夏ネギは"スタートダッシュ"で決まる|5〜6月に行いたい初期生育を安定させる環境づくり

5〜6月のネギ圃場は、気温の上昇とともに葉が伸び始め、見た目には順調に育っているように見えますが、圃場環境の変化に対して非常に敏感です。

梅雨の豪雨や猛暑・地温の上昇が重なると、初期生育でつまずいた株が真夏に一気に草勢を崩すケースも少なくなく、春先には何も問題がなかった圃場でも、夏場に入って葉色の低下や根傷みが目立つことは珍しくありません。

この時期に重要なのは、「夏にどう耐えるか」ではなく、「夏前にどこまで生育を安定させられるか」にあります。

今回は、夏ネギの5〜6月初期生育で押さえておきたい作業の要点を取り上げます。


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5〜6月の夏ネギはまだ"未完成"


青々とした地上部だけを見ると順調に生育しているように見えても、5〜6月のネギはまだ不安定な段階です。

というのも、定植直後から活着初期にかけてのネギは根量が少なく、水や肥料を十分に吸収できるところまで根が広がっていないためです。そのため、わずかな環境変化でも生育差が出やすくなります。乾燥が続けば吸水不足を起こし、雨が続けば根が酸欠状態になりやすくなります。

梅雨入り前後は短期間で天候が変わりやすく、とりわけ排水性・保水性の違いが顕著に表れます。排水の悪い圃場では、雨後に水が滞留し、通気不足から根傷みが起こりやすくなります。一方、水持ちの悪い圃場では、乾燥による葉先枯れや活着不良が発生しやすくなります。葉が伸びていても地下部では根が十分に張れていないケースもあり、こうした差が真夏の生育差として表れます。

また、5〜6月は雑草が増え始めるタイミング。初期生育の弱いネギは水分や肥料を雑草に奪われやすく、わずかな生育停滞がその後まで尾を引きます。アカザ類やイネ科の雑草は初期から伸びが早く、除草が後手に回ると作業全体が滞ります。


根傷みを防ぐ、初夏の土壌作業


 このように、5〜6月は、生育が順調な圃場と停滞する圃場の差が一気に開き始める局面です。早い段階で圃場の変化を読み取り、土壌の実態に合わせて作業を組み立てることが求められます。

まず見ておきたいのが、圃場の排水の様子です。

ネギは湿害に弱く、雨後に水が残るだけでも根の働きが弱まりやすい作物です。近年は局地的豪雨が増え、短時間の滞水でも生育への影響が出やすくなっています。「少しくらい水が残っても大丈夫」という以前の感覚では対処しにくい場面も増えています。

粘土質の圃場では、表面が乾いて見えても内部に水分が残りやすく、通気不足から根傷みにつながります。降雨後は表土が固まりやすく、根の伸長だけでなく吸水も不安定になり、生育停滞を招きます。雨後は表土の様子を見ながら早めに中耕を行い、土を軽くほぐして通気性を確保することが有効です。梅雨前には畝間の排水路を見回り、水がたまりやすい箇所を把握しておくと、滞水への備えに役立ちます。

反対に、水はけが良すぎる圃場にも目を向けたいところです。砂質土壌では、高温で表土が急激に乾き、葉先枯れや吸水不足が生じるからです。そうした圃場では、敷きわらや浅めの土寄せで株元の乾燥を抑え、水分の急激な変動を和らげる工夫が有効です。

土寄せは白身を伸ばすためだけの作業ではありません。株元をしっかり支え、乾燥や倒伏を防ぎながら、生育のリズムを整える役割も持ちます。ただし、一度に深く寄せすぎると根を傷めるため、生育の様子を見ながら少しずつ進めることが望ましいです。

この局面の土壌作業で意識したいのは、「葉を伸ばすこと」よりも「根を止めないこと」です。地下部が固まっていなければ、真夏の生育を維持することは難しくなります。



真夏の品質低下を防ぐ、施肥と病害虫への備え


 高温が続く近年、夏どりネギは一度草勢を崩すと、そのまま品質低下を招きやすい作型です。5〜6月の段階から真夏の収穫期を見据えて準備することが、品質を左右します。

まず意識したいのが、この時期に肥料を与えすぎないことです。生育が動き始めるため追肥で一気に伸ばしたくなるものですが、窒素が過剰になると葉が軟らかくなり、蒸れや病害が出やすくなります。近年は高温で肥料吸収が急激に進みやすく、例年通りの施肥でも葉が伸びすぎて過繁茂に陥ることがあります。

梅雨前後の追肥にも慎重さが求められます。強い雨で肥料成分が流れやすいからといって施肥量を増やしすぎると、葉が急激に伸びて葉折れや軟弱化を招くことがあります。

降雨後はすぐに施肥量を増やすのではなく、葉色や葉幅、伸長の様子をしっかり確認しながら、圃場ごとの状態に合わせて調整することが重要です。

害虫としては、アザミウマやネギコガが夏場に向けて増えやすくなります。アザミウマは乾燥条件で増殖しやすく、葉のかすり症状や変色を引き起こします。ネギコガは葉の内部を食害し、生育や品質の低下につながります。

被害を広げないためには、発生初期の段階で密度を抑えることが肝心です。ネギコガは幼虫が葉の内部へ入り込む前に防除できると、被害を軽減できます。圃場周辺の除草や風通しの確保など、害虫が増えにくい環境を整えておくことも欠かせない取り組みです。

高温条件下ではべと病や軟腐病も発生しやすくなります。風通しの悪い圃場や葉が込み合った圃場では病害が広がりやすく、防除が遅れると品質低下につながります。


 夏ネギの品質は、5〜6月の積み重ねで決まる


夏ネギの品質や収量の差は、真夏に入ってからではなく、5〜6月の初期生育で開き始めます。初期段階で根張りが遅れた株ほど、高温や乾燥、水分変動の影響を受けやすく、夏場に草勢の差が出やすくなります。

だからこそ、夏前の圃場づくりが欠かせません。排水や乾燥への備え、施肥量の調整、雑草や病害虫への手当てなどを早い段階から進められるかどうかで、真夏のネギの姿は変わってきます。

真夏の日中作業そのものが厳しくなる中、「夏に入ってから立て直す」のではなく、「夏前にどこまで根を動かせるか」が、その後の収量や品質を左右します。

白く締まりのある夏ネギは、真夏に突然仕上がるわけではありません。5〜6月の積み上げが、そのまま収穫期の出来として表れてきます。


参照記事
農林水産省「野菜における夏季の高温対策」
群馬県「農業気象災害の技術対策」
埼玉県農業技術研究センター「秋冬ネギの夏季高温対策技術の開発」
JAくまがや「ねぎの栽培管理」


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
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    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
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    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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