無洗米が環境にやさしい3つの理由とは? お米選びから始めるSDGs
近ごろ、「SDGs(持続可能な開発目標)」の文字を目にしない日はありません。
前回の記事「お米選びから始めるSDGs。環境負荷の少ないお米って、どんなもの?」では、毎日食べるお米として環境保全米を選ぶことがSDGsに貢献すると書きましたが、お米選びの視点からのSDGsへのアプローチは他にもあります。今回は、無洗米のSDGsへの貢献に関してまとめました。
「環境にやさしいお米」といえば、まず「環境保全米」を想起する読者は多いでしょう。環境保全米は、田んぼがある地域の生態系や景観を保全するために、農薬・化学肥料を減らしたり、なるべく人間の手を加えないような農法を採用したり、保全活動を続けられるよう買い支えの仕組みを構築したりして、栽培されているお米です。
しかし、環境保全米は販売店舗がそれほど多くはなく、価格もやや高めということもあって、現在のところは、誰もが気軽に買えるお米とは言えません。
一方、無洗米は今やどこでも買えるお米となりました。普通のお米と価格は同等で、炊飯にかける時間が短縮できる無洗米も、実は「環境にやさしいお米」のひとつと言えるのです。
全国無洗米協会によれば、無洗米はとぎ汁による水質汚濁の防止を目的として開発され、1991年に世に出ました。とぎ汁が出ないので、河川に有害物質が流出せず、家庭や下水処理場での節水やエネルギー削減にもつながるエコなお米です。
しかし、「米のとぎ汁が水質汚濁の原因」と言われてもピンとこない人もいるでしょう。とぎ汁に含まれる米ぬかは油でも化学物質でもない自然由来のものですし、何より、下水処理場できれいにできるのでは?——と、思うかもしれません。しかし、残念なことにそれは事実なのです。
米のとぎ汁に含まれる肌ぬかには、炭水化物や食物繊維、タンパク質、脂質、ミネラル、ビタミンなどが含まれます。それらは、玄米食やぬか漬けなどで食べる側面から見ればメリットとなりますが、排水の側面から見れば喜ばしいものではありません。ぬかには、川や海での水質汚濁の原因物質とされる有機物、窒素、リンの3要素が多く含まれているということでもあるからです。
生活排水に含まれる有機物、窒素、リンは、下水処理設備によってある程度までは浄化できます。しかし完全に除去することはできず、高度な下水処理場を有する東京都でさえも、河川に流される排水には現在も有機物や窒素・リンが残存しています。
川や海に有機物、窒素、リンが増えると、それらをエサとする植物プランクトンや好気性微生物の大量発生が起きやすくなります。これが進みすぎると、水中の酸素が不足して「富栄養化」と呼ばれる現象を引き起こします。赤潮が発生して魚や貝が死んだり、ヘドロや硫化水素やメタンガスなどが発生して悪臭を放ったりすることもあります。
東京都環境局が2008年に発行した冊子『とりもどそうわたしたちの川を海を きょうからはじめる生活排水対策』によれば、東京で1日に川や海に流される汚れは、その75%以上が生活排水由来です。そして、生活排水に含まれる有機物のうち40%が台所からの排水とされています。米のとぎ汁や油ばかりでなく、飲料や調味料、料理の残り汁なども、本来は排水口に流すべきではないのです。
無洗米が環境にやさしい理由2つ目は、循環型農業への寄与です。
無洗米は白米表面の肌ぬかを物理的に取り除いた状態のお米です。無洗米の製造にはいくつかの方法がありますが、「BG精米製法」と呼ばれる方法で精米された無洗米(BG無洗米)の場合は、工場で取り除いた肌ぬかを回収して、作物栽培用の肥料や家畜の飼料として再利用することが可能です。つまり、肌ぬかに含まれる窒素やリンが、肥料として田畑に還り、再び米などの農作物をつくる材料となるのです。
実際に、BG無洗米を販売している東洋ライス株式会社では、加工時に回収した肌ぬかを粒状に加工して「米の精」の商品名で有機肥料として販売しています。化学肥料で窒素やリンを与えるよりも穏やかに長く効き、化学肥料よりも地下水汚染につながりにくいという利点もあります。
無洗米が環境にやさしい理由3つ目は、[精米→家庭→下水]という、米のライフサイクル全体で排出される二酸化炭素の総量(ライフサイクルCO2排出量)を、普通白米の場合よりも削減できる点です。
日本調理科学会誌掲載の資料によると、米1kgあたりのライフサイクルCO2排出量は、普通米で114g、BG無洗米で53gと試算されています。大雑把にとらえると、無洗米のCO2排出量は普通米の半分以下ということです。この差は、両者の精米から利用までの工程の違いに起因します。
