スマート農業の未来はどうなっていくのか?【特別対談・菅谷俊二氏×奥原正明氏 最終回】

2019年5月に株式会社オプティムのエグゼクティブアドバイザーに就任した奥原正明氏と、株式会社オプティムの菅谷俊二社長との対談企画。

最終回となる第5回は、生産者と消費者にとっての「農薬」への意識とその違いについて、そしてこれから日本の農業が向かう道についてうかがった。


「農薬」をどう考えるか

編集部:私どもが「SMART AGRI」を運営していく中で、大きな反響を感じているのが、農薬に関する話題です。いまSDGsの取り組みや、環境や人体に対する影響、農薬の使用に関する不安が、生産者さんに対して強い声で示されるようになってきています。農薬散布のドローンの画像を見て「農薬を撒くなんてナンセンス」という書き込みをする方がいることで、本来減農薬に役立てているはずの農業用ドローンの存在が、逆に「農薬が当たり前に使われているという事実」を表面化させてしまったように思います。

奥原:ドローンとAIによる画像解析を使っているからこそ、害虫が発生している場所にだけ少量を撒くことができているんですけどね……。

菅谷:消費者が農薬利用の実態について正しく理解することも重要なことだと思います。食べ物は、普段口にするものですので、理解した上で口にすべきです。

また、正しく理解することで、生産者が丹精込めて、手間暇をかけて、減農薬や無農薬の農作物を作ることの価値を感じることもできます。オプティムでは、ITの力を活用して、消費者に安心・安全な農作物を届けるにはどうすればよいか、また、生産者の手間を省けないか、と考え続けてきました。

そこから生まれたのが、ピンポイント農薬散布テクノロジーです。これは、AIが画像から病害虫の箇所を検知し、自動飛行ドローンで検知箇所にだけ少量の農薬をピンポイントで散布することにより、全面散布に比べて、最大で99.9%の農薬を削減することができます。

編集部:ピンポイント農薬散布テクノロジーにより農薬の使用量を大幅に抑えることができるのは素晴らしいですね。一方で、農薬に関する反響があるということは、農薬利用の実態を生産者や農業関係者は理解しているが、消費者は正確には知らなかったということなのかなと……。実際、奥原さんが事務次官をやられていた時に、そういった意見をもらったことはありましたか?

奥原:ありました。私自身もできるだけ農薬は使わない方がいいと思っていますが、農薬なしで必要量の農産物を安定供給できるかというと、それは簡単ではありません。食品は、量の安定供給と安全性という二つの面で消費者のニーズに応えなければなりません。だからこそ、私は、安定供給を確保しながら農薬の使用量を最小限にしようというオプティムの取り組みに賛同しているわけです。ここはもっともっと丁寧な説明が必要ですね。

実際問題として、農産物の数量もある程度作らなければ、消費者への安定供給ができません。

一方で、できるだけ安全な農産物を供給してほしいというのも、消費者の求めることです。そのために、生産者がスマート農業などを活用して農薬の使用量の削減に努力しているということを、消費者にもっとわかってもらいたいですね。

編集部:消費者というのは基本的にはワガママですからね。農薬をゼロにして、おいしい農産物を、大量に作ってもらって、季節を問わずにいつでも安く購入したい、というふうに考えてしまうんでしょうね。

奥原:例えば、天候不順が長く続いてこの野菜が供給されないとか、よくテレビでも放送されるじゃないですか。いろいろな工夫をしても、農業が自然環境に左右されるのは仕方ないことです。

むしろ、そういうものが農産物なんだと思ってもらわないといけない。この野菜が取れなければ別の野菜パンを食べればいいと柔軟に考えてもらって、農業はこういうときは仕方ないと理解することも大事なことですね。

消費者がこの点を理解していないと、販売業者側は足りなくなったら困るから輸入する、輸入するからもう国内の生産者からは購入しなくていい、という話になってしまう。これが一番よくないですよね。

