カレーもお米も楽しみたい スパイス料理研究家・印度カリー子さんインタビュー

日本人の国民食ともいえるカレーライス。近頃はスパイスを使って作るインド由来の「スパイスカレー」も人気で、おうちで自分で調合して作られる方も増えています。

今回は、そんなスパイスカレーの啓蒙活動をされている印度カリー子さんに、スパイスカレーの魅力と、カレーに欠かせない“お米”ライフをうかがってきました。


印度カリー子さんは、“スパイスカレーをおうちでもっと⼿軽に”をモットーに、スパイスカレーの魅力を発信しているスパイス料理研究家です。

大学生のころ同居していたお姉さんのために作ったことをきっかけにスパイスカレーの世界に。インパクトがあって記憶に残りやすいという理由から「印度カリー子」という名前で、最初はブログでレシピを発表していましたが、スパイスの買いにくい、余る、調合が難しいといった問題を解決するために、初心者のためのスパイスのお店・⾹林館を始められました。現在は、宮城と東京の二拠点で、商品開発やレシピ本執筆など精力的に活動されています。

自分好みに楽しめるのがスパイスカレー


──数種類のスパイスを調合して作るスパイスカレー。魅力はどんなところにありますか?

「スパイスカレーの魅力のひとつが、スパイスをカスタマイズして調合できること。

例えば辛いのが苦手な方であれば、スパイスは『チリペッパー』と『ブラックペッパー』と呼ばれるものを除けば良いです。そうすれば、まったく辛くないカレーが作れます。

基本的にカレールーやカレー粉には予めそれらが含まれていますが、スパイスカレーはそれらを除外して調合できるんです。

なので、15種類のスパイスカレーを作ったとして、チリペッパーとブラックペッパーを抜けばまったく刺激のないカレーが出来ます。うちの86歳の祖母もパクパク食べますよ」


──スパイスは刺激があるもののイメージがありました……!

「いろんなスパイスやハーブがありますが、ほとんどが辛くないスパイスなんです。カレーにしょっちゅう使われるのがチリペッパーなだけで、それを除いたからといってカレーの香りがそがれるわけではないです」

──辛いのが苦手な方は、まずは辛くないスパイスで作ってみて、好みでプラスしていくのもいいですね。

▲子どもも食べられるレシピを紹介(印度カリー子さんInstagramより)
「また、カレールーは油脂のかたまりみたいなものなので結構重い。でもスパイスカレーには油を乳化させるような小麦粉は含まれていません。また、少なめの油で炒めて作ることもできます。しかもインドはベジタリアンが多いので、肉を入れなくてもおいしいカレーはたくさんあり、野菜のカレーにすることで脂質もぐっと抑えることができます。

だからスパイスカレーはそういう意味では、すごく自分好みの、自分の体質にあったものが作れる料理なんです。体によくて、毎日食べても全然大丈夫。今日もまた食べたいってなりますよ」

──日本で食べられているカレーライスとはまた違いますね。

「日本の今まで食べてきたカレーライスがごちそうのような料理だから、毎日食べるとなるとなかなかびっくりだし、できる人は限られてくるかもしれない。でもスパイスカレーはインド由来のもので、それこそ毎日食べる前提のカレーなので、味噌汁のようなものですね。

なかなか忙しくてできないかもしれないですけど、土日とかちょっとした休みを使って作ってみてください。3つのスパイス(ターメリック、クミン、コリアンダー)からも作れますし、そこから挑戦してみてほしいですね。その先の人生が幸せなものになりますよ」




ナンよりもごはんがおいしい!


──日本のインドカレー屋ではナンがよく食べられていますが、カリー子さんもナンを食べられますか?

「日常的にはあまり食べません。本場のナンはピザ釜のような高温のタンドール釜で焼かれているので、家でおいしいナンを作るのは難しいです。また、ナンの生地は発酵が必要ですし、油も使うのでややカロリーも高い。毎日食べるならお米かなと思います。

それに、ナンは北インドでしかあんまり食べられなくて、基本的に南インドはごはんです。私はどちらかというと北インドよりも南インドのサラサラしたカレーが好きなので、やっぱりごはんのほうが好きなんです。

ごはんは常食しやすいですし、食べる頻度が高ければ高いほど米食になりますね。体にもいいし、楽だし、おいしいし、濃厚なカレーにもサラサラしたカレーにも合います」


──スパイスカレーに合わせるのはどんなお米がいいのでしょうか。

「どのお米でも合うとは思います。ただ、ニュアンスを考えたい、というところはあって。バターチキンのような甘くこってりしたカレーはもちもちとしたお米でも合うと思いますけど、サラサラ系のカレーには結構重たいです。

日本米で合わせるなら、『ササニシキ』はオススメです。粘り気が強くなく、食味や甘みも控えめです。ほかに、最近は『華麗舞』という、タイのジャスミンライスと日本のお米を掛け合わせた、良い香りがしてパラパラしてるお米があるんですが、それもおいしいですね」

──バスマティライスなどインドのお米はどうでしょうか?

「インドのお米はやっぱり合いますね! でも高いですし、なかなか気軽に買えないんですよ。週に1回は食べますけど基本的には日本米です。

それに、私は3食カレーというわけではなくて、1日1食のペースで間に和食が入るんです。そうなると、カレーのために炊いたごはん(インド米)が和食に使えなかったりする。でも、和食のために炊いた日本米はカレーに使えるし、カレーのために炊いた日本米は和食のためにも使える。

日本米はお米だけでもおいしいんですけど、バスマティライスはお米だけだとそんなにおいしくなくて、カレーありきのお米なんです。日本米の場合はお米自体もおいしいですから」




“カレーにはかためのごはん”でいいの?


