柑橘の樹勢低下を防ぐための観察術|5〜6月に確認したいポイント

近年、柑橘産地では気候変動の影響が各地で見られるようになりました。農林水産省がまとめた「地球温暖化影響調査レポート」では、うんしゅうみかんで日焼け果の発生が全国的に報告されているほか、果皮障害、果実品質の低下、生理落果の増加なども挙げられています。2024年のデータからも、果実肥大期以降の高温による日焼け果の発生が、西日本を中心に各産地で見られました。

こうした気象条件の変化が続く中、初夏の樹勢を丁寧に見ていく視点が欠かせなくなっています。この時期は、新梢の伸び方や葉色、果実のつき方に、前年からの貯蔵養分や根の状態に加え、春に行った施肥や摘果の違いも表れやすくなります。

初夏は摘果や病害虫防除、排水対策など、状況を見ながら進める作業が集中する時期です。どの木に負担がかかっているのか、どの木を回復優先にするのかを見極めながら、どの作業を優先するかを整理するかが求められます。

樹勢は、単に木の元気さを見るものではありません。「今年どれだけ実をならせるか」「翌年の花芽形成に無理が出ないか」を把握するための指標になります。初夏は、樹ごとの差が見えやすくなる時期です。葉・枝・果実・根まわり、それぞれの状態から何を読み取るか、順に見ていきましょう。



観察ポイント1:越冬葉と新梢で、樹の体力を確認する


初夏は、冬を越した葉(越冬葉)や春葉、新梢の状態から、樹の勢いを見ていく時期です。葉色や葉の厚み、新梢の伸び方には、前年からの貯蔵養分や春肥の吸収状態、その年の生育の勢いが表れます。

濃い緑色で厚みとツヤのある葉が多く、新梢が樹の内外からバランスよく伸びている木は、比較的樹勢が安定している状態と考えられます。一方で、黄化した葉や薄い葉、ツヤのない葉が目立つ場合は、養分不足や根の弱り、排水不良などが考えられます。

また、新梢が先端部だけに細く少量しか出ていない場合は、樹勢低下のサインです。特に、以下のような状態が見られる木では、樹勢低下が進んでいる可能性があります。

  • 葉色が薄い
  • 春葉が小さい
  • 新梢停止が早い
  • 着果が枝先に偏っている

こうした木では、果実を多く残しすぎず、摘果を早めに進めながら樹への負担を軽減し、回復を優先します。葉色だけで施肥量を増やすのではなく、根域の排水状態や土壌の締まり具合も含めて、樹全体の状態を見ながら施肥や摘果を進めます。

逆に、徒長枝や夏枝ばかりが強く伸びている木では、窒素過多や強剪定の影響も考えられます。6月頃から伸びる夏枝は、放任すると樹冠内部の日当たりや風通しを悪化させ、ミカンハモグリガなど新梢害虫の発生源にもなります。

ミカンハモグリガは、気温が高いほど世代回転が速くなる害虫で、高温年には発生回数が増える傾向があります。不要な枝は早めに芽かきし、枝数を調整しておくことが効果的です。


観察ポイント2:花と着果量から、今年の負担を判断する



初夏は、花や幼果の状態から「今年どれだけ実を残せるか」を見極める時期です。特に確認したいのは、花数の多さ、有葉花と直花の割合、生理落果後の着果量です。

有葉花が適度についている木は、葉で養分を確保しながら果実を育てられるため、比較的安定した着果につながります。葉を伴わない直花が多い木は、果実を育てる養分が不足します。さらに花数が多いと着果負担が大きくなり、そのまま実を残しすぎると、夏の果実肥大や翌年の花芽形成が弱くなります。

そのため、着果が多い木では早めに摘果を進め、樹への負担を軽減しておきましょう。

また、葉数が少ない木では、果実が強い日差しを受けやすく、日焼け果のリスクが高まります。近年は高温傾向が続き、日焼け障害が各地で問題となっているため、過度な枝整理は避け、葉数を確保しておくことが大切です。必要に応じて、遮熱資材を活用する方法もあります。

一方、果実が少ない木では、無理に実を残そうとせず、樹勢回復を優先しましょう。

同じ園地内でも、樹ごとに着果量や樹勢の状態は異なります。そのため、「実を残す木」と「回復を優先する木」を分けて進めるといいでしょう。


観察ポイント3:根まわりと土壌状態を、夏前に見直す



樹勢を支えているのは地上部だけではありません。根が十分に働けないと水分や養分を吸収できず、葉色や新梢の伸び、果実肥大にも影響が出やすくなります。

梅雨時期は、排水不良によって根が酸欠状態になりやすく、葉色低下や新梢停止が見られる場面も増えてきます。ただし、この時期に深耕や大規模な土壌改良を行うのは避けたいところ。細根が活発に動いている時期に土を大きく動かすと、かえって根を傷め、樹勢低下を招きます。

そのため初夏は、まず排水用の溝(明渠)や地下排水設備(暗渠)の詰まり、溝さらいなど、排水を助ける簡易的な作業を優先します。表面に水の逃げ道をつくるだけでも、根への負担を軽減できます。

葉色不良や樹勢低下が見られる木では、施肥量を増やす前に、まず土壌状態を見ておきましょう。土が湿ったまま締まっている場合は、肥料を施しても根が十分に吸収できません。表土が乾いた晴天時に棒などを刺し、土の固さや湿り具合を確認しておくと、その後の施肥や摘果にも生かしやすくなります。

ちなみに、堆肥投入や深耕などの本格的な土壌改良は、根の活動が落ち着く秋〜冬が適期です。初夏は、「どこで問題が起きているか」を観察・記録し、秋以降の改善計画につなげる時期ととらえましょう。


初夏の観察が夏以降の管理を決める


5〜6月の初夏に大切なのは、一本ごとの木を、葉・果実・根まわりまで含めて総合的に見ることです。そのうえで、「今年どれだけ実をならせるか」を見極めていきます。同じ園地内でも樹ごとの差は大きく、一本一本の観察が、その後の作業精度を左右します。

近年は高温傾向が続き、日焼け果や生理落果など、気候変動による変化も各地で見られます。こうした年ほど、初夏に見た樹の状態が、その後の摘果や追肥、枝整理の進め方につながります。

樹勢とは、単に木の元気さを見るものではありません。「今年どう実をならせるか」と「翌年の花芽形成をどう維持するか」を考えるための指標です。

初夏のうちに丁寧に観察し、記録しておくこと。その積み重ねが、秋以降の樹づくりや連年安定生産につながっていきます。

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参考
農林水産省「令和5年 地球温暖化影響調査レポート」
農林水産省「農業生産における気候変動適応ガイド うんしゅうみかん編」
こうち農業ネット「かんきつミカンハモグリガ」
和歌山県 果樹試験場「ミカンハモグリガ(エカキムシ)」
農研機構「カンキツ連年安定生産のための技術マニュアル」
農研機構「ウンシュウミカンの日焼けと果実表面温度」


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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