農家と消費者を結ぶ「Rakuten Ragri」が描く農業の未来

楽天が2017年4月からスタートした「Rakuten Ragri」。農家と消費者をつなぐこのサービスの概要については、以下の記事でも紹介した。

農家との直販契約の新しいかたち「Rakuten Ragri」の可能性

しかし、このRakuten Ragriは、農家と消費者をつなぐRagri CSAだけでなく、小売店など法人向けにオーガニック野菜のカットサラダを供給や、新規就農希望者に対する支援なども行っているという。

そこで、今回は、Rakuten Ragriの担当を務めている新サービス開発カンパニー農業事業部の梅村周平氏にインタビューを行い、その現状を伺った。


なぜ楽天はRakuten Ragriを始めたのか

そもそも、楽天がRakuten Ragriを始めた背景にはどのようなことがあったのだろうか。

「まず背景にあるのは、日本の農業を取り巻く環境です。高齢化が進み、農家数が急激に減少。担い手も不足し、耕作放棄地も増加の一途をたどっています。当社が試算した結果では、農家数は1960年の1454万人から2026年には56万人まで減少し、耕作放棄地も東京ドーム98,000個分に相当する46万haにまで増えるのではないかと危惧しております」

さらに、新たな農業就農者に対する高い壁も存在する。

「農業は参入、そして事業継続が非常に難しいといわれています。農業を始めるには、農地が必要ですが、それを確保するためには所有者とのツテが必要になることもあります。農業機械を導入する場合は、多額の費用も必要となります。また、実際に農業を開始できたとしても、収穫量や相場が安定しないため、収入が安定しなかったり、そもそも農作物を育てる技術不足で生産がうまく進まない可能性もあります」

Rakuten Ragriのトップページ

このような課題に対して、考案されたのがRakuten Ragriだった。

楽天というブランド力を活かした農家とユーザーをつなぐプラットフォームを作ることにより、農作物を流通させる場を構築。また、新規就農者がスムーズに農業参入できるよう、その支援なども積極的に行っている。

オーガニック野菜のカットサラダをコンビニに供給

Rakuten Ragriが手がけるサービスの中で特に好評を得ているのが、日本で初めて手がけた「オーガニック野菜の生産からカットサラダへの加工までを手がける事業」だ。

梅村氏によると「このサービスでは現在、愛媛県にある農場で生産されたオーガニック野菜を近くの工場で加工して、法人企業様にご提供しております。すでに『タニタカフェ』や『ナチュラルローソン』での提供開始が発表されています。また、多くの企業様から取り扱いについてお引き合いをいただいております」

Rakuten Ragriで手がけたオーガニック野菜

あまりの反響に「むしろ供給体制を整えていくのが課題」と語る。その中でも、土地の選定、確保は大きなポイントだ。「生産効率を考えて、弊社では10ha以上の農地を選定しています。その後、自治体や地権者の方と協議を進めて、土地の取得を進めたいと考えております」(梅村氏)

就農希望者の門戸を開放するために

こうして取得した土地は、就農希望者の門戸を開放するために提供されることもある。「就農したいけれど土地の取得が難しい方が、耕作放棄地の開墾や作物の生産技術などを身につけていただく機会になればと考えております」と梅村氏はその狙いについて語る。

就農希望者は、Rakuten Ragriのサービスページだけでなく、農業希望者向けの求人サイトや農林水産省の「新・農業人フェア」で受け付けている。反響は上々で、初期の段階では定員数をオーバーする応募があり、現在も問い合わせが継続しているという。

また、就農希望者に対して、実際に農業経営者になるためのキャリアも提示する。その一つが、後継者がいない農業経営者とのマッチングだ。

「引退間近の農家の方に研修の指導者をお願いしています。2年間指導していただき、農家の方が引退されるタイミングで、指導を受けた方が事業を承継できるようお手伝いしております」

現在、Rakuten Ragriではおよそ30人が農業経営者になるべく研修を受けている。彼らの成長がRakuten Ragriだけでなく、日本の農業を支え、次世代がさらに発展させることにつながるかもしれない。

Rakuten Ragriで農業を学ぶ実習生たち

Ragri CSAでも人気農家やへビーユーザーが誕生

一般消費者向けのRagri CSAも着実にその裾野を広げつつある。

梅村氏よれば「へビーユーザーになるような方も出てきており、想定以上に利用していただいております。Ragri CSAでは、バーチャル畑で野菜を育てることができ、お世話を頑張ると野菜を多く手に入れることができるなど、参加型で展開していることがその要因の一つでしょう。中には、応援している農家さんがイベントで近くに来た際に会いに行く方もいらっしゃいます」とユーザーからの評価は上々のようだ。

Ragri CSAは一般消費者だけではなく、農家の方々にとっても販路を広げる貴重な場だ。Rakuten Ragriのプレスリリースやニュースを見て、参入された方の中には、人気の農家が現れているという。

「たとえば、シャインマスカットを生産している山内さんは、リピーターもついて、非常に人気が高いです。ユーザー様から支持を集める農家様は、頻繁に情報を発信したり、ユーザー様からのコメントに対して丁寧に返事していたり、作物へのこだわりを動画でアピールするなど工夫をこらしていらっしゃいます」

Ragir CSAに参画している山内いくみさん

Ragri CSAに参入しているのは、既存の農家が多いようだ。新たな販路開拓のために、Ragri CSAを積極的に活用しようとしている姿勢がうかがえる。

楽天が農業分野で発揮する強みとは

ローンチして1年が経過し、順調に成長を続けるRakuten Ragri。今後、楽天がRakuten Ragriを展開するメリットについて、梅村氏はどのように考えているのか。

「農業を含め、食という分野は非常に大きな市場があると見て、Rakuten Ragriは立ち上がりました。現在は、BtoCだけでなく、BtoBでかなり引き合いがあることから、そこにも手応えを感じています。また、Ragri CSAもこれからさらに力を入れて、『楽天市場』との連携も深めていければと考えています」

楽天の農業に対する見方は非常に前向きだ。それを踏まえて、梅村氏は農家に対してこのようなメッセージを送る。

「消費者の方に良い食材を届けたいという熱い思いを持った農家さんがどんどん参入して、弊社と一緒にRakuten Ragriを育てていただければ嬉しいです。また弊社としても、販路の開拓などで、引き続き農家さんに貢献してまいります」

危機に直面する日本の農業。しかし、そのポテンシャルは計り知れないほど大きいのも事実だ。Rakuten Ragriが日本の農業にどのような影響を与えるか、今後の発展に注目したい。

<参考URL>
Rakuten Ragri
Ragri CSA


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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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