【令和8年最新版】 きゅうり農業を取り巻く環境と現状|人手不足・高温対策・施設園芸の最新事情

きゅうりは、サラダや漬物、業務用食材まで幅広く使われる、食卓に身近な野菜です。年間を通じて需要がある一方で、鮮度が重視され、出荷時期や品質のばらつきが販売にも影響しやすい作物です。

近年は、作付面積の減少、担い手不足、高温や長雨への対応に加え、家庭での生鮮野菜消費の変化も無視できなくなっています。サラダ、カット野菜、業務用、加工向けなど、簡便化・加工化に対応した供給の考え方も重要になっています。

本記事では、きゅうり農業の生産動向、需要の変化、栽培技術のトレンド、安定的な生産・供給に向けた課題を整理します。



作付面積は減少傾向ながら、単収向上で生産量を維持


農林水産省が2026年(令和8年)4月に公表した2025年(令和7年)産の年間計によると、全国のきゅうりの作付面積は8820ha、収穫量は49万8500トン、出荷量は42万9700トンでした。前年産比では、作付面積が96%、収穫量が99%、出荷量が98%となっており、過去5年間を振り返っても微減傾向です。

一方、10a当たり収量は5650kgで、前年産比103%に。面積は縮小しているものの、単収の向上によって収穫量の落ち込みを一定程度抑えている構図が見えます。

季節区分で分けて見ると、2025年(令和7年)産の冬春きゅうり(12月〜6月)は10a当たり収量1万900kg、夏秋きゅうり(7月〜11月)は10a当たり収量3770kgとなり、単純に10a当たり収量を比べると、冬春きゅうりは夏秋きゅうりの約2.9倍になります。

施設栽培を中心とした冬春型は、面積当たりの生産量を確保するうえで大きな役割を持っています。一方で、夏秋産地も供給を支える存在であり、露地栽培・雨よけ施設、施設栽培を地域条件に合わせて組み合わせることが重要になります。


産地リレーと天候が価格に影響する


きゅうりは周年で需要がある一方、出荷時期によって主産地が切り替わります。このように、季節ごとに産地を移しながら出荷をつないでいく仕組みは「産地リレー」と呼ばれます。

きゅうりでは、冬春きゅうりと夏秋きゅうりで中心となる産地が異なります。冬春きゅうりでは宮崎県など、夏秋きゅうりでは福島県などが供給を支え、時期ごとの産地の切り替わりによって年間の出荷が成り立っています。

2026年(令和8年)6月の農林水産省の価格見通しでは、東京都中央卸売市場への入荷について、6月前半は埼玉県産・群馬県産が中心、6月後半は福島県産の出荷が増加するとされています。生育はおおむね順調としつつ、6月後半は梅雨の影響を受け、出荷数量がやや平年を下回り、価格はやや平年を上回る見込みとされました。

ここからわかるのは、きゅうりの需給は「年間で足りるか」だけでなく、「切り替わりの時期に数量が途切れないか」にも左右されやすいということです。産地ごとの作型、天候、作業人員の確保が重なり、短い期間でも価格が動くことがあります。
出典:農林水産省「主要野菜の生産供給動向と国産切替えの推進に向けた課題等」(2023年)
また、きゅうり単独の話に限らず、野菜全体で消費の形が変わっています。

農林水産省の資料では、家庭での生鮮野菜の購入額が減少する一方、サラダをはじめとした加工調理品の消費が増加傾向にあることが示されています。さらに、カット野菜・食材キットなど、家庭内調理が簡便な一次加工済み生鮮野菜の購入額も増加傾向にあるとされています。

同資料では、2040年には生鮮食品への支出額が2015年の75%程度に減少する一方、加工食品への支出は111%程度に増える見込みも示されています。きゅうりでも、家庭向けの丸物需要だけに依存するのではなく、業務用、加工向け、契約取引、直販などをどう組み合わせるかが、今後の経営判断に関わってきます。