──カレーにはかために炊いたごはんが合うともよく言われますよね。

「私がお米を炊くときに一番重視しているのが、ちゃんとやわらかいことです。ただし、表面の一番表皮の部分がぼそぼそせず、つや立ってて欲しい。火力が強すぎたり、水が多すぎたりするとぼそぼそしてしまう。よくないお米もぼそぼそします。いいお米はつやっとしているので、ひと粒ひと粒の舌触りがすごくいいのにもかかわらず、食べるとやわらかい。それが完璧だと思います。

カレーのためにお米はかために炊くという方もいるんですけど、それは正直お米のベストじゃないと私は思っています。まず、かたいですし、ちゃんと中まで水が十分に行き渡ってないです。それなら、『ササニシキ』などやわらかいけど粘り気が出ない、形が保たれているようなお米にしたほうがいいと思います。

カレーライスも半分がライスなので、お米がおいしくなかったらカレーもおいしくないんです。カレーが好きな人は、お米についてもこだわってみてもいいんじゃないかなと思っていますね」

──カリー子さんはどのように炊飯していますか?

「私はストウブや土鍋で炊いていますが、直火が一番おいしいですね。

ただ、どんなに安い炊飯器でも、いいお米を使えば結構おいしくなるんですよ。炊飯器も重要ですけど、米の品種とお米自体のよさ(グレード)で左右されるなと思います」




自宅には精米機も! 食べるのは「5分づき米」


──ここまでお米への熱い思いをお聞きしてきましたが、もともとお米にはこだわりが?

「農業が盛んな宮城県出身なのもあり、ずっと宮城のお米を食べていて、基本的に『ひとめぼれ』と『ササニシキ』で育ってきました。最近の宮城のお米だと『だて正夢』がすごく好きで、玄米で買って食べるのが一番好きですね。

ほかにも、最近ちょっと心揺れているのが『つや姫』。びっくりするくらいおいしくて、適度な粘り気があって、表面のつやっとした感じがいいですよね。

夏に食べるお米と冬に食べるお米も結構違います。夏は『ササニシキ』が多いですね。粘り気が強くて甘いお米は、暑い日だと食べにくく感じてしまいます。逆に冬はもっちり甘い感じがいいですね」


──常に数種類を常備されているんですね。 どれも玄米のままですか?

「玄米で食べることもありますが、基本的には5分づき米です。実家にも今住んでいる東京の家にも精米機があるので、家で精米したお米を食べています。玄米も食べ応えがあっておいしいですが、毎日食べるなら5分づきくらいがちょうどいいです」

──「5分づき」というと、玄米を5割削った状態のお米ですよね。

「そうです。私はずっと5分づきのお米で育ってきたので、小さい頃白米を食べるのは、給食か外食のときだけだったんですよ。だから家で白米を食べることはとても珍しく、たまに出た時には家族で『白米は文字通りの銀シャリだね!』って言ってました(笑)」

──白米でも玄米でもない、分づき米とは驚きました!

「玄米は殻がかたくて風味が強いので5分づきくらいのほうが食べやすいかなと。玄米のほうが体にいいし、腹持ちもいいし、味があるんですけどね。

玄米を食べるときに、かたさが気になる方もいると思うのですが、玄米を精米機に入れて数十秒ほど回してから炊くといいです。玄米の殻の表面に傷がついて、吸水しやすくなるのでやわらかい玄米に炊けますよ。さらには『だて正夢』のような粘り気の強い米を選べば、寝かせ玄米のようにもちもちした玄米になります。

実家では精米で出たぬかはぬか床にして余すことなく食べてますし、お米は万能ですね」


カレーもお米も一緒に楽しむ


「いろんなお米があって、カレーがあって、組み合わせは無限大。私は日々お米もカレーも楽しんでいます。

お米を楽しむコツがカレーには隠されていると思うので、お米が好きな人にもスパイスカレーを作ってみてほしいです。逆にカレーが好きな人だったら、お米について考えてみてもいいかもしれないですね。もっとおいしくカレーが楽しめると思います」


※※※

「カレーとお米」への溢れる愛がひしひしと伝わってくる印度カリー子さんのインタビューをお届けしました。

「カレーライスの半分はライス」。カレーもライスもどちらもこだわり、楽しむことで、新たなおいしさに出会えるのではないでしょうか。

また、スパイスカレーに挑戦してみようと思った方は、印度カリー子さんの公式サイトやスパイスショップをチェックしてみてください。初心者でもスパイスカレーを楽しめるヒントがたくさん載っていますよ。


印度カリー子 公式サイト
https://indocurryko.net/
印度カリー子のスパイスショップ
https://indocurry.thebase.in/
印度カリー子 Twitter
https://twitter.com/IndoCurryKo
印度カリー子 Instagram
https://www.instagram.com/indocurryko/
印度カリー子 YouTube
https://www.youtube.com/@indocurryko


取材:編集部
印度カリー子さん撮影:齋藤 葵
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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. さとうまちこ
    さとうまちこ
    宮城県の南の方で小さな兼業農家をしています。りんご農家からお米と野菜を作る農家へ嫁いで30余年。これまで「お手伝い」気分での農業を義母の病気を機に有機農業に挑戦すべく一念発起!調理職に長く携わってきた経験と知識、薬膳アドバイザー・食育インストラクターの資格を活かして安心安全な食材を家族へ、そして消費者様に届けられるよう日々奮闘中です。
  3. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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