「無農薬」と「特別栽培農産物」は何が違う?正しい農産物の表示とは。
スーパーやマルシェ、通販などで目にする「無農薬」という言葉。それを見たときに、あなたはどんなイメージを持ちますか?
きっと、多くの方は「農薬を使わないで育った安心安全な農産物なのだろう」と思うのではないでしょうか。
しかし残念なことに、そうとは言いきれない事情があります。実は、「無農薬」という表示は、日本ではルール違反。農産物を販売するためにパッケージに表示したり、商品説明に使用したりすることは禁止されているのです。
この記事では、安心な農産物を選ぶために必要な、農産物の表示に関するルールのひとつである、「特別栽培農産物」についてご説明します。
日本で食品を販売するときに「無農薬」の表示は禁止されている──そう聞いて、意外に思った方は多いのではないでしょうか。実際にインターネットで検索すれば、「無農薬」という言葉を使って販売されている農産物は簡単に見つけることができます。似た言葉で「減農薬」という表示もあります。
結論から言うと、それらは農林水産省が定める「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」違反なのです。
特別栽培農産物に係る表示ガイドライン……なんだか難しい言葉が出てきましたね。一体このガイドラインとは何なのでしょうか? まずはざっくりと説明します。
「特別栽培農産物」[1]とは、簡単に言うと、農薬や化学肥料の使用を減らして育てられた農産物のことです。そして、そのような農産物を販売するときに、生産者や販売者が守るルールが書かれているものが「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」で、平成4年に農林水産省によって制定されました。
農薬と化学肥料を減らして、または使わずに育てられた「特別栽培農産物」とはどのようなものを言うか、そして、そのことを消費者にどのような言葉で伝えるか、が決められています。
このガイドラインができる前は、生産者によって表現がバラバラで流通や消費に混乱が生じていました。たとえば、生産者自身が「いつもより農薬を減らしているから農薬使用量を削減できた」と主張しても、どの程度少ないのか、それはほかの生産者の一般的な使用量と比べて本当に少ないのか、などはわかりませんでした。そのため、一律の基準を設ける必要があったのです。
ガイドラインにはこう書かれています。
聞きなれない言葉が多くてわかりにくいと思いますが、つまり、
であれば、「特別栽培農産物」と表示して販売することが可能になるということです。
実際に「特別栽培農産物」と商品に表示するときには、上記の基準を満たすことのほかにもルールがあります。
表示が必要な責任者情報:栽培責任者の氏名・住所・連絡先、確認責任者の氏名・住所・連絡先
お米の場合は精米確認者の氏名・住所・連絡先、輸入品の場合は輸入業者の氏名・住所・連絡先
農薬・化学肥料を使用していない場合:「農薬:栽培期間中不使用」または「節減対象農薬:栽培期間中不使用」、「化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用」
農薬・化学肥料を減らして栽培した場合:「節減対象農薬:当地比 ○割減」または「節減対象農薬:○○地域比 ○割減」、「化学肥料(窒素成分):当地比 〇割減」または「化学肥料(窒素成分):〇〇地域比 〇割減」
さらに、節減対象農薬を使用して栽培した場合には、枠外に使用した節減対象農薬の名称、用途及び使用回数を記載する必要があります。表示スペースの都合等で記載ができない場合には、消費者が確認できるホームページのアドレス等を枠内に記載します。
「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に則った場合、農薬を使わずに育てた野菜であることを消費者に伝えるための表現は、「農薬:栽培期間中不使用」または「節減対象農薬:栽培期間中不使用」となります。また、特別栽培農産物の規定の範囲内で農薬を使用した場合には、「節減対象農薬:〇〇地域比 5割減」といった表記が適切です。
「農薬」と「節減対象農薬」とは何が違うのでしょうか?