普通白米の場合は[精米→輸送→上水処理した水道水での米とぎと炊飯→下水処理]の経路を辿り、それぞれの過程で電力や燃料を消費します。
一方、BG無洗米では[精米→無洗米処理→輸送→炊飯]の経路となります。BG無洗米は米とぎ工程だけでなく製造工程でも水を使用しないため、炊飯用以外の水の上水処理と下水処理によるCO2消費がありません。したがって、ライフサイクル全体でのCO2排出量が大きく削減されています。計算上では、BG無洗米のごはん1杯(米75g)あたり4.6gのCO2削減につながるそうです。
しかしながら、無洗米ならどんなものでも環境にやさしいわけではないことには注意が必要です。
無洗米の製法の中には水を使って肌ぬかを洗い落とす方法もありますし、製造ラインに肌ぬかを回収する仕組みが備わっていない場合もあります。製造工場でぬかを汚水として排出している製品では、いくら家庭で気を付けようとも、環境中に流出する窒素やリンなどの総量を抑えることにはなりませんし、CO2削減効果もあまり期待できません。
SDGsを意識して無洗米を購入する場合には、製造方法までチェックする必要があるといえます。
無洗米が登場した1990年代は、世界が地球温暖化抑止への具体的な一歩を踏み出したタイミングに重なります。
代表的なものが、1992年にブラジル・リオで開かれた「地球サミット」で採択された「国連気候変動枠組条約」と、1997年の「第3回 国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP3)」で採択され、先進国に対して温室効果ガスの削減目標値が示された「京都議定書」です。
しかし、京都議定書には途上国が不参加だったことやアメリカが脱退したことなどから、長らく地球温暖化抑止への実効力を持たないままでした。
その後、気候変動枠組条約は、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」に組み込まれ、2020年を過ぎてようやく、世界中で目に見える行動がはじまっています。
そんな世界の傍らで、無洗米は、とがずに炊ける手軽さと、普通白米と変わらないおいしさをコツコツとアピールしながら、消費者と家庭に寄り添い支持を得てきました。今こそ、無洗米の「環境にやさしい」という機能が日の目を見る時ではないでしょうか。
東京都環境局 とりもどそうわたしたちの川を海を きょうからはじめる生活排水対策
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/water/pollution/life_drainage/life_drainage.files/h19-panf.pdf
日本調理科学会誌42巻(2009)5号 資料
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/42/5/42_342/_article/-char/ja
前回の記事「お米選びから始めるSDGs。環境負荷の少ないお米って、どんなもの?」では、毎日食べるお米として環境保全米を選ぶことがSDGsに貢献すると書きましたが、お米選びの視点からのSDGsへのアプローチは他にもあります。今回は、無洗米のSDGsへの貢献に関してまとめました。
無洗米は環境にやさしいお米です
「環境にやさしいお米」といえば、まず「環境保全米」を想起する読者は多いでしょう。環境保全米は、田んぼがある地域の生態系や景観を保全するために、農薬・化学肥料を減らしたり、なるべく人間の手を加えないような農法を採用したり、保全活動を続けられるよう買い支えの仕組みを構築したりして、栽培されているお米です。
しかし、環境保全米は販売店舗がそれほど多くはなく、価格もやや高めということもあって、現在のところは、誰もが気軽に買えるお米とは言えません。
一方、無洗米は今やどこでも買えるお米となりました。普通のお米と価格は同等で、炊飯にかける時間が短縮できる無洗米も、実は「環境にやさしいお米」のひとつと言えるのです。
無洗米が環境にやさしい理由1:とぎ汁がでない
全国無洗米協会によれば、無洗米はとぎ汁による水質汚濁の防止を目的として開発され、1991年に世に出ました。とぎ汁が出ないので、河川に有害物質が流出せず、家庭や下水処理場での節水やエネルギー削減にもつながるエコなお米です。
しかし、「米のとぎ汁が水質汚濁の原因」と言われてもピンとこない人もいるでしょう。とぎ汁に含まれる米ぬかは油でも化学物質でもない自然由来のものですし、何より、下水処理場できれいにできるのでは?——と、思うかもしれません。しかし、残念なことにそれは事実なのです。
米のとぎ汁が水質汚濁の元になる?
