秋田県がスマート農業で実現する、コメから小菊への転換と生産規模拡大(前編)

秋田県では農機やロボット、ICTを活用して小菊を省力で安定して生産する動きが広がっている。

一連の技術を導入することで、作業時間は慣行栽培と比べると33%減となり、需要期の出荷率は96%に高められた。開発に携わった秋田県農業試験場を取材した。


コメ偏重からの脱却で小菊の生産拡大へ



秋田県は言わずと知れたコメどころ。しかしその消費量が落ちる一方であることから、県は2014年に「メガ団地等大規模園芸拠点育成事業」を打ち出した。稲作偏重路線を止めて、園芸の振興を図ることにしたのだ。

その一環で伸びているのが「小菊」の栽培である。同県における花きのうち、系統販売額で4割を占めるのは「菊」であり、なかでも主力は「輪菊」だった。

その座を「小菊」に明け渡したのは、「園芸メガ団地事業」が始まった2014年。「輪菊」と比べると「小菊」は露地栽培に向いている。そのため、同事業を追い風にして規模の拡大と合わせて小菊の生産への移行が進んできた。

課題になったのが、省力化と低コスト化である。とりわけ小菊の栽培は機械化されておらず、労働集約的だ。おまけに「仏花」なので、需要が「盆」と「彼岸」に集中している。

生育と開花が気象条件に左右されやすいので、その集中した期間に安定して出荷することが難しい。それと同じ理由で、作業が短期集中となるため労働力が足りなくなりがちだ。

このような複数の問題点があることで作業が遅れ、品質の低下を招いてしまう。しかし、コメの消費量が落ちていることもあり、課題を克服しなければならない。盆から彼岸にかけての小菊の需要が満たされていないのであれば、産地にとって将来への不安はぬぐえないのだ。


電照栽培に有望な品種を選定


そこで、秋田県がまず実証したのは、電照栽培である。

一般に短日植物である菊は、夜中に電灯で照らすことで開花を抑制できる。開花を調整できれば、需要期に安定した出荷が可能になる。

ただ、夏秋の小菊は電照が効きにくいほか、品種間で差ができてしまう。電灯照明を切ってから開花するまでにかかる日数を品種ごとに明らかにしながら、有望な品種を見出そうとした。

そのために、防水機能を有している赤色LED電球を使って実証してみた。8月出荷の作型では「精しらあや」の開花がやや早く、調整重が小さいので、定植を早くして消灯日を遅らせることが調整する必要があることがわかった。

このほか「精きくゆう」「精かりやす」を有望な品種とした。

赤色LEDによる電照栽培の様子。(写真提供:秋田県)
9月出荷の作型では、「精こまき」「精はんな」「精しずえ」は開花ぞろいが良く、採花期間は短く、計画生産に有望であると判断。さらに、切り花にしても、長さが十分であった。


電照のモニタリングにクラウドを活用


電照を使うとなると特に心配なのが、落雷や強風で電気系統に不具合が生じることだ。夜の見回りと点検が必要になってしまう。

その手間をなくすために実証したのは、電気が点いていることを監視する仕組み。圃場に照度などを計測するセンサーやカメラを設置し、そのデータをクラウド経由で把握できるようにした。

実証に参加した農家からは「電照を導入することで、集中して計画的に作業ができるようになった」といった評価を得た。さらに「慣行栽培では圃場のどこからでも開花する可能性があるため、収獲する際には圃場全体を回らなければいけなかった。電照の場合は順々でいいので楽になった」とのことだった。


施肥、耕起、畝立て、播種を同時に


開花がそろえば、次に目指すべきは機械化とロボット化だ。機械化で試したのは、自動直進機能付きの畝内部分の施用機と半自動乗用移植機などである。

まず、自動直進機能付きの畝内部分施用機について説明したい。慣行栽培では定植するまでに、

耕起 → 施肥 → 耕起 → 畝立て場所の印付け → 畝立て → マルチ張り
という作業を順番に行っている。しかも、畝立て場所の印付けは通常なら2~3人の人手をかけてこなすので、時間と手間がかかっている。

この最初の耕起以外の作業をすべて一度にこなすのが、自動直進機能付きの畝内部分施用機を導入する狙いだ。

実証で用いたのは井関農機の畝内部分施用機「エコうねまぜ君」。これを、RTK-GNSSを用いた自動操舵システムで自動的に直進できるトラクターに取り付けた。

その結果、狙い通りに一連の作業を同時にこなすことができ、畝立て前の印付けが不要になった。作業時間は、慣行栽培と比べて54%減少。作業精度は、畝幅の設定値との差が±6.5センチ以内となり「慣行と同等」だった。さらに、肥料を散布する範囲が植え付け部分だけになったことで、肥料の散布量は30%減らせた。

写真提供:秋田県

移植の機械化も


移植の機械化では、同じく井関農機が扱う半自動乗用移植機「ナウエルナナ」の改良版を実証した。株間は8、10、12センチ。条間は30~50センチに変えられる。

実証の結果、作業時間は71%減った。作業精度は、株間から±1センチの範囲内に植え付けられる確率が81%となり、慣行栽培の68%という数値よりも高かった。

ただし、畝間の通路の土質によっては移植機のタイヤがスリップしてしまう。このため、秋田県農業試験場野菜・花き部の山形敦子主任研究員は「植え付ける幅については微調整が必要」と話している。


次回は、収穫機や切り花調製ロボットの実証結果を紹介する。


【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。