“愛の野菜伝道師”小堀夏佳さんが伝えたい、野菜が持つ多様性の魅力


「愛の野菜伝道師」という肩書きを持つ女性を知っていますか?

小堀夏佳さんは全国津々浦々の農家さんをまわって美味しい野菜を見つけ出し、ネーミングやキャッチコピー、レシピの考案などトータルブランディングをすることで、まだ世の中に広く知れ渡っていない野菜の美味しさを普及させる活動をしています。

今回は愛の野菜伝道師の小堀さんと、小堀さんの所属されている株式会社バルーンの代表取締役である志水祐介さんに、このような活動を始めたきっかけや、いま取り組んでいること、そして農家のみなさんやこれから新規就農される皆さんに伝えたいことなどを、伺ってきました。

――まずは「バルーミー」のご説明を簡単にしていただけますか?

志水:「バルーミー」というサービス名は、「バルーン」と「ミー」を組み合わせた言葉で、「私の胃袋を風船のように膨らませて」という意味がこめられています。

バイヤーが全国から集めてきたワクワクする食材の魅力を、いろんなジャンルのフードテラーに語ってもらい、ご家庭にお届けするというサービスです。

バルーミーを運営している株式会社バルーンは、丸亀製麺などを運営する株式会社トリドールホールディングスの新規事業という位置付けで、グループ会社の一翼を担っています。

志水祐介 代表取締役

主な事業内容は3つあって

  • 愛の野菜伝道師の小堀を中心として進めているワクワクするような食材を世の中に向けてお届けしていくサービス
  • 食材を届けるだけではなく、その裏側にある想いや情報を発信するメディア事業
  • ものを届けることや、情報を発信することが整ってきたので、そのノウハウを活用したB to B向けのコンサルティング事業

となっています。

形で野菜をはじく農業界の規格を破壊したかった

――なるほど。そのバルーミーで、小堀さんが全国各地からワクワクする野菜を見つけてきて、その魅力を伝えた上でご家庭にお届けしているわけですね。小堀さんは、前職は大手の食品通販会社の立ち上げ当時からのメンバーだったと聞いていますが、なぜバルーンに入られたんですか?

小堀:まずわたしが前職の会社に、銀行を辞めていきなり転職したというところから話したほうが伝わりやすいのでお話しますね。

銀行からの転職だったので、当時は本当に野菜のことなんて全然わからなくて、ただひたすら電話で農家さんにコンタクトをとって、現場に実際に足を運んでいたんです。

そこで最初に衝撃を受けたのが、野菜に規格が設けられているということ。美味しいのに形がよくないだけではじかれてしまうというのが、なんだか納得がいかなくて。

それをなんとかしたいと昔のドラマから拝借して「ふぞろいの野菜たち」というネーミングで売り出したら、ヒットしたんです。その時は、“価格破壊”ならぬ“規格破壊”をしたいと思ってましたね。

「愛の野菜伝道師」小堀夏佳さん

そしてもう1つの現場で受けた衝撃が、野菜は甘くて旨味があるということ。そこでは、「フルーツな野菜たち」「ピーチかぶ」という名前をつけさせてもらいました。

そうやって気付かれていない価値に名前をつけることで、今まで注目されてこなかった野菜の魅力に気付いてもらえて、とてもやりがいを感じていましたね。

ピーチかぶ農家さんと18年前を思い出しまるかじり(笑)

ところが会社が大きくなってから、そういった価値表現以上に出荷量やその他諸々の交渉に時間を費やす時間が増えてきた自分がいて、同時に職人気質でおいしい野菜をただひたすら作ることに専念する農家さんたちの姿が頭に浮かんできて、いてもたってもいられなくなったんです。

その時にはわたしはもう、使命感のようなものを持って野菜の魅力を伝えていきたいと思っていたので、志水さんにずっとお声がけしてもらっていたこともあり、バルーンで働くことを決めました。

うりずんセルリー

野菜の多様性を広めたい

――使命感というと、野菜の価値を広めていくということですか?

