人口爆発、食糧難で未来の日本はどうなる?【特別対談・菅谷俊二氏×奥原正明氏(3)】

2019年5月に株式会社オプティムのエグゼクティブアドバイザーに就任した奥原正明氏と、株式会社オプティムの菅谷俊二社長との対談企画。

第3回は、人口減少、食糧危機などが現実のものとなる数十年後の未来の農業について伺った。

第1回:日本の農業の未来のために、いま私たちが考えるべきこと【特別対談・ 菅谷俊二氏×奥原正明氏(1)】
第2回:農機も資材も農作業もシェアリングの時代へ【特別対談・菅谷俊二氏×奥原正明氏(2)】 

食糧危機は来るのか



編集部:人口爆発と食糧難の話は昔から議論されていますが、結局は食糧難にはならないという楽観論もあります。未来のことは未来にならなければわからないという。

菅谷:人口爆発に関しては、統計的に見ても収まるんじゃないですかね。

奥原:そうですね。ただ、食糧難の方は、発展途上国も経済力がどんどんついてきますから、日本の経済力次第で難しい問題になるかもしれませんね。

私が農水省に入省した動機の1つに、将来人口問題で食糧が足りなくなるかもしれないという思いがあったんです。だからこそ、こんな農政ではダメだからなんとかしたいと思って入省したんですが、私が農林水産省に勤務した40年の間には勤めて食糧難には全くならなかったんですよ。予想は全く外れているわけです。

でも、これまでは発展途上国の人口が増えても購買力はないという状態だったわけですが、これからはそうじゃない。どんどん途上国も経済成長して、食べ物を買う力はついてきているじゃないですか。IT技術なども後発の国の方が有利な状況ですからね。

これから途上国が相当なハイペースで経済成長していくことになった時に、日本だけが輸入食料に依存して今の食生活を維持していけるかと言ったら、非常に難しくなると思います。

だからこそ、その時に日本国内の農業をどういう形にしておくのか、真剣に考えなければいけません。少なくとも、できるだけ自給できる体制を取っておく必要があると思います。


「食料自給率」よりも「自給体制」が重要

編集部:食料自給率については異なる指標が同じような意味で用いられていて、「危機だ」という人と「そんなことはない」という人で意見が分かれていると思うのですが、奥原さんはどうお考えですか?

奥原:“自給率”は高いほど良いとは思いますが、それ自体を目標にしてみてもあまり意味はないと思います。大切なのは極力自給できる体制であり、“自給体制”は常に工夫しておかないといけない。だから、優良な農地はできるだけ確保しておきたいし、きちんと経営できる経営者の確保数も必要です。

作業者の数も必要だけど、これは機械化との相関関係だから、ITやAI、機器のロボット化によってカバーできるのであれば少なくてもいい。そういった技術も含めて、この自給体制をできるだけ整備しておくことが大事だと思っています。

編集部:その体制を維持するためには、経営的観点を持っている方が存在することが大事ということですね。

奥原:そうですね。経営力のある生産者がこの10年で2倍以上になっていますから、法人経営を中心とする担い手農業者が増えているのは間違いありません。この方たちが自由に経営できる環境をつくってあげることが大事ですね。

農協の問題というのはここで出てきます。農協もいろいろですが、組合員に対して、農協に農産物を出荷する、あるいは農協から生産資材を買うことを事実上強制しているようなところもあります。これでは、伸びる生産者も伸びないままで潰れてしまう。これだと将来の自給体制は全く展望がなくなる、ということなんです。出る杭は打つのでなく、伸ばしていかなければいけません。

自分の頭で考えて創意工夫しながら経営する農業者が、日本の農地全体をカバーできるくらいの人数はいてもらわないと困る、ということなんです。



リスクが少なく平均年収も高い農業を実現するために

奥原:よく「魅力ある農業とはどんなものか」が話題に上りますが、どんな農業法人なら働きたいと思うかと問われたら、それは「給料が高くて休みが多いところ」ですよね。それを経営者が実現しないと、どこの産業においても人は働いてくれない。

そういう意識を持った経営者が増えていかないと、農業はそうはなりません。経営のリスクを負わず、土日も休めて、長期休暇もついていて、しかも年収も高いともなれば、みんな農業をやりますよ。それらにプラスして、仕事の意義、やりがいも感じられることが必要なんだと思いますけどね。

編集部:つまり、他の市場原理の産業と考え方は同じで、農業だけを聖域にしないということですよね。

奥原:農業も日本経済の一部ですから、同じ考え方が基本になければ発展しようがないと思います。もちろん、食料を生産する農業は重要な産業ですし、農業は農業の特徴があるのは事実です。しかし、他にも重要な産業はたくさんあるし、それぞれ特徴はあります。農業の特徴を踏まえた政策にすることは必要だと思いますが、聖域にしてしまえば発展しなくなります。

菅谷:個々の生産者さんはそれぞれものすごくご苦労されていて、リスクも自分で負っているわけです。でもなぜそうなっているのかまで考えられない状態に陥らされているのではないでしょうか。

何が変わればこの状況から抜け出せるのかまでは考えられず、ただひたすら今日がしんどい、明日がしんどい、明後日がしんどい、これは環境のせいだ、というような思考にさせられている気がします。

最初の話に戻るのですが、私は佐賀大学の農学部に入って、こんなにしんどくて大変な仕事が儲からないのはおかしいと思ったんです。でも、農業っていま現在もそういうものじゃないですか。それで担い手も少ないわけですから。

編集部:自給率より自給体制とおっしゃいましたが、実際のところ、その自給力はどういうふうに測れるものでしょうか?

奥原:達成目標(KPI)を作ることにはあまり意味はないと思います。優良な農地が減っていくのは困るから確保する。人材は優秀な農業経営者がどんどん経営を発展させていけるような仕組みにしていく。これが重要です。変な数字の目標を決めるのでなく、自由に市場原理のなかで、農業経営をしていただくことの方がはるかに大事です。

日本は社会主義国ではないので、無理に数を調整するとか、そういうことはあまりやってはいけないと思います。


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、福岡県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方、韓国語を独学で習得(韓国語能力試験6級)。退職後、2024年3月に玄海農財通商合同会社を設立し代表に就任、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサルティングや韓国農業資材の輸入販売を行っている。会社HP:https://genkai-nozai.com/home/個人のブログ:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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