大量離農で拡大する農地を「KSAS」で管理──株式会社RICEBALL(前編)

農業の生産現場では多くの農家がいっせいに辞めていく大量離農が始まった。残る農業者や産地は拡大する農地をどう管理し、経営を変革していけばいいのか。

今回から4回にわたって、高齢化率と人口減少率が全国で最も高い、秋田県のスマート農業への取り組みからヒントを探る。

自社製のコメを使ったおにぎり屋を自営──株式会社RICEBALL


株式会社RICEBALLは、秋田県大仙市にある70haを超える水田で米を作るほか、東京と兵庫に計7軒のおにぎり屋「ONIGIRI ICHIGO」を開業している。店で使うコメはもちろん自社製。農業法人がおにぎり屋を自営するのも珍しければ、創業した理由もほかの農業法人と比べて変わっている。

きっかけは、農協を退職した父親が農地を買い、近所の農家にコメづくりを依頼したこと。父親は収穫されたコメを、当時関西で仕事をしていた鈴木さんに送ってくれた。鈴木さんが、友人の母親にそのコメを贈呈すると、「おいしいので買いたい」と思わぬ反応が返ってきた。といっても値段をいくらにすればいいのかがわからない。その主婦に普段買っているコメの値段を尋ねると、JA出荷の2倍程度だった。

そこで鈴木さんは、コメを集荷する個人事業主として始業する。大仙市の農家からコメを集め、それを知り合いの個人や飲食店などに売って回った。取り扱い量が年々増えていったため、2009年に仲間たちと一緒に法人化。同時に農業生産に乗り出す。離農する農家からの委託が毎年増え、いまの面積にまで一気に広がった。

作業記録・農地管理はクラウドサービス「KSAS」で

問題になったのが、農地をどう管理していくかである。

筆者が取材で訪れたのは大仙市にあるライスセンターを併設する事務所。ここで鈴木さんと話をしていると、しばらくして戻ってきたのは農機メーカー・株式会社クボタが提供するクラウド型の営農支援サービス「KSAS(クボタ スマート アグリシステム)」に対応したコンバイン。これが先の問題に対するひとつの答えである。


KSASでは、Googleマップで農地1枚ごとに農作業の計画と結果を記録できる。作業管理の担当者は事務所のパソコンで個々のオペレーターが、いつ、どこで、何をすればいいのかについて入力する。農機に乗り込んだオペレーターは、スマートフォン(スマホ)の専用アプリケーションで指示された内容を確認しながら、目的地に向かう。作業の開始時と終了時にはスマホでタップする。すると作業した人や内容、時間などが自動的に記録される。

鈴木さんはKSASを知る前、作業の計画や記録は紙に書くつもりだった。これはいまでも多くの農家が取っている記録方法だが、当然ながら時間がかかるし、煩雑である。

以前、実際に紙に書いて記録している東海地方の某法人を取材したことがある。当時、すでに同社がこなしている面積は受託も含めて100haを越え、農地の枚数に至っては2000枚以上もあった。農作業を請け負っている地域ごとの地図を見せてもらうと、土地の区画ごとに個人名が書かれ、それぞれ青や赤、黄などのマーカーで囲んである。個人名は地権者であり、マーカーの色はこなすべき作業の内容を表している。

農業機械のオペレーターは毎朝、事務所でこの地図を受け取り、そこに書き込まれた指示の通りに作業をこなしてきた。一日の作業を終えて事務所に戻ったら、その日の作業の流れを別の紙に手書きする。そして、事務員の1人が集まってきたメモをもとに、それぞれのオペレーターが作業した内容をパソコンに入力するという段取りになっていた。話を聞くだけで、いかに面倒な手順を踏んでいたかがわかる。

オペレーターはメモ書きするのに数十分を要するので、少なくない残業代が発生する。また、作業受託の請求書づくりはパソコンに打ち込んだデータを基にしている。もし記入漏れがあれば請求できないまま。疲れて帰ってきたオペレーターが正確にメモを書けるかといえば怪しい。某法人の代表は「実際、かなり請求漏れがあったと思う」と振り返っていた。



RICEBALLはいきなりKSASで管理を始めたので、こうした煩雑な作業をすることはなかった。加えて、以前であればオペレーターが誤り、別の人が耕作している隣の田で作業をしてしまったこともあったという。

農地が400枚以上もあるので、自分たちが管理している田の位置をすべて覚えることなど難しい。おまけに受託面積は毎年増えている。それがKSASを導入したことで、スマホで作業すべき田の位置が地図情報で確認できるようになったので、ミスはなくなった。

次回は、KSASを活用して一定品質以上のコメをおにぎり屋に提供する方法を紹介する。

(後編へ続く)

<参考URL>
株式会社RICEBALL
株式会社クボタ
KSAS クボタ スマートアグリシステム
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WRITER LIST

  1. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  3. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
  4. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  5. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
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