● 殺虫剤、殺菌剤、殺そ剤、誘引剤、除草剤、植物成長調整剤
害虫やネズミ、病気の原因になる微生物などを防除する目的で使うものと、作物の生長を促進・抑制する目的で使うものがあります。
「有機農産物JAS規格」というのは、「農林物資の規格化等に関する法律」に基づく「日本農林規格(JAS規格)」の中のひとつで、特別栽培農産物よりも厳しい認証基準をもつものです。有機JASに関する詳しい解説は別の機会にさせていただくとして、この規格の中では、どうしても必要なときには天然物や天然由来成分の農薬の使用が許されています。[4]
しかし、ここまで読んだからこそ、こう思った方もいるのではないでしょうか。
「結局、無農薬のほうがわかりやすくない?」
「栽培期間中とか節減対象農薬とか、難しくてわかんない」
お気持ちはよくわかります。
最後に、なぜ「無農薬」という表示が禁止されているのかについて、説明します。
「無農薬」という言葉に対して消費者が期待することは、「農薬が一切かかっていない」ことの保証です。しかし、生産現場で「農薬が一切かかっていない」ことを保証するのは、とても難しいことなのです。実際のところ、「無農薬です」と言って販売されている農産物だとしても、それに農薬が一切かかっていないと言い切れる生産者は、それほど多くはいないのではないでしょうか。
「無農薬」でも、農薬がかかっているかもしれない。そんな嘘みたいなことが、実際にあるのです。その理由は、生産現場を想像すると、なんとなくわかるのではないかと思います。
日本の田畑は小面積で、隣の生産者の畑との境目が数十センチということもよくあります。そこで無農薬栽培にチャレンジしたとしても、隣の畑でいつものように農薬を使用していれば、それが風で飛んできて、こちらの作物にかかります。稲作の場合には、上流の田んぼで農薬を使用すれば、下流の田んぼには農薬を含んだ水が流れてきます。つまり、自分ひとりが農薬を使わなくても、周囲で使われていれば、作物に農薬成分が付着する可能性はあるのです。
しかし、生産者自身は農薬を使用していないわけですから、堂々と「無農薬です」と言って販売します。これを、消費者は「農薬が一切かかっていない」と信じて食べる……。特別栽培農産物のガイドラインができた背景には、このような生産現場と消費者ニーズのすれ違いがあったのです。
特別栽培農産物は「栽培期間中」の農薬・化学肥料の使用に関するルールです。風にのって飛散してくる農薬や、前作以前から土の中に残っている化学肥料の成分は対象外であり、収穫した農産物から残留農薬等の成分が検出されることも、起こり得ます。
したがって、農薬由来の成分を一切摂取したくない場合には、特別栽培農産物の表示だけで農産物を選ぶことはできません。そのような方に適しているのは、特別栽培農産物または有機農産物JAS認証を取得したもので、かつ、「残留農薬不検出」の農産物です。
残留農薬の監視は各地方自治体で行われていますが、個別の商品に関しては生産者や販売者が自主的に行うことでしか確認することはできません。残留農薬不検出のものが欲しい場合は、スーパーなどで探すよりも、インターネットで「残留農薬不検出 米」などのキーワードで検索したほうが、早く見つかるかもしれません。
「無農薬」という言葉を例にして、特別栽培農産物について説明しました。
一見わかりやすいように感じる「無農薬」が、実は消費者の誤認を招きかねない曖昧な表現だということに驚いた方もいるかもしれません。
「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」には違反したときの罰則がないため、未だにこのガイドラインに則らない表示をしている販売者も多いです。もちろん、ガイドラインに則らないからといって嘘だということにはなりませんが、信頼性に疑問があるのは確かです。
野菜や米の栽培方法に興味がある方、マルシェやファーマーズマーケットで買い物をすることが多い方などは、このルールを覚えておくと、きっと役に立つことがあるでしょう。
「オーガニック野菜」「有機野菜」「無農薬野菜」はどう違うのか
<参考URL>
[1]特別栽培農産物に係る表示ガイドライン,農林水産省[PDF]
[2] 農薬取締法,農林水産省
[3]特別栽培農産物に係る表示ガイドラインQ&A(Q11)節減対象農薬とは何ですか。,農林水産省[PDF]
[4] 有機規格「別表2」で野菜類に使用が許容されている農薬一覧 (2011年1月現在)(271ページ) ,有機栽培技術の手引 〔葉 菜 類 等 編〕参考資料,一般財団法人日本土壌協会[PDF]
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きっと、多くの方は「農薬を使わないで育った安心安全な農産物なのだろう」と思うのではないでしょうか。
しかし残念なことに、そうとは言いきれない事情があります。実は、「無農薬」という表示は、日本ではルール違反。農産物を販売するためにパッケージに表示したり、商品説明に使用したりすることは禁止されているのです。
この記事では、安心な農産物を選ぶために必要な、農産物の表示に関するルールのひとつである、「特別栽培農産物」についてご説明します。
「無農薬」という言葉で農産物を売ってはいけない
日本で食品を販売するときに「無農薬」の表示は禁止されている──そう聞いて、意外に思った方は多いのではないでしょうか。実際にインターネットで検索すれば、「無農薬」という言葉を使って販売されている農産物は簡単に見つけることができます。似た言葉で「減農薬」という表示もあります。
結論から言うと、それらは農林水産省が定める「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」違反なのです。
特別栽培農産物に係る表示ガイドラインとは?
