“農家を育てる会社”テレファームと楽天が挑む「新規就農×オーガニック」

中山間地の愛媛県大洲市に、楽天の子会社である農業法人テレファームがある。同社は2008年に創業し、有機野菜の栽培や加工を手がける。

代表取締役の遠藤忍さんは2007年、農業を変えることで高齢化や人口減に悩む田舎を元気にしたいと一念発起。脱サラして新規就農したものの、農地を借りるにも取得するにも、販路を拡大するにも苦労続きという厳しい現実にぶつかる。実体験に基づき、新規参入でも農業ができる仕組みをつくってきた。

テレファーム代表取締役の遠藤忍さん。楽天農業事業部のジェネラルマネジャーも兼ねる
 
大洲市の大型の量販店や全国チェーンの店舗が国道沿いに並ぶエリアを郊外に向かって車で走っていくと、赤い丸に「R」の文字が白抜きされた楽天のロゴマークが目に飛び込んでくる。2016年に楽天と提携し子会社になったテレファームの社屋の目印だ。

同社は「農家を育てる会社」を自認している。愛媛県内で計8ヘクタールを耕作し、約40人の従業員を雇用する。取材で訪れた日は20代と30代の従業員数人が研修を受けている最中だった。

農業への新規参入は農地と販路が壁

テレファームは大洲市と愛媛県伊予市に農地を持ち、サニーレタス、ルッコラといった葉物野菜を中心にニンジン、ビーツなど50品目を栽培する。BtoC(消費者向けビジネス)の取り組みとしては、Rakuten Ragriを運営する。

簡単に言うと、これまで農産物という「モノ」を売る仕事だった農業を、消費者から栽培を依頼され食卓に届けるという「コト」に変え、農家に単に農作物を売る以上の収入をもたらすというものだ。

■Rakuten Ragriを紹介した過去記事はこちら
農家との直販契約の新しいかたち「Ragri」の可能性
農家と消費者を結ぶ「Rakuten Ragri」が描く農業の未来

Rakuten Ragri向けにハウスで栽培するトマト

BtoB(対企業向けビジネス)としては、自社生産の有機野菜を自前の加工場でオーガニックサラダにする事業を今年5月に始め、「タニタカフェ」や「ナチュラルローソン」向けに販売していた(ただし、7月の西日本豪雨で加工場が被害を受け、製造を中断。今秋に再開の見込み)。

「平均年齢は33歳くらい。32人いる社員の大半が県外からの移住者です」
テレファーム社員の山下恭平さんがこう説明してくれる。

テレファームの山下恭平さん

車で農地に案内してもらうと、曲がりくねった山道を登った先の標高300メートルほどのところに、かつて国のパイロット事業で山を切り拓いてつくった畑が広がっていた。Rakuten Ragri向けにトマトを栽培する15アールほどのハウスが一棟あり、露地で葉物野菜を栽培している。

農地の条件は恵まれているとは言いがたい。代表の遠藤忍さんはもともと医療関係の仕事をしていて、農業とは無縁だったため、なかなか条件の良い土地を貸してもらえなかったのだ。

知人の畑を借りて農業を始めたものの、新規参入者に農地を貸してくれる人は少なく、50アールの農地を借りるのに2年かかった。野菜を買ってもらおうとスーパーのバイヤーに会いに行っても、最初は相手にされず、店頭に並んだのは就農して5年後。バイヤーには「新規就農したばかりの人の農産物は、信用がないから我々は買えない」と言われた。

加工とRakuten Ragriで販路提供

農地を借りるにも販路を開拓するにも、新規参入者は苦労する。そのことは身をもって学んだ。農業以外に収入を得られる副業があったから続いたものの、そうでなかったら途中であきらめていただろうと、遠藤さんは振り返る。

「脱サラして農業の世界に飛び込んだらこれでは、新規就農者は増えないじゃないかというのが、自分で経験してわかったんですよ。だから、こういう仕組みがあったら新規就農者をどんどん増やしていけると自分が確信したことを、今やっているんです」(遠藤さん)

Rakuten Ragriとオーガニックサラダの製造は、BtoC、BtoBの両面から、新規就農者でも販路と一定の収入が得られるようにする仕組みだ。オーガニックサラダの原料は新規就農者からも調達するつもりだ。

「就農して1年目でキュウリがちょっと曲がっていても、サラダの原料としてなら買える」
見てくれが悪くても、加工が前提なら対価を支払うことができる。

また法人として、新規就農者のための補助金も活用しつつ、週休2日、社会保険も完備し、農業に飛び込みやすい条件を整えた。社員を経て独立したい場合は、後継者を探している農家に紹介し、事業の承継を目指す。

今は愛媛県のみの農場も、全国に広げていきたいという。従業員40人という、作付面積からするとかなり多い雇用をしているのも、全国展開を視野に入れているからだ。

技術を伝え、オーガニック市場の拡張に挑戦

ところでなぜ有機農業で、しかも葉物野菜が中心なのか。

「オーガニックの中でも葉物野菜は、コメや根もの(根菜)に比べて少ない。新規就農で生きていくために、誰もやっていない分野ができる人間を輩出すれば、食べていけるじゃないですか」

有機農業が行われているのは、国内の農地のわずか0.5%(2016年度の推計による)。有機食品の市場規模は1,300億円で、食品市場でのシェアは1%以下だ。市場規模が4.7兆円で食品市場でのシェアが5.3%の米国とは、大きな差がある。

「日本もアメリカの比率程度まで行くだろうと思っています。楽天と一緒に、オーガニック市場の拡大も含めてやっていければ」(遠藤さん)

作業の効率化のためにトラクターなどの大型機械も導入

話を大洲市の農場に戻す。農場わきの草むらで、炎天下、4人が刈払機で黙々と草刈りをしていた。草むらにしかみえないそこは耕作放棄された畑で、耕作できる状態に戻している最中なのだ。愛媛県出身者はわずかに1人で、残り3人の出身地は埼玉県、東京都、岡山県とバラバラ。埼玉県出身で楽天農業事業部に所属している丸山毅さんが手を止めて話してくれた。

「楽天は一次産業に知見がないので、ここで知見を広めつつ、ほかの地域に行っても同じように展開できるモデルを作りたいんです」

地方発の農業ベンチャーとIT大手の挑戦は続く。

楽天農業事業部の丸山毅さん。開墾中の畑をバックに

<参考URL>
株式会社テレファーム

Rakuten Ragri
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WRITER LIST

  1. 福田浩一
    ふくだこういち。東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。現在は主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。http://www.ijas.co.jp/
  2. 中村圭佑
    なかむらけいすけ。明治大学農学部卒業後、日本農薬株式会社に約7年勤務。その後、大手経営コンサルティング会社を経て、FOOD BOX株式会社を2019年7月に起業。Facebook:https://www.facebook.com/foodboxjp/、Instagram:https://www.instagram.com/foodbox_jp/
  3. 百花繚乱
    趣味は料理、漫画、読書のミドルの男です。商社勤務で全国や海外を転々しているうちに、故郷に哀愁を覚え、約10年前に地元の農業関連会社にとらばーゆ。
  4. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  5. 藤本一志
    ふじもとかずし。大学・大学院の6年間を通して地域づくりと農業の活動に関わる。1年間のサラリーマン生活の後、学生時代から活動していた地域に移住し、2拠点居住を開始する。移住支援を通じた地域づくり活動に取り組む傍ら、兼業農家として稲作に取り組む。