リンゴ経営において最も効果的なスマート農業とは
青森県弘前市にある9.7haの園地でリンゴを作るもりやま園を取り上げる本連載の最終回は、再びスマート農業について迫る。
同社は「Agrion果樹」のほかに自律走行の除草機と自動選果機を使い始めた。いずれ自律直進型の収穫機も導入する予定だ。
代表の森山聡彦さん(49)は「スマート農業はこれからのリンゴの経営にとって欠かせない」と言い切る。
「今のところ最も労働生産性を上げてくれますね」。
森山さんがこう評価するのは自動選果機。光センサーを使うことで果実を破壊することなく、糖度や蜜の入り具合、褐変の有無や度合、果実の大きさと着色の度合などをデータ化してくれる。
もりやま園は11人の正社員のほかアルバイトとして弘前大学の学生を30人ほど雇っている。特に仕事に追われるのは収穫時期である。木から実をもいでは、果実の大きさと着色の度合など複数の観点から次々に選果しなければならない。本連載の第2回で述べた通り、特にもりやま園の場合は品種の内訳で晩生が75%を占めているため、11月中はこれらの作業で多忙を極める。
問題なのは、選果が経験を要するということだ。これに関しては、森山さんの言葉を借りよう。
「社員と同じレベルで選果するには2年の研修が必要です。選果のポイントについて口で説明して、頭で理解してくれても、実際にやってみると瞬時に判断ができない。それだけ観点が多いわけです。だから未経験者は経験者の5倍くらい時間がかかりますね」
結果としてこれまで選果に携わったのは基本的に正社員だけ。11人という人員で9.7haという大規模の園地に成るリンゴのどれだけをさばけたかといえば、わずか25%。すべてを選果するため経験者を臨時で集めたくても、周囲には人がいない。
「だから残りの75%は収穫しても加工原料用として『グッバイ』となっていました。加工原料用は安い。だから万年赤字だったんです」
ところが、自動選果機の導入で「一気に問題解消ですね」。
選果は学生のアルバイトに任せた。正社員1人が指導役として残る。アルバイトは外観の傷の有無で分け、傷がない果実だけを選果ラインに載せる。これで収穫物はすべて自社で選果できるようになった。
つまり、以前は規格外に入るものであっても選果できずに加工原料用に回すしかなかったものが、青果物として自社で販売できるようになったのだ。これで販売単価と共に時間あたりの労働生産性を倍以上に押し上げた。
自動選果機の導入にはスマート農業実証プロジェクトの補助事業を使った。同時に実証試験をしたのは除草ロボット。和同産業株式会社(岩手県花巻市)の製品「ロボモアMR‐300 KRONOS」である。
その特徴は同社の説明資料によると、「3輪駆動と独自のタイヤパターンで高い走破性」を有するほか、「超音波センサーで障害物を検知」する。要は凸凹や勾配があり、木が密に植えてある果樹園でも自律走行しながら草刈りをしてくれるというわけだ。電池の残量が無くなりそうになったら、充電器に戻って来るという意味では家庭用掃除機「ルンバ」と同じタイプである。
肝心の除草については「草が残っているところではなく、ランダムに動き回るので、除草としての機能はそこそこ」とのこと。しかし、森山さんが期待していたもう一つの効果については手放しで評価している。それは「ネズミ対策」だ。
リンゴ園ではネズミが地中にトンネルをつくり、苗木をかじる。もりやま園でもひどい年には苗木の半分が被害に遭った。
「改植して、5年かけて育てた苗木がやられたときにはショックで立ち直れないかと思いましたね。隣接する園地が廃業して木を伐採すると、こちらにネズミが大移動してくるんです」
有効とされる忌避剤や殺鼠材を使っても防ぎきれなかった。一方、除草ロボットは想定以上の成果を上げている。
「ネズミは活動するのが困難になりますね。除草ロボットが24時間休む間もなくあちこち動き回って草を刈って隠れ場所をなくすだけではありません。絶えず動いて物音をさせているので、心理的なストレスでいなくなるのではないかと思っています」
さらに労働生産性をあげるために導入を予定しているのは、省力化が期待できる「高密植わい化栽培」。青森県りんご研究所によると、10aあたりの栽植密度は一般的なわい化栽培では100本程度なのに対して、高密植わい化栽培では300本程度に増やす。
特徴は一般的なわい化栽培のように骨格枝をつくらず、下垂方向に誘引した側枝を利用すること。主幹に手が届きやすく、作業が容易になる。 同時に自律直進型の収穫機も購入するつもりだ。人が操縦せずとも直進するこの機械については、鰺ヶ沢町の木村才樹さんの記事で紹介したので、関心のある方はご覧頂きたい。
「リンゴの栽培は50年前から何も変わっていないですね。どの産業も人手不足は深刻で、手作業が多くて労働生産性の低い産業から順番に産業間の競争の中で淘汰されているというのに、いつまでも低賃金のまま人海戦術を必要とする作業を続けていけるわけがない。はしごや手かご、コンテナを使わなくても作業ができるようにしたいんです」。
森山さんは続けてこう語った。
「これからはロボットやデータを活用したスマート農業なくしてリンゴの経営が続くはずはない。そういう危機的な段階まで来ています」
森山さんはスマート農業についてもまずは自らが実績を残すことで、ほかの農家が追随したくなるようにするという。
バリューチェーンと地域の農業振興を意識しながら、生産現場に変革を興そうとするその果敢な取り組みについては、いずれまた紹介したい。
もりやま園 (株) MORIYAMAEN Co.,Ltd. |青森県弘前市の農業ベンチャー企業!