小堀:そうですね。野菜はとても多様性があるので、その価値をうまく表現して、より多くの人にわかってもらいたいと思っています。

バルーミーでは、そのために多様性を持ったいろんなジャンルのフードテラーが、様々な角度から食材の魅力を伝えてくれています。そうやって素材の持っている価値に応じて多くの人につなげていく……それが会社としてやっていることです。

また、これだけ多様性がある野菜の品種を途絶えさせたくないという強い気持ちもあります。日本には伝統野菜、種取り野菜、各地に根付いてる野菜などがたくさんあるんです。

雲仙種をあやす会 在来島大根の母本選抜

ズッキーニの受粉

野菜作りを次世代につなげるために

――そういう野菜がどんどんなくなっているという話はよく聞きますね。

小堀:そうなんです。例えばサツマイモだと、「紅あずま」はほっくりしてるのが特徴でこの季節にはぴったりなんですが、生産量は落ちています。サツマイモといったら今は、ねっとりとして甘い「紅はるか」が主流だからです。

紅はるかは誰でもどこでも簡単に作れる品種です。ところが紅あずまは作るのが難しくて、エグみなく作るのは大変なんです。そのため、淘汰されてしまいそうなんですが、一度品種や作り手が途絶えてしまうと、それを取り戻すのはとても難しいことだし、場合によってはそのまま二度と食べられなくなってしまうものだってあります。

季節に合わせたメジャーではない美味しさの価値に、消費者にも作り手さんにも気付いてもらいたいですね。

――ずっと作り続けてる農家さんがやめてしまったら、次世代の若い人たちはそういう品種を作ることを諦めてしまいそうですね。

伝統野菜金糸瓜(パスタ瓜)若手農家

小堀:でも、若くてもそういう品種を作っている子達もいて、だからわたしは、みんなで食べ続けることで売れるんだから諦めないで! って伝えたいし、そのための実績を作っていきたいと思っています。

数量じゃない喜びって必ずあるし、みんながやめたら逆にニーズができて価格が上がるかもしれない。若い人や向上心のある人たちだからこそ、改善する方法を見つけて、うまくやっていける可能性があると信じてます。

――小堀さんみたいな気持ちで接してくれるバイヤーの人がいたら農家さんも嬉しいでしょうね。

小堀:農家の方も、想いが強い人は気持ちを伝えたがってるんです。だから物が売れるのももちろん大事ですが、伝えたいことがちゃんと相手に伝わっているととても喜んでくれます。

わたしはそんな、いち消費者の声をそのまま、農家の方にもプリントして見せています。その方がわたしが伝えるよりも気持ちが届きますから。

――それはとても素晴らしいことですね。それでは最後に、今後の展望というか、想いをお聞きしたいのですが。

小堀:人間も多様性のある生き物なので、多様性のある野菜の味を、こういうのも美味しいんだよ? っていう新たな切り口で伝えていきたいです。

最近、志水社長と盛り上がってるのですが、「苦いが美味しい」っていう感じの、「苦いセット」を作りたいですね。甘い時代は終わったと(笑)。そういうメジャーな味は大手さんにお任せして、ニッチな世界を攻めていきたいです(笑)。

でも、独りよがりでこれが美味いというのも大事ですが、食べる人への思いやりもあるというのが、美味しさを作る人には必ずあると思っているので、これからもそういう作り手さんの想いを多くの人に届けていきたいです。

<参考URL>
BallooMe(バルーミー)

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WRITER LIST

  1. 堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
  2. 大槻万須美
    管理栄養士・フードスタイリスト。楽しく食べて健康に。食の大切さを伝えるため、料理教室、バレエダンサーやアスリートのパーソナル栄養サポート、レシピ・コラムの提供など幅広く活動。子どもの頃の毎年の米作り経験から、身近な食体験の重要性についても実感し、おとなと子どもの食育サポートにも力を注いでいる。
  3. 田牧一郎
    たまきいちろう。68歳。日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  4. 田中克樹
    たなかかつき。32年間の農業出版社勤務を経て、2020年末、故郷の八ヶ岳南麓に帰郷。仲間と共に農業・福祉系NPOを立ち上げ、遊休農地・耕作放棄地を再生し、心身の癒しや健康づくりにつながる有機無農薬の体験型農園づくりに取り組む。NPOでは田んぼ除草にホバークラフトを活用したスマート技術を開発中。農と風土(フード)を愛する人たち向けのブックカフェ・居酒屋を開くのが夢。
  5. 山田正美
    大阪工業大学大学院修了。福井県職員として、農業試験場研究員、専門技術員、農業技術経営課長、農林水産部技幹を経て退職。現在、日本生産者GAP協会常務理事、日本農業サポート研究所主席コンサルタント。
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