特別栽培農産物に係る表示ガイドライン……なんだか難しい言葉が出てきましたね。一体このガイドラインとは何なのでしょうか? まずはざっくりと説明します。
特別栽培農産物とは?
「特別栽培農産物」[1]とは、簡単に言うと、農薬や化学肥料の使用を減らして育てられた農産物のことです。そして、そのような農産物を販売するときに、生産者や販売者が守るルールが書かれているものが「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」で、平成4年に農林水産省によって制定されました。
どんなことが決められているの?
農薬と化学肥料を減らして、または使わずに育てられた「特別栽培農産物」とはどのようなものを言うか、そして、そのことを消費者にどのような言葉で伝えるか、が決められています。
このガイドラインができる前は、生産者によって表現がバラバラで流通や消費に混乱が生じていました。たとえば、生産者自身が「いつもより農薬を減らしているから農薬使用量を削減できた」と主張しても、どの程度少ないのか、それはほかの生産者の一般的な使用量と比べて本当に少ないのか、などはわかりませんでした。そのため、一律の基準を設ける必要があったのです。
特別栽培農産物の基準は?
ガイドラインにはこう書かれています。
1 当該農産物の生産過程等における節減対象農薬の使用回数が、慣行レベルの5割以下であること。
2 当該農産物の生産過程等において使用される化学肥料の窒素成分量が、慣行レベルの5割以下であること。
引用元:『特別栽培農産物に係る表示ガイドライン』農林水産省ホームページ[PDF]
聞きなれない言葉が多くてわかりにくいと思いますが、つまり、
- その作物の植え付け前から収穫までの間に
- 農薬の使用回数または化学肥料の使用量(窒素成分量で計算)が
- その作物が栽培された地域で通常使用されている量の半分以下
であれば、「特別栽培農産物」と表示して販売することが可能になるということです。
特別栽培農産物と表示するときのルール
実際に「特別栽培農産物」と商品に表示するときには、上記の基準を満たすことのほかにもルールがあります。
- 表示事項のルール
表示が必要な責任者情報:栽培責任者の氏名・住所・連絡先、確認責任者の氏名・住所・連絡先
お米の場合は精米確認者の氏名・住所・連絡先、輸入品の場合は輸入業者の氏名・住所・連絡先
- 表示方法のルール
農薬・化学肥料を使用していない場合:「農薬:栽培期間中不使用」または「節減対象農薬:栽培期間中不使用」、「化学肥料(窒素成分):栽培期間中不使用」
農薬・化学肥料を減らして栽培した場合:「節減対象農薬:当地比 ○割減」または「節減対象農薬:○○地域比 ○割減」、「化学肥料(窒素成分):当地比 〇割減」または「化学肥料(窒素成分):〇〇地域比 〇割減」
さらに、節減対象農薬を使用して栽培した場合には、枠外に使用した節減対象農薬の名称、用途及び使用回数を記載する必要があります。表示スペースの都合等で記載ができない場合には、消費者が確認できるホームページのアドレス等を枠内に記載します。
「無農薬」「減農薬」の正しい表現方法は?
「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に則った場合、農薬を使わずに育てた野菜であることを消費者に伝えるための表現は、「農薬:栽培期間中不使用」または「節減対象農薬:栽培期間中不使用」となります。また、特別栽培農産物の規定の範囲内で農薬を使用した場合には、「節減対象農薬:〇〇地域比 5割減」といった表記が適切です。
農薬と節減対象農薬との違い
「農薬」と「節減対象農薬」とは何が違うのでしょうか?