栽培トレンドは、環境制御・データ活用・省力化


きゅうり栽培の技術面では、施設栽培を中心に、環境制御や養液栽培、データ活用、省力化技術の導入が進んでいます。

きゅうりは収穫期間が長く、草勢の維持や着果の安定が収量に関わりやすい作物です。そのため、ハウス内環境や水分・肥料管理などを見える化し、経験に基づく判断を補助する技術が検討されています。



ハウス内環境を「測る」


施設きゅうりでは、ハウス内の環境が生育や草勢に関わります。これまでも生産者は、天候や作物の様子を見ながら換気、かん水、追肥などを判断してきました。近年は、こうした判断を補助する技術として、ハウス内環境をセンサーで測定し、数値として確認する取り組みが進んでいます。

環境モニタリングを使うと、ハウス内の変化をスマートフォンやパソコンで確認できます。日中の温度上昇、夜間の湿度、CO2濃度、土壌水分などを把握しやすくなるため、換気やかん水、追肥のタイミングを考える材料になります。複数のハウスを管理する場合や、家族・従業員で作業を分担する場合にも、状況を共有しやすくなる点が特徴です。

福島県の「スマ農ふくしま」では、きゅうりのハウスに環境測定装置を導入し、クラウド上で確認する実証が紹介されています。農家からは、「換気やかん水等の測定値がわかるので、測定値に応じたコントロール量を判断しやすくなる」、「ほ場から離れてもアプリで測定値を確認できるので便利」との声が聞かれたといいます。


「養液栽培」「養液土耕」で細かく水分・肥料を管理


きゅうりは生育が早く、草勢や着果の変化も出やすいため、かん水や施肥の判断が収量や品質に関わります。そのため、土づくりや経験に基づく管理に加えて、水分・肥料をより細かく調整する技術も使われるようになっています。

養液栽培は、土の代わりに培地を使い、水に溶かした肥料を与えながら育てる方法で、水分と肥料の量を管理しやすく、作物の生育に合わせて供給量を調整しやすい点が特徴です。

養液土耕栽培は、土で育てる栽培を基本にしながら、かん水や施肥を機械やシステムで細かく管理する方法です。従来の土耕栽培を土台にしつつ、水分や養分の供給を安定させやすい技術といえます。

農研機構スマート農業実証プロジェクトでは、愛知県西尾市のJA西三河きゅうり部会が、施設きゅうりでICTを使った養液栽培や、養液栽培データを活用した養液土耕栽培に取り組んでいます。同実証では、養液栽培の導入や環境データ・植物生体データの活用により、単収が約44%向上したとされています。養液土耕栽培でも、養液栽培データや環境・植物生体情報データを活用することで、単収が約14%向上したと紹介されています。

長野県南信州地域振興局の資料でも、雨よけ栽培や養液土耕の導入により、収穫期間の延長、収量向上、かん水・施肥作業の省力化が期待できることが整理されています。

なお、施設費や導入規模によって条件が変わるため、導入の際は地域の作型や経営規模に合わせた検討が必要です。


「収量予測」と「労務管理」で作業の山を見えやすくする


きゅうりは収穫頻度が高く、収穫から出荷調整まで作業が続きやすい作物です。収量を伸ばすことは経営上の強みになりますが、その分、作業量も増えます。栽培管理だけでなく、いつ、どの作業に人手が必要になるのかを見通すことも重要になります。

そこで活用が進んでいるのが、収量予測や労務管理の仕組みです。環境データや生育データをもとに収量の見通しを立てられれば、出荷量や人員配置を考える材料になります。また、作業者ごとの作業内容や作業時間を記録することで、どの工程に時間がかかっているのかを把握しやすくなります。