米のとぎ汁に含まれる肌ぬかには、炭水化物や食物繊維、タンパク質、脂質、ミネラル、ビタミンなどが含まれます。それらは、玄米食やぬか漬けなどで食べる側面から見ればメリットとなりますが、排水の側面から見れば喜ばしいものではありません。ぬかには、川や海での水質汚濁の原因物質とされる有機物、窒素、リンの3要素が多く含まれているということでもあるからです。
生活排水に含まれる有機物、窒素、リンは、下水処理設備によってある程度までは浄化できます。しかし完全に除去することはできず、高度な下水処理場を有する東京都でさえも、河川に流される排水には現在も有機物や窒素・リンが残存しています。
川や海に有機物、窒素、リンが増えると、それらをエサとする植物プランクトンや好気性微生物の大量発生が起きやすくなります。これが進みすぎると、水中の酸素が不足して「富栄養化」と呼ばれる現象を引き起こします。赤潮が発生して魚や貝が死んだり、ヘドロや硫化水素やメタンガスなどが発生して悪臭を放ったりすることもあります。
東京都環境局が2008年に発行した冊子『とりもどそうわたしたちの川を海を きょうからはじめる生活排水対策』によれば、東京で1日に川や海に流される汚れは、その75%以上が生活排水由来です。そして、生活排水に含まれる有機物のうち40%が台所からの排水とされています。米のとぎ汁や油ばかりでなく、飲料や調味料、料理の残り汁なども、本来は排水口に流すべきではないのです。
無洗米が環境にやさしい理由2:肌ぬかを農業資源として再利用できる
無洗米が環境にやさしい理由2つ目は、循環型農業への寄与です。
無洗米は白米表面の肌ぬかを物理的に取り除いた状態のお米です。無洗米の製造にはいくつかの方法がありますが、「BG精米製法」と呼ばれる方法で精米された無洗米(BG無洗米)の場合は、工場で取り除いた肌ぬかを回収して、作物栽培用の肥料や家畜の飼料として再利用することが可能です。つまり、肌ぬかに含まれる窒素やリンが、肥料として田畑に還り、再び米などの農作物をつくる材料となるのです。
実際に、BG無洗米を販売している東洋ライス株式会社では、加工時に回収した肌ぬかを粒状に加工して「米の精」の商品名で有機肥料として販売しています。化学肥料で窒素やリンを与えるよりも穏やかに長く効き、化学肥料よりも地下水汚染につながりにくいという利点もあります。
無洗米が環境にやさしい理由3:CO2排出量を削減できる
無洗米が環境にやさしい理由3つ目は、[精米→家庭→下水]という、米のライフサイクル全体で排出される二酸化炭素の総量(ライフサイクルCO2排出量)を、普通白米の場合よりも削減できる点です。
日本調理科学会誌掲載の資料によると、米1kgあたりのライフサイクルCO2排出量は、普通米で114g、BG無洗米で53gと試算されています。大雑把にとらえると、無洗米のCO2排出量は普通米の半分以下ということです。この差は、両者の精米から利用までの工程の違いに起因します。
普通白米の場合は[精米→輸送→上水処理した水道水での米とぎと炊飯→下水処理]の経路を辿り、それぞれの過程で電力や燃料を消費します。
一方、BG無洗米では[精米→無洗米処理→輸送→炊飯]の経路となります。BG無洗米は米とぎ工程だけでなく製造工程でも水を使用しないため、炊飯用以外の水の上水処理と下水処理によるCO2消費がありません。したがって、ライフサイクル全体でのCO2排出量が大きく削減されています。計算上では、BG無洗米のごはん1杯(米75g)あたり4.6gのCO2削減につながるそうです。
SDGsのために無洗米を購入する際の注意点
しかしながら、無洗米ならどんなものでも環境にやさしいわけではないことには注意が必要です。
無洗米の製法の中には水を使って肌ぬかを洗い落とす方法もありますし、製造ラインに肌ぬかを回収する仕組みが備わっていない場合もあります。製造工場でぬかを汚水として排出している製品では、いくら家庭で気を付けようとも、環境中に流出する窒素やリンなどの総量を抑えることにはなりませんし、CO2削減効果もあまり期待できません。
SDGsを意識して無洗米を購入する場合には、製造方法までチェックする必要があるといえます。
無洗米でラクにおいしくSDGs貢献しよう
無洗米が登場した1990年代は、世界が地球温暖化抑止への具体的な一歩を踏み出したタイミングに重なります。
代表的なものが、1992年にブラジル・リオで開かれた「地球サミット」で採択された「国連気候変動枠組条約」と、1997年の「第3回 国連気候変動枠組条約の締約国会議(COP3)」で採択され、先進国に対して温室効果ガスの削減目標値が示された「京都議定書」です。
しかし、京都議定書には途上国が不参加だったことやアメリカが脱退したことなどから、長らく地球温暖化抑止への実効力を持たないままでした。
その後、気候変動枠組条約は、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」に組み込まれ、2020年を過ぎてようやく、世界中で目に見える行動がはじまっています。
そんな世界の傍らで、無洗米は、とがずに炊ける手軽さと、普通白米と変わらないおいしさをコツコツとアピールしながら、消費者と家庭に寄り添い支持を得てきました。今こそ、無洗米の「環境にやさしい」という機能が日の目を見る時ではないでしょうか。
東京都環境局 とりもどそうわたしたちの川を海を きょうからはじめる生活排水対策
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/water/pollution/life_drainage/life_drainage.files/h19-panf.pdf
日本調理科学会誌42巻(2009)5号 資料
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/42/5/42_342/_article/-char/ja
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