原油高が日本の農業を豊かにする? コスト高の時代だからこそ考えたい経営課題

昨今の原油価格の上昇は、農業経営を直撃する大きな負担です。軽油や灯油、A重油といった燃料費だけでなく、肥料、農薬、農業用フィルム、出荷資材、物流費に至るまで、あらゆる農業に関わる多くのコストへ波及しています。

その背景には、世界的なエネルギー需給の変化や為替相場の動きがあり、国際市場の変動が国内の農業資材価格にも反映されやすい構造があります。国による燃料価格抑制策は続いているものの、短期間で以前の水準へ戻るとは見込みにくく、生産現場では高コスト環境を前提とした経営が求められています。

この状況は生産者にとって逆風です。

ただ、見方を変えると、原油高は農業経営の課題を浮き彫りにする契機とも言えます。燃料を多く消費する作業体系は適正なのか。肥料や資材は本当に必要な量になっているのか。機械の保有や更新は経営規模に合っているのか──コスト上昇によって、これまで見過ごされがちだった部分が数字として浮き彫りにされました。

そこで今回は、原油高が農業にもたらす変化と、生産者が目を向けたい経営上の論点を考えてみたいと思います。



燃料・資材価格の高止まりが続いている


まず、価格変動の実態を見ていきましょう。

資源エネルギー庁の「石油製品価格調査」を基に集計したところ、軽油の年平均価格は2020年の117.04円/Lから2024年には154.70円/L、2025年には156.94円/Lまで上昇しました。2020年と比較すると約34%の上昇です。

施設園芸や農産物乾燥施設などで利用されるA重油(大型ローリー価格)の年平均価格も、2020年の58.51円/Lから2025年には99.84円/Lに。上昇率は約71%に達し、軽油を大きく上回る伸びとなっています。

さらに、2026年は年途中の集計ですが、軽油は151.68円/L、A重油は112.13円/Lとなっており、A重油は引き続き上昇傾向が見られます。燃料価格の高止まりは、農業機械の運転や施設暖房、乾燥調製などにかかる経費を押し上げ、生産コスト増加の要因となっています。


燃料以外の資材も高い水準が続いています。農林水産省の「農業物価統計調査」を基に集計すると、農業生産資材価格指数(令和2年=100)の年平均は、2020年の99.97から2026年には128.73となり、約29%上昇しました。

項目別に見ると、上昇幅が最も大きいのは肥料です。肥料総合指数は2020年の99.92から2026年には143.30となり、約43%上昇。2022年以降に急騰し、2023年には147.01まで上昇した後も高い水準が続いています。

光熱動力指数も2020年の100.00から2026年には135.85となり、約36%上昇。施設園芸の加温や乾燥調製など、エネルギーを多く使う経営では負担増が続いています。

農業薬剤は2020年の100.00から2026年には118.53となり約19%上昇しました。農機具総合も100.02から116.60へと約17%上昇しており、肥料やエネルギー関連資材ほどではないものの、農業経営に欠かせない資材全般で価格上昇が進んでいます。


こうした価格上昇の背景には、(1)国際的な資源価格の高騰や(2)円安の進行があります。リン酸やカリの国際価格が上がったり、円安が進んだりすると、肥料価格も上昇します。また、農業用フィルムやマルチ、ポリポットは石油を原料としているため、原油価格の変動を受けます。段ボールや包装資材も製造や輸送にエネルギーを使うことから、燃料価格の上昇は資材費全体の押し上げ要因になります。

つまり、原油高は軽油代だけの問題ではなく、肥料や農薬、出荷資材、修理部品、物流費などにも影響がおよび、農業経営全体の支出を押し上げているのです。燃料費だけを見ていると負担の実態をとらえにくく、さまざまな費用の積み重ねによって収益が圧迫されていることを見落としがちです。


時間差で現れる原油高の影響


その上、原油高の影響は、すべての費目に同時に現れるわけではありません。

最初に変化が見えやすいのは軽油や灯油、A重油などの燃料です。トラクターやコンバイン、乾燥機、暖房設備などで直接使われるため、単価の上昇が比較的早く経営費へ反映されます。

その後、電気料金や物流費にも影響が広がります。農業用ポンプや冷蔵施設、予冷庫、選果場などを利用する経営では、電力コストの変化が経営費に表れます。エネルギー価格の上昇は、農産物の輸送だけでなく、肥料や農薬、資材の配送費にも波及します。

さらに数カ月遅れて、肥料、農薬、農業用フィルム、包装資材、農機部品などの価格改定が行われます。これらは原材料の調達から製造、流通を経て農家へ届くため、燃料価格より遅れて上昇が見えてきます。

現場の感覚としては、「燃料代が上がった」というよりも、「資材を発注するたびに前年より高くなっている」と感じるかもしれません。そのため、目の前に見えている価格だけでなく、次作や翌年の経費まで含めて見通しを立てることが求められます。



水稲・施設園芸・露地野菜による影響の違い


原油高の影響は、作目や栽培方式によっても負担が大きくなる費目は異なり、対応の方向性にも違いが見られます。


水稲──大規模化によるコスト増


水稲経営では、軽油や乾燥調製費、肥料費、農機具費の増加が収支へ影響します。

特に担い手への農地集積が進む地域では、経営面積が拡大するほど収益性が高まり、スケールメリットが増すと考えられがちです。

しかし、圃場が広範囲に分散している場合、面積が増えれば売上は伸びますが、圃場間の移動距離が長くなることで燃料消費や作業時間も増えてしまいます。収穫量が増えた分だけ乾燥機や籾すり設備の利用も増えるため、燃料価格や電気料金の上昇は経営費へ直結します。そのため近年は、単純な面積拡大だけではなく、作業効率を高めながら利益を確保する視点が重視されています。