農産物というものが環境に左右されるものだと理解していただいて。そのような世界に消費者も協力することが、本来のSDGsの世界ですから。

編集部:SDGsが広まることで、だんだんと理解も進んでいきそうですね。


輸出を念頭に置くなら、より安全性の高い農作物が前提となる

編集部:その話の延長線上にあるのが、有機野菜や農薬不使用の農産物というマーケットです。オプティムとしても残留農薬不検出の「スマート米」を販売しており、年々販売数もアップしていますが、そういった有機農産物の価値も高まり、ニーズも増えているということも実感しています。

奥原:その話の延長線上にあるのが、有機野菜や減農薬の農産物というマーケットです。オプティムとしても残留農薬不検出の「スマート米」を販売しており、年々販売数もアップしていますが、そういった、より安全性の高い農作物の価値も高まり、ニーズも増えているということも実感しています。

特に、有機栽培・減農薬栽培にしないと欧米の国にはなかなか輸出できない状況になってきています。ヨーロッパはSDGsの発想が日本よりはるかに強いですから、日本も有機農業野菜の普及・拡大についてもっと真面目に考えないといけません。

菅谷:彼らが求めていることはまったく間違ってはいないんです。ただ、そもそも有機野菜というのは科学的に人体に悪い影響を与えるものを最小限にすることが何より重要なはずなのですが、ゼロかイチか、使用しているか無農薬かの話になってしまっていて、残留農薬が不検出といった“科学的根拠を提示する”視点が抜けている気もします。

奥原:危険かどうかで言えば、例えば水だって危険ですよね。大量に飲んだら死んでしまうわけですから。あらゆる食べられるものに量の限界があって、そこをちゃんと科学的に判断してやっていく。自然由来だったら安全ということでもないですから。

農薬の使用量の話や残留農薬の話も含めて、データを前提に科学的にきちんと検証していくということをもっと定着させなければいけません。

原発事故のあとも、放射線物質の基準値を決めて、分析値がそれ以下であれば流通させるという判断をしました。それは欧米もチェルノブイリの後、みんなそうやってきているわけです。この数字なら大丈夫ですよ、という指標を過去のデータなどから科学的に決めて、その数次以下のものは流通させないと、食べるものがなくなってしまいます。

「全部安全」もおかしいし、「全部危険」もおかしい。これは科学的に分析するしかない世界です。

編集部:そういう意味で、農水省が許可を出している農薬というのは、定められた使用量を守っていれば人体にリスクはないと考えていいのでしょうか?

奥原:そうなんですが、農薬の取り締まりの法律制度そのものが、欧米と違っている点もあったので、2018年の法律改正ではそこを修正しました。

科学的な知見というのは何年か経てば当然進みます。その時に、新しい考え方でもう一回点検しないといけないんです。以前は「この農薬は使用可能」と言っていたものが、現在の知見から言うと「これは危険だからやめさせる、あるいは使用量を減らさせる」ということが必要になることがあります。

これまでは一度許可されたものを期限が来たら自動的に更新していて、何年も使えるようになっていたんです。これを、一定の登録期限が切れたらもう一度判断し直すという欧米型に変えました。

編集部:日本も少しずつ、環境や人体への影響に関して配慮が進んできているんですね。


日本の農業の未来


編集部:そろそろまとめていきたいと思います。「未来のスマート農業」について、今後スマート農業がさらに普及していくと、日本の農業はどうなっていくでしょうか?


奥原:スマート農業の完成までには、まだやるべきことはいっぱいあるような気がします。農業機械、あるいは肥料・農薬といったすべての要素を、ビッグデータを活用して最大限効率的に活用する。そのための方法、実践できる体系をきちんと作ってやっていく。

そこまでいかないと、スマート農業は終わりません。コスト面でいっても、生産者から見て、これなら十分ペイするという値段で供給してもらわないと、生産者はついてこない。

先ほどもあったように、規格が統一されていないからハードウェアのメーカーが異なるとどうしようもない、というのでは困ります。生産者から見て一番使いやすくて最大限効率化された仕組みになるまで追求していくということですね。

