雨水は野菜栽培に使える? pH・水質・用途から考える露地・ハウスでの雨水活用術


今年も梅雨や長雨が続く季節がやってきました。農業にとって雨は多くの場合「恵みの雨」ですが、露地野菜では土がぬかるみ、圃場に入りにくい日が増え、収穫、防除、定植、草刈りなどの作業順序を組み替える必要が出てきます。雑草の伸びが早まり、晴れ間に作業が集中せざるをえなくなるのも、この時期の悩ましいところです。

一方、ハウス栽培施設栽培)では、雨で作業そのものが止まることはありませんが、湿度の上昇、日射不足、換気、ハウス周りの排水、屋根から流れる雨水の処理などが課題になります。

雨水は、水道水や井戸水、農業用水とはpHや含まれる成分が異なります。ただ、弱酸性寄りだからといって、それだけで作物に直接効くというわけではありませんし、「天然の肥料」のように扱うのも正確ではありません。雨水の性質を知ったうえで、露地では水の入り方、ハウスでは集水後の水質や用途を分けて考える必要があります。

そこで今回は、雨水のpHを入口に、露地野菜とハウス栽培での水管理の考え方、雨水ならではの活用法を考えていきます。



雨水のpHは、水源を見比べる入口


雨水の性質を見るうえで、まず押さえたいのがpH(水素イオン指数)です。

pHとは、水や土壌などの酸性・アルカリ性の度合いを示す指標で、7を中性とし、それより数値が小さいほど酸性、大きいほどアルカリ性に傾きます。

雨水は、空から地上へ降る過程で大気中の二酸化炭素を取り込みます。そのため、人為的な大気汚染物質がない場合でも、pHは7より低くなりやすく、二酸化炭素が十分に溶け込んだ雨のpHは5.6前後が一つの目安とされています。弱酸性寄りであること自体は、雨水の自然な性質です。

環境保護運動が高まった1960年代に、「酸性雨」という言葉が取り沙汰されました。大気汚染物質に由来する硫酸や硝酸などの酸性成分が雨、雪、霧に取り込まれ、通常の雨より酸性度が強まったものを指します。前述のように雨水は弱酸性寄りですが、だからといってそれだけで農地や作物に悪い水だと見るのは早計です。

雨には、大気中の微量成分が溶け込むこともあります。その量や内容は地域、季節、大気の様子、降雨量によって変わります。施肥設計の根拠にするほど安定したものではないため、雨水中の成分は、肥料分としてではなく、水質の違いとして見ておくくらいがちょうどいいでしょう。

雨水のpHを見る目的は、「良い水か悪い水か」を決めることではありません。普段使っている井戸水、水道水、農業用水と比べたときに、性質がどの程度違うのかを知るためです。水道水は基準に基づいて供給されていますが、井戸水は地域によって鉄分、マンガン、塩類、硬度などが変わります。さらに、雨水は降り方や集め方によって水質が変わります。

露地では、雨水がどこから土に入り、根の近くまで届いているのか。ハウスでは、ためた雨水をどの用途なら無理なく使えるのか。こうした視点を持っておくと、雨水を単なる雨としてではなく、水源の一つとして見直しやすくなります。まずはpHなどの水質を見て、普段使っている水源との違いを知ることが、水の扱いを考える手がかりになるでしょう。


pHは土壌養分の“吸われやすさ”に関わる


水源としてのpHとは別に、土壌そのもののpHも野菜づくりで見ておきたい指標のひとつです。pHは、作物に直接効く成分というより、根のまわりの環境に関わります。

野菜は、土の中の水に溶けた養分を根から取り込んで育ちます。ただし、土の中に養分があることと、作物がその養分を吸えることは同じではありません。pHが適正範囲から大きく外れると、養分があっても、根が吸いにくい形になることがあります。

たとえば、pHが低すぎる土ではリン酸などが、高すぎる土では鉄やマンガンなどが根から吸収されにくくなります。肥料の量だけでなく、根が養分を取り込みやすい環境かどうかを見るうえでも、pHは手がかりです。

ただ、雨水が土に入っただけで、pHがすぐ大きく動くわけではありません。土には酸性やアルカリ性の変化を受け止める働きがあり、腐植や粘土分が多い土、石灰資材を入れてきた土では変化は緩やかです。

砂質で保肥力が低い圃場や、もともと酸性に傾きやすい圃場では、水や肥料の違いが出やすくなります。雨水のpHは、施肥や石灰資材の量を変える根拠にするものではなく、土壌pHを意識するきっかけとして扱うのがよいでしょう。

実際の施肥や土づくりは、土壌診断、施肥履歴、排水性、作物の生育などをもとに組み立てていく必要があります。


露地野菜の雨水活用のポイント:「入り方」と「使い道」



露地野菜では、雨水が直接圃場に入ります。マルチを敷いている場合、雨水が畝全面に均一にしみ込むとは限りません。マルチ表面を流れた水は、植え穴、畝肩、マルチの端、通路側などから土に入ります。

そのため、雨水が作物の根の近くまで届いているかも見ておきたいところです。植え穴の周辺は湿っていても、畝の中心部は乾き気味ということもあります。通路や畝肩に水が集中し、過湿やぬかるみが残る場合もあります。

