村内全域でGPS自律制御農機を運用可能にした村──秋田県大潟村の取り組み

高齢化率と人口減少率が全国で最も際立っている秋田県の市町村にあって、住民のほとんどが専業農家である大潟村は事情がいささか異なる。いずれの数字も、県庁所在地である秋田市に次いで低い。

とはいえ、半世紀以上前に国内で二番目に大きな湖沼だった八郎潟を干拓してできた、水田稲作が中心の大潟村の農業が、この先しばらく安泰というわけでは決してない。


「離農が少ない」という大潟村特有の悩み

大潟村が安泰でいられない理由は、いくつかある。

まず、最重要品目であるコメという視点でみると、その価格は政治的な誘導策からここ数年上がっているものの、長期的にみれば需要が減っているために下落傾向にある。コメの総需要量は毎年8万トンの勢いで減っていて、今後も厳しい状況であることに変わりはない。

続いて、各経営体の規模でみると、かつては「日本一大きい」とされてきたが、村の農家は「いまや日本一小さい」と自嘲するようになった。誇張はあるものの、1経営体当たりの平均経営面積が17haというのは、全国で100haや200haといった経営体が続々と誕生している中では、確かに小さいといえる存在になってしまった。

では、規模を拡大できるかといえば、その期待が薄いのが彼らの悩みである。17haを家族だけで稲作していれば、その収入だけでそれなりに生活できる。だから、多くの経営体に後継者がいて、離農が進まない。結果、誰もが村内では面積を広げられない、という状況に陥っている。とはいえ、長期的にみれば米価はじりじりと下がっているので、多少の焦りを持っているのが実情だ。


輪作にタマネギを奨励し、北海道の端境期を狙う

迫りくる危機に備えるため、JA大潟村が稲との輪作で奨励し始めたのが加工用タマネギだ。なぜか――。

理由の一つは、全国でタマネギの年間供給体制が十分に整っていないこと。


全国の生産量をみると、北海道産が7割と圧倒的だが、端境期(はざかいき)がある。北海道に続いて兵庫県産と佐賀県産がほぼ同じ生産量であるものの、それでも北海道産の1割程度。佐賀県ではここ数年、べと病が多発し、安定的に生産できなくなっている。それもあって実需者からは、北海道の端境期を埋めるべく、東北地方で供給基地をつくってほしいという要望が強くある。

もう一つの理由は、現状の家族経営のままで機械化ができるからである。

秋田県の高齢化率と人口減少率の高さは冒頭に述べた通り。野菜は往々にして人手がかかるが、周辺市町村からの雇用はまず望めない。家族で作れて、なおかつコメづくりと作業が重ならない作物が、タマネギだった。


自律直進田植機で作業速度が20%アップ

JA大潟村は必要となる機械のほとんどを組合員の農家にリースしている。目玉の一つが自律直進するトラクター。農地においてGPSであらかじめ走行する経路を設定しておけば、オペレーターが操縦しなくても、真っすぐに進みながら肥料の散布と同時に耕うんと畝立てをしてくれる。事前に設定した経路との誤差は数センチに過ぎない。

これが可能なのは、村内の3カ所にGPS基地局を設置したからである。これで村内どこでもGPSに対応した農機を使える環境が整った。


JA大潟村がGPSでほかに試そうという動きがあるのは、自律直進田植機。2018年の春に公開実験をしたほか、何件かの農家に試験的に使ってもらった。小林肇組合長曰く「評判は良かった」という。

「苗を植えるとき、これまでは落水しなければならなかった。なぜなら、田植機に装着するマーカーで田面につける筋が見えなければ、旋回した後にまっすぐ走れないから。ただ、落水すると、八郎湖の水質の汚染につながる」

八郎湖は干拓事業が完成してから富栄養化し、アオコが大量に発生するようになった。

自律直進田植機は省力化にもなる。これまではオペレーターは田植えの最中に苗を補給する際、一度停車してから行っていた。自律直進でハンドル操作が不要なら、停車しなくてもそれが可能だ。

小林組合長は「田植えにかかる作業速度は20%アップした。来年以降はさらに取り組む農家が増えるだろう」と語る。


JA大潟村は、スマート農業アグリテックへの関心が高い。2019年には東光鉄工(秋田県大館市)と連携して、ドローンによる精密施肥も実施する予定だという。

<参考URL>
大潟村農業チャレンジプラン
GNSS田植機用自動操舵システム実証試験|水土里ネット秋田
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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