6〜7月に行いたい「柑橘の樹勢管理」ガイド|梅雨時期に差がつく果実肥大のコツ

柑橘園では、梅雨入り前後から樹の様子が大きく変わり始めます。春先に勢いよく伸びていた新梢は落ち着き、生理落果が進むことで、「今年どこまで果実を残すか」を見極める段階に入ります。

長雨による過湿や病害の発生、徒長枝の増加など、樹へ負担がかかりやすいのもこの頃です。近年は高温や集中豪雨が増え、梅雨の作業内容が夏以降の生育や果実品質に反映される場面も少なくありません。

6〜7月は、摘果、防除、草刈り、排水路の手入れ、夏肥の施用などが重なります。限られた作業日数の中で、すべての園地へ同じように手を入れるのは容易ではありません。そこで求められるのが、樹ごとに力を入れる作業を変える視点です。着果量が多い木では樹勢低下を防ぐための摘果を先に行い、勢いの強い木では徒長枝を整理して樹冠内へ光と風が入りやすい環境を整えます。

収量だけでなく、翌年の着花まで見すえながら、限られた労力をどう割り振るか。その選択が夏以降の果実品質を左右します。



初夏の作業は「重要度」と「タイミング」


初夏は、防除、摘果、排水路の手入れ、草刈りなどの適期が重なる頃です。ただし、すべてを同じ順番で行えるとは限りません。梅雨入り後は雨によって作業日が減り、遅れが病害発生や樹勢低下を招くケースもあります。

作業内容によって、長雨前に終えたいものと、樹の生育を見ながら進めたいものがあります。予防散布や排水路の点検は雨が続く前に済ませたい作業です。一方、摘果や枝の整理は着果量や樹勢に合わせて加減していきます。

まずは、この頃に取り組みたい主な作業を一覧で見てみましょう。

作業実施時期優先度理由
予防防除(黒点病・そうか病) 梅雨入り前〜梅雨初期 感染機会が増える前に対処
排水路・明渠の点検 梅雨入り前 根への過湿ダメージを防ぐ
着果過多の木の摘果 生理落果後〜梅雨中 長雨前に樹負担を軽減
徒長枝・内向き枝の整理 梅雨入り前後 中〜高 防除効果と風通しを確保
夏肥の施用 5月下旬〜6月頃 樹勢や土壌条件を見ながら判断
ゴマダラカミキリ対策 6月頃〜 成虫飛来・産卵期に入るため
草管理 梅雨前後 状況次第 地表面の急乾燥に注意


梅雨時期の防除は「薬剤」だけでは安定しない


梅雨入り後は黒点病やそうか病など、雨によって広がる病気が増えやすくなります。黒点病は枯れ枝上で作られた胞子が雨滴によって飛散し、葉や果実へ感染します。そのため、梅雨入り前から梅雨初期に予防散布を行います。

ただし、薬剤散布だけでは十分とはいえません。枝葉が込み合った樹では葉や果実が濡れたままになりやすく、黒点病やそうか病が広がりやすくなります。さらに、散布液が樹冠内部まで届きにくくなり、葉や果実へ十分に付着しない場所が出てきます。

梅雨入り後は徒長枝や夏枝が増えやすいため、枯れ枝の除去や不要枝の切り取りを行いながら、「薬剤が届きやすく、乾きやすい樹冠環境」を目指します。樹冠内部まで風や光が入りやすくなり、葉や果実の乾きも早まります。

6月頃からはゴマダラカミキリの成虫も見られるようになります。幹の根元付近に木くず状のおがくずが出ている場合は、幼虫が入り込んでいるケースがあります。摘果や見回りの際に幹周辺へも目を向けておきましょう。


排水対策と夏肥は「根が働ける状態か」が判断基準


初夏は果実肥大と新梢伸長が続き、水分や養分を多く取り込む頃です。しかし長雨によって土壌へ水がたまると、根の働きが鈍くなり、葉色の低下や果実肥大の遅れが現れることがあります。

まずは園地の排水状況を見ます。雨が止んだ後もぬかるみが残っていないか、新梢の伸びが急に弱くなっていないか、葉色が薄くなっていないかなどを見ながら樹の様子を追っていきます。

夏肥についても、園地全体へ同じ量を施すのではなく、着果量や葉色、水はけの違いを踏まえて加減します。着果量が多い木では養分補給が求められる場面がありますが、水が抜けにくい場所では肥料が十分に生かされません。

勢いの強い木へ窒素分を多く与えると、枝ばかり伸びることがあります。果実の肥大と枝の伸び方を見ながら量を調節していきます。

近年は土壌水分センサーや気象データを利用し、園地内の水分変化を見ながら作業計画を立てる事例も増えています。排水路の手入れや施肥量を考える際の参考になるほか、ドローン画像を使って葉色のばらつきを見比べ、樹勢が落ちている場所を探す動きも広がっています。

乾きやすい園地では、梅雨明け後に土壌水分が急に減りやすくなります。草を短く刈り込みすぎると地表面の温度が上がりやすくなります。乾燥しやすい場所では刈草や敷き草を残し、水分の減り方を緩やかにするとよいでしょう。



作業の優先順位づくりが夏以降の生育を左右する


初夏から梅雨にかけては、摘果、防除、草刈り、施肥、排水路の手入れなど多くの作業が重なります。しかし、すべての樹へ同じ内容を行うよりも、着果量や葉色、新梢の伸び方に応じて力を入れる場所を選ぶほうが効率的です。

病害が出やすい場所、過湿になりやすい場所、樹勢が落ちている木など、園地内にはさまざまな違いがあります。限られた作業時間の中では、こうした違いを見ながら手を入れる順番を決めることが求められます。

初夏の作業は、その場の果実肥大だけでなく、夏以降の生育にも関わります。園地や樹の様子を見ながら取り組むことが、この時期の作業の質を高めることにつながります。

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参考資料
農林水産省「総合防除(IPM)の推進について」
農林水産省「総合防除実践マニュアル」
農林水産省「病害虫・雑草の防除情報」
農林水産省「スマート農業技術カタログ(果樹)」
農林水産省「スマート農業技術活用促進法」
農研機構「果樹|スマート農業実証プロジェクト」
農研機構 果樹研究関連情報

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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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