きゅうりのように日々の作業が途切れにくい作物では、栽培技術だけでなく、作業の山を見える化する技術も、今後の経営改善につながる分野といえます。


収穫作業を支える「自動化技術」も開発が進む



収穫作業の負担をどう抑えるかも大きなテーマです。注目されているのが、AIや画像認識を使った収穫ロボットです。カメラで果実の位置や大きさを判別し、収穫に適したきゅうりを自動で見つける技術が開発されています。施設内のレール上を移動しながら収穫するロボットもあり、すべての人の作業を完全に置き換えるというより、負担が集中しやすい工程を補助する技術といえるでしょう。

農研機構のスマート農業関連資料でも、きゅうり自動収穫ロボットの開発が紹介されています。収穫率や精度の向上、小型化、ロボットが動きやすい圃場環境づくりなどが課題として示されており、実用化に向けた取り組みが進められています。

関連記事:AGRIST、24時間収穫を実現するきゅうり自動収穫ロボット「Q」を発表 2026年にレンタル開始予定


品種開発では、耐病性・耐暑性も重要な視点に


栽培技術とあわせて、品種面でも生産安定性が重要になっています。きゅうりでは、病害や高温による着果不良などが生産上の課題になるため、今後は食味や見た目だけでなく、耐病性や耐暑性を備えた品種の育成も注目されます。

農研機構は2025年(令和7年)4月、日本のきゅうり品種「ときわ」のゲノム配列を高精度で解読したと発表しました。これにより、DNAマーカーの開発が進み、耐病性品種や耐暑性品種など、ゲノム情報に基づく品種育成の迅速化への貢献が期待されています。

こうした研究成果がすぐに現場の品種選びを変えるわけではありませんが、気候変動や病害リスクへの備えとして、品種開発の方向性も「生産を安定させること」に向かっていると見ることができます。



安定的なきゅうり生産・供給のための課題


きゅうりは需要のある野菜ですが、さまざまな変化が重なり、これまで以上に安定供給の難しさが増しています。今後は、単に収量を増やすだけでなく、限られた面積と人員で、どの時期に、どの品質・数量で出荷できるかを考えることが重要になりそうです。


作付面積が減る中で、どう生産量を維持するか


全国のきゅうり作付面積は減少傾向にあります。一方で、収穫量の落ち込みは単収向上によって一定程度抑えられています。今後の課題は、面積が減る中でも、必要な出荷量をどう維持するかです。

施設栽培を中心とした冬春きゅうりは、面積当たりの収量が高く、生産量を支えるうえで重要な役割を持っています。一方、夏秋産地も年間供給をつなぐうえで欠かせません。地域条件に合わせて、露地、雨よけ、施設栽培を組み合わせながら、収量と作業負担のバランスを取ることが求められます。


気候変動の中で、草勢と出荷量を安定させる


猛暑や長雨、日照不足などの異常気象への対応も大きな課題です。きゅうりは生育が早く、草勢の変化が収量や品質に表れやすいため、高温による株の負担や、多湿による病害の発生が出荷量の変動につながります。

施設栽培では、換気、遮光、かん水、施肥、湿度管理などを組み合わせ、草勢を維持しながら収穫量の大きな変動を抑える管理が重要になります。環境モニタリングや環境制御技術の導入も気象リスクに備える選択肢になります。


人手不足の中で、収穫・選果・管理作業を回す


きゅうりは収穫頻度が高く、収穫、選果、出荷調整、整枝、誘引、摘葉などの作業が続きやすい作物です。限られた人数で収穫適期を逃さず作業を回せるかが、品質と出荷量の安定に関わります。

そのため、担い手不足への対応は、人を確保するだけでなく、作業を見える化し、分担しやすくすることも含まれます。作業記録、労務管理、収量予測、自動収穫ロボットなどの技術は、作業の山を把握し、負担を分散するための材料になります。


需要の変化に合わせて、販路と用途を組み直す


家庭での生鮮野菜購入が落ち込む一方で、サラダ、カット野菜、食材キット、業務用、加工向けなど、簡便化・加工化に対応した需要は広がっています。今後は、丸物を市場に出すだけでなく、どの