https://moriyamaen.jp/
同社は「Agrion果樹」のほかに自律走行の除草機と自動選果機を使い始めた。いずれ自律直進型の収穫機も導入する予定だ。
代表の森山聡彦さん(49)は「スマート農業はこれからのリンゴの経営にとって欠かせない」と言い切る。
労働生産性の向上に最も寄与した自動選果機
「今のところ最も労働生産性を上げてくれますね」。
森山さんがこう評価するのは自動選果機。光センサーを使うことで果実を破壊することなく、糖度や蜜の入り具合、褐変の有無や度合、果実の大きさと着色の度合などをデータ化してくれる。
もりやま園は11人の正社員のほかアルバイトとして弘前大学の学生を30人ほど雇っている。特に仕事に追われるのは収穫時期である。木から実をもいでは、果実の大きさと着色の度合など複数の観点から次々に選果しなければならない。本連載の第2回で述べた通り、特にもりやま園の場合は品種の内訳で晩生が75%を占めているため、11月中はこれらの作業で多忙を極める。
問題なのは、選果が経験を要するということだ。これに関しては、森山さんの言葉を借りよう。
「社員と同じレベルで選果するには2年の研修が必要です。選果のポイントについて口で説明して、頭で理解してくれても、実際にやってみると瞬時に判断ができない。それだけ観点が多いわけです。だから未経験者は経験者の5倍くらい時間がかかりますね」
結果としてこれまで選果に携わったのは基本的に正社員だけ。11人という人員で9.7haという大規模の園地に成るリンゴのどれだけをさばけたかといえば、わずか25%。すべてを選果するため経験者を臨時で集めたくても、周囲には人がいない。
「だから残りの75%は収穫しても加工原料用として『グッバイ』となっていました。加工原料用は安い。だから万年赤字だったんです」
ところが、自動選果機の導入で「一気に問題解消ですね」。
選果は学生のアルバイトに任せた。正社員1人が指導役として残る。アルバイトは外観の傷の有無で分け、傷がない果実だけを選果ラインに載せる。これで収穫物はすべて自社で選果できるようになった。
つまり、以前は規格外に入るものであっても選果できずに加工原料用に回すしかなかったものが、青果物として自社で販売できるようになったのだ。これで販売単価と共に時間あたりの労働生産性を倍以上に押し上げた。
除草ロボットはネズミ対策に有効
自動選果機の導入にはスマート農業実証プロジェクトの補助事業を使った。同時に実証試験をしたのは除草ロボット。和同産業株式会社(岩手県花巻市)の製品「ロボモアMR‐300 KRONOS」である。
その特徴は同社の説明資料によると、「3輪駆動と独自のタイヤパターンで高い走破性」を有するほか、「超音波センサーで障害物を検知」する。要は凸凹や勾配があり、木が密に植えてある果樹園でも自律走行しながら草刈りをしてくれるというわけだ。電池の残量が無くなりそうになったら、充電器に戻って来るという意味では家庭用掃除機「ルンバ」と同じタイプである。
肝心の除草については「草が残っているところではなく、ランダムに動き回るので、除草としての機能はそこそこ」とのこと。しかし、森山さんが期待していたもう一つの効果については手放しで評価している。それは「ネズミ対策」だ。
リンゴ園ではネズミが地中にトンネルをつくり、苗木をかじる。もりやま園でもひどい年には苗木の半分が被害に遭った。
「改植して、5年かけて育てた苗木がやられたときにはショックで立ち直れないかと思いましたね。隣接する園地が廃業して木を伐採すると、こちらにネズミが大移動してくるんです」
有効とされる忌避剤や殺鼠材を使っても防ぎきれなかった。一方、除草ロボットは想定以上の成果を上げている。
「ネズミは活動するのが困難になりますね。除草ロボットが24時間休む間もなくあちこち動き回って草を刈って隠れ場所をなくすだけではありません。絶えず動いて物音をさせているので、心理的なストレスでいなくなるのではないかと思っています」
「高密植わい化栽培」と自律直進型の収穫機の導入へ
さらに労働生産性をあげるために導入を予定しているのは、省力化が期待できる「高密植わい化栽培」。青森県りんご研究所によると、10aあたりの栽植密度は一般的なわい化栽培では100本程度なのに対して、高密植わい化栽培では300本程度に増やす。
特徴は一般的なわい化栽培のように骨格枝をつくらず、下垂方向に誘引した側枝を利用すること。主幹に手が届きやすく、作業が容易になる。 同時に自律直進型の収穫機も購入するつもりだ。人が操縦せずとも直進するこの機械については、鰺ヶ沢町の木村才樹さんの記事で紹介したので、関心のある方はご覧頂きたい。
「リンゴの栽培は50年前から何も変わっていないですね。どの産業も人手不足は深刻で、手作業が多くて労働生産性の低い産業から順番に産業間の競争の中で淘汰されているというのに、いつまでも低賃金のまま人海戦術を必要とする作業を続けていけるわけがない。はしごや手かご、コンテナを使わなくても作業ができるようにしたいんです」。
森山さんは続けてこう語った。
「これからはロボットやデータを活用したスマート農業なくしてリンゴの経営が続くはずはない。そういう危機的な段階まで来ています」
森山さんはスマート農業についてもまずは自らが実績を残すことで、ほかの農家が追随したくなるようにするという。
バリューチェーンと地域の農業振興を意識しながら、生産現場に変革を興そうとするその果敢な取り組みについては、いずれまた紹介したい。
もりやま園 (株) MORIYAMAEN Co.,Ltd. |青森県弘前市の農業ベンチャー企業!
https://moriyamaen.jp/
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