雨上がりのタイミングで、こうした水の残り方を一通り見ておくと、雨水がどこから土に入ったのかをつかみやすくなります。必要に応じてマルチの端を少しめくり、根の近くの土が湿っているかを確認するのも有効です。

もし根域まで水が届いていなければ、追加のかん水を考える、通路や畝肩に水が残っているなら、排水や次に入る作業順を見直す──雨水のpHや水質は、こうした水の入り方と合わせて見ることで、作物への関わり方を考えやすくなります。


ためた雨水の水質に注意


露地畑でも、少量の雨水を一時的にためて使う工夫はできます。

たとえば、ブルーシートや防草シートの余りを使い、雨を受ける簡易的な集水です。畑の隅に支柱を立て、シートを少したるませて張り、中央や一角に水が集まるようにします。その下にポリバケツ、丸型ペール、ドラム缶などを置けば、シートに降った雨を一時的にためられます。強風時にシートがあおられることもあるため、台風前や強風が予想されるときは外せるようにしておく方が扱いやすいでしょう。

こうして露地で集めた雨水や、マルチ表面から通路へ流れた水は、土ぼこり、落ち葉、有機物などが混じりやすい水です。そのため、収穫物に直接かける水、収穫後の洗浄に使う水、収穫直前に可食部へかかる水には向きません。通路への打ち水、泥の付いた道具の予洗い、収穫まで日数がある段階での株元への補助的なかん水など、汚れのリスクが比較的小さい用途に限る方が安全です。


ハウス栽培の雨水活用のポイント:屋根に降った雨を「水源」に



ハウスなどの施設栽培では屋根があるため、露地のように雨水がそのまま作物に当たることはありません。屋根に降った雨は、雨どいや谷樋を通じてハウス外へ排水されるのが一般的です。

用水の確保が課題になる地域や、貯水槽を設置しているハウスでは、昔から屋根雨水をためて、かん水用水の一部として使う例もあります。露地では「雨水がどこから土に入るか」を見るのに対し、ハウスでは「屋根から流れる雨水を排水するのか、ためて使うのか」が雨水活用を考える出発点になります。

農研機構の「抑制ミニトマト連棟ハウスにおける雨水利用によるかん水技術」では、熊本県沿岸地域の抑制ミニトマト栽培を対象に、ハウス屋根の雨水を貯留してかん水に使う技術が紹介されています。地域の降雨データ、かん水量、かん水回数をもとに、貯水槽の規模や集水面積を決める考え方です。同資料では、熊本県沿岸地域の条件として、ハウス面積に対する雨水集水面積25%、貯水槽容量10aあたり5m³で、9割程度のかん水を雨水で賄えるとされています。ただし、これは対象地域、作型、施設条件に基づく試算であり、雨量、栽培品目、ハウスの形、屋根面積、貯水槽の大きさによって、実際に使える水量は変わります。


雨水の汚れを防ぐ手立てを


ハウスで雨水を使う際は、水量だけでなく、水の状態も見ておきたいところです。露地と同じように、屋根や雨どいを通る過程で、落ち葉、土ぼこり、花粉、鳥のふんなどが混ざることがあります。また、貯水槽に光が入ると、藻やぬめりも発生しやすくなります。

これらはpHとは別の問題であり、フィルターを入れる、貯水槽を遮光する、定期的に清掃するなど、設備側での対策が必要です。

ためた雨水をかん水や液肥の希釈に使う場合も、普段使っている井戸水、水道水、農業用水と同じ感覚で使えるとは限りません。pHなどの水質をチェックし、液肥を混ぜた後の変化も確認しておくと安心です。

雨水は天候に左右される水です。空梅雨や高温期の少雨が続けば、貯水槽が空になることもあります。最初から主水源として頼り切るのではなく、井戸水、水道水、農業用水などを補う水として位置づける方が取り入れやすいでしょう。


雨水は「水質」と「用途」を分けて考えよう


雨水は、野菜を劇的に変える特別な水でも、肥料やかん水を置き換える万能な資材でもありません。雨が少ない年や空梅雨では、そもそも十分に集められないこともあります。だからこそ、常に使える水源ではなく、「降ったときに、どの用途なら使えるか」をあらかじめ考えて準備しておく、補助的な水として見るのが現実的です。

収穫物に触れる水、収穫後の洗浄に使う水、収穫直前に可食部へかかる水は、水道水など衛生面を確認しやすい水を使うことが基本です。ためた雨水は、道具の予洗い、通路への打ち水、収穫まで日数がある段階での株元への補助的なかん水など、使う場面を分けることで水のコスト削減や、水不足などの非常時の助けになります。

「雨水だからよい」「雨水だから使えない」と一括りにせず、pHなどの水質、汚れやすさ、作物に触れるかどうかといった条件に応じて、適切な用途が考えられます。6〜7月の雨の多い時期や、7〜9月の渇水や野菜の水分不足が気になる時期の備えとして、自分の圃場やハウスに合う使い方を決めておくことが大切です。


参考資料
気象庁|酸性雨に関する基礎的な知識
農林水産省|生理障害(土壌pHと養分吸収に関する記述)
農研機構|抑制ミニトマト連棟ハウスにおける雨水利用によるかん水技術
農林水産省|生鮮野菜を衛生的に保つために-栽培から出荷までの野菜の衛生管理指針-(第2版)

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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