- 農薬とは
● 殺虫剤、殺菌剤、殺そ剤、誘引剤、除草剤、植物成長調整剤
害虫やネズミ、病気の原因になる微生物などを防除する目的で使うものと、作物の生長を促進・抑制する目的で使うものがあります。
- 節減対象農薬とは
「有機農産物JAS規格」というのは、「農林物資の規格化等に関する法律」に基づく「日本農林規格(JAS規格)」の中のひとつで、特別栽培農産物よりも厳しい認証基準をもつものです。有機JASに関する詳しい解説は別の機会にさせていただくとして、この規格の中では、どうしても必要なときには天然物や天然由来成分の農薬の使用が許されています。[4]
- 「農薬不使用」と「節減対象農薬不使用」はどちらが良いのか
ガイドライン違反はなぜいけないのか
さて、ここまで特別栽培農産物について説明してきました。「無農薬」という表示がこのガイドラインで禁止されていることと、その正しい表示のありかたをご理解いただけたと思います。しかし、ここまで読んだからこそ、こう思った方もいるのではないでしょうか。
「結局、無農薬のほうがわかりやすくない?」
「栽培期間中とか節減対象農薬とか、難しくてわかんない」
お気持ちはよくわかります。
最後に、なぜ「無農薬」という表示が禁止されているのかについて、説明します。
「無農薬」と書いて何が悪い?
「無農薬」という言葉に対して消費者が期待することは、「農薬が一切かかっていない」ことの保証です。しかし、生産現場で「農薬が一切かかっていない」ことを保証するのは、とても難しいことなのです。実際のところ、「無農薬です」と言って販売されている農産物だとしても、それに農薬が一切かかっていないと言い切れる生産者は、それほど多くはいないのではないでしょうか。
農薬を使わなくても、残留農薬が検出されることがある
「無農薬」でも、農薬がかかっているかもしれない。そんな嘘みたいなことが、実際にあるのです。その理由は、生産現場を想像すると、なんとなくわかるのではないかと思います。
日本の田畑は小面積で、隣の生産者の畑との境目が数十センチということもよくあります。そこで無農薬栽培にチャレンジしたとしても、隣の畑でいつものように農薬を使用していれば、それが風で飛んできて、こちらの作物にかかります。稲作の場合には、上流の田んぼで農薬を使用すれば、下流の田んぼには農薬を含んだ水が流れてきます。つまり、自分ひとりが農薬を使わなくても、周囲で使われていれば、作物に農薬成分が付着する可能性はあるのです。
しかし、生産者自身は農薬を使用していないわけですから、堂々と「無農薬です」と言って販売します。これを、消費者は「農薬が一切かかっていない」と信じて食べる……。特別栽培農産物のガイドラインができた背景には、このような生産現場と消費者ニーズのすれ違いがあったのです。
絶対に農薬が嫌なら、「残留農薬不検出」の農産物を
特別栽培農産物は「栽培期間中」の農薬・化学肥料の使用に関するルールです。風にのって飛散してくる農薬や、前作以前から土の中に残っている化学肥料の成分は対象外であり、収穫した農産物から残留農薬等の成分が検出されることも、起こり得ます。
したがって、農薬由来の成分を一切摂取したくない場合には、特別栽培農産物の表示だけで農産物を選ぶことはできません。そのような方に適しているのは、特別栽培農産物または有機農産物JAS認証を取得したもので、かつ、「残留農薬不検出」の農産物です。
残留農薬の監視は各地方自治体で行われていますが、個別の商品に関しては生産者や販売者が自主的に行うことでしか確認することはできません。残留農薬不検出のものが欲しい場合は、スーパーなどで探すよりも、インターネットで「残留農薬不検出 米」などのキーワードで検索したほうが、早く見つかるかもしれません。
信頼できる販売者を選ぶために
「無農薬」という言葉を例にして、特別栽培農産物について説明しました。
一見わかりやすいように感じる「無農薬」が、実は消費者の誤認を招きかねない曖昧な表現だということに驚いた方もいるかもしれません。
「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」には違反したときの罰則がないため、未だにこのガイドラインに則らない表示をしている販売者も多いです。もちろん、ガイドラインに則らないからといって嘘だということにはなりませんが、信頼性に疑問があるのは確かです。
野菜や米の栽培方法に興味がある方、マルシェやファーマーズマーケットで買い物をすることが多い方などは、このルールを覚えておくと、きっと役に立つことがあるでしょう。
「オーガニック野菜」「有機野菜」「無農薬野菜」はどう違うのか
<参考URL>
[1]特別栽培農産物に係る表示ガイドライン,農林水産省[PDF]
[2] 農薬取締法,農林水産省
[3]特別栽培農産物に係る表示ガイドラインQ&A(Q11)節減対象農薬とは何ですか。,農林水産省[PDF]
[4] 有機規格「別表2」で野菜類に使用が許容されている農薬一覧 (2011年1月現在)(271ページ) ,有機栽培技術の手引 〔葉 菜 類 等 編〕参考資料,一般財団法人日本土壌協会[PDF]
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