菅谷:我々はそういった未来を構想している会社ですから、やはりスマート農業の成功というのは、“生産者が儲かること”です。先日の「OPTiM INNOVATION」で、「スマート農業プロフェッショナルサービス」というものを発表させていただきました。

生産者個々が今から機械を買って試して、どの機械がいい、どのセンサーがいい、どのドローンがどれだけ効果があるからここのメーカーにしよう、と選ぶのは大変です。

オプティムが、そうしたスマート農業に関わる、あらゆるハードウェア、ソフトウェア、RTK-GPSといったセンサー、環境構築も含めて、ワンストップでお受けできるサービスが「スマート農業プロフェッショナルサービス」のイメージです。

我々がこれまで「スマート農業アライアンス」で扱ってきた作物に関しては、どういう組み合わせがオススメできるかもご提案できます。その生産者が望むのならば、全てのメーカーのものをお取り寄せして提供できるものを始めていきます。

そういったところから、生産者の方があまりわずらわしいことを考えずに、適正な価格でスマート農業に関する機器が手に入るようにすることを、まず会社として始めていきます。その中で、先ほど奥原さんにご指導いただいたようなシェアリングサービスというものも強化して参ります。


編集部:最後に、この先10年くらいの未来の日本の農業はどうなっているか、予想をお聞かせください。

奥原:能力のある経営者が思う存分経営して、農業がどんどん成長して輸出産業になり、地域産業も引っ張っていく。そういう存在になっているといいですね。

菅谷農業法人で働く従業員の方々には季節に応じた大型の休暇があり、台風リスクとかも考えず、育てている作物によってはロングバケーションも取れてハワイにもヨーロッパにも行ける……本当にそういう世界なんじゃないですかね。

そうなればみんな働きたくなるでしょう。従業員を惹き付けるため、魅力ある職場環境をつくるために、経営者はITの技術も活用する。そのために合理化を進める。それは巡り巡って生産者にも届きます。

先ほどもお話ししながら思ったのですが、現在は町医者が町の小さなクリニックで手術をしているようなものなんですよね。監査も入ってセキュリティもきちんとしている大病院、つまり農業生産法人が大きくなってくれた方が、多分消費者も安心できると思います。農薬も使わず、生産者間も統率が取れてくれば、やっぱり安心じゃないですか。そういう世界になっていくんじゃないかと思います。

編集部:長時間ありがとうございました。また10年後にぜひ、本日の予想の答え合わせをさせていただければと思います。

(終)
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WRITER LIST

  1. かくやさゆり
    サンマルツァーノトマトに出会い家庭菜園を始めた半農半ライター。農業、食、アウトドアを中心にライターとして活動中。主に固定種の野菜を育てています。
  2. 川島礼二郎
    川島礼二郎(かわしまれいじろう)。1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  3. 蒼井ネコ
    農学系の兼業ライター。某大学農学部、某農業レストラン、某飲料会社商品企画を経て、現在は某マルシェアプリでwebマガジン編集として働きながら、猫様のお世話をしている。
  4. 杉山直生
    すぎやまなおき。1988年生まれ。愛知県で有機農業を本業として営む。「伝えられる農家」を目指して執筆業を勉強中。目標は、ひとりでも多くの人に「畑にあそびに行く」という選択肢を持ってもらうこと。「とるたべる」という屋号で、日々畑と奮闘中。
  5. 柴田真希
    管理栄養士。㈱エミッシュ代表取締役。Love Table Labo.代表。27年間悩み続けた便秘を3日で治した雑穀や米食の素晴らしさを広めるべく、雑穀のブランド「美穀小町」を立ち上げる。現在はお料理コーナーの番組出演をはじめ、各種出版・WEB媒体にレシピ・コラムを掲載する他、食品メー カーや飲食店のメニュー開発やプロデュースなどを手がける。『私は「炭水化物」を食べてキレイにやせました。』(世界文化社)、『はじめての酵素玄米』(キラジェンヌ)など著書多数。