具体的には、直播栽培による育苗・田植え作業の省力化、耕起や代かき回数の見直し、農機の共同利用、乾燥調製施設の共同利用などが検討されています。これらは燃料使用量の削減だけでなく、労働時間や機械維持費の抑制にもつながります。

原油高が続くなかでは、「どれだけ作るか」だけでなく、「どれだけ効率よく作るか」が収益を左右する要素になっています。


施設園芸──冬の暖房費アップ


施設園芸では暖房費の比重が大きくなります。加温を伴う施設園芸では、冬場の暖房費が収益に大きく影響します。ただし、設定温度を単純に下げればいいわけではありません。温度不足によって生育が遅れたり、収量や品質に影響したりすることがあるためです。

そのため現在は、暖房量そのものを減らすのではなく、同じ熱量をより効率的に利用する考え方が重視されています。農林水産省は、施設園芸における化石燃料使用量削減に向けて、省エネルギー生産管理マニュアルや各地の実践事例を公表しています。内張りカーテンや多層被覆、隙間対策、変温管理などは、暖房効率を高める代表的な取り組みです。

農研機構が香川県善通寺市で行った実証試験では、水蓄熱装置と多層断熱資材を組み合わせることで、慣行管理と比べて年間の燃料消費量がおよそ6割削減されたと報告されています。条件によって効果は異なりますが、熱を逃がさず効率的に利用する技術が燃料費の抑制につながることを示しています。

また、近年は夏場の高温対策も経営上の課題となっています。換気装置や循環扇、細霧冷房、ヒートポンプなどを利用する施設では電力消費が増えるため、エネルギー価格の上昇は冬場の暖房費だけでなく、高温対策にかかる費用にも影響します。


露地栽培──輸送・梱包資材などの物流コストの増加


露地野菜では、物流費や出荷資材費の割合が大きくなります。キャベツ、ハクサイ、ダイコンなどの重量野菜は輸送費の影響を受けやすく、燃料価格の上昇が運賃へ反映されると収益を圧迫する要因になります。

出荷に欠かせない段ボールや包装資材も、価格上昇の影響を受けています。これらの資材は製造や輸送の過程でエネルギーを使用するため、原油価格や物流費の変動が販売価格へ反映されやすい特徴があります。露地野菜では、生産コストだけでなく収穫後の流通コストも収支に大きく関わります。そのため、原油高の影響を考える際には、圃場での作業費だけでなく、出荷まで含めた経費全体を見る必要があります。


コストを必要最小限に抑えるための工夫


こうした背景から、生産現場では資材利用の考え方にも変化が見られます。

肥料については、施肥量を一律に減らすのではなく、土壌診断の結果を基に必要な養分を補う考え方が広がっています。局所施肥、可変施肥、堆肥利用などもその一例です。

肥料原料の多くを海外に依存するなか、価格変動への対応力を高めるため、投入量と効果を見直す動きが各地で進んでいます。原油高や資材高が続くなかでも、生産者は単純な節約ではなく、収量や品質を維持しながら経営費を抑える方法を模索しています。



原油高が追い風になることも?


ここまで見てきたように、原油高は農業経営にとって大きな負担となるのは否めません。一方で、国内農業の強みが見直される可能性もあります。

まず挙げられるのが、国産農産物の価値の見直しです。

輸入農産物は生産費に加えて海上輸送費や為替変動の影響を受けます。燃料価格の上昇によって輸送コストが高まると、国産品との価格差が縮まる場合があります。特に鮮度が重視される野菜や果実では、輸送距離の短さや供給の安定性が改めて評価される可能性があります。

また、地域資源の利用拡大も進んでいます。

農林水産省は国内資源由来肥料の利用拡大を推進しており、2025年時点で125件の活用事例を公表しています。神戸市では下水処理の過程で回収したリンを肥料原料として利用し、横浜市では再生リン入り肥料を活用しています。名古屋市や北九州市では菌体りん酸肥料の事例も紹介されています。また、家畜ふん堆肥を利用する耕畜連携の取り組みも各地で見られます。

こうした取り組みは、外部から購入する燃料や資材への依存を防ぐ方法のひとつ。導入条件や効果は地域や経営形態によって異なりますが、価格変動への対応策として各地で検討が進んでいます。


原油高は、農業経営の弱点を映す鏡


原油高は農家にとって決して歓迎できる出来事ではありません。

しかし、その影響を詳しく分析していくと、自分の経営においてどの費用が大きいのかが見えてきます。

原油価格や為替相場そのものを個人の力で変えることはできません。しかし、作業体系や資材の利用方法、機械の運用、販売先の選択など、経営の中で見直せる部分はあります。

原油高そのものが農業を直接豊かにするわけではありませんが、コスト構造を改めて確認し、自らの経営を見直すきっかけにはなり得ます。

価格変動が続くなかでは、収量や品質といった売上の側面だけでなく、経営費がどう使われているかというコストの側面にも目を向けることが重要ではないでしょうか。


参考資料
資源エネルギー庁「石油製品価格調査 調査の結果」
農林水産省「農業物価統計調査」
経済産業省「石油統計速報」
農研機構「施設栽培の燃料消費を大幅に削減できる省エネルギー技術体系」
農林水産省「施設園芸における化石燃料の使用量削減に向けた取組について」
農林水産省「国内資源の肥料利用の拡大について」


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
  4. 鈴木かゆ
    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
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    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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