定でいる。

ただ、佐々木さんはその機能に満足していない。というのも、その市販品は水位センサーが付いていないのだ。一方で水位センサーも市販化されているが、こちらは用水路の撮影機能がない。双方の機能を兼ね備えた製品の登場を待ち望んでいる。


五平農園(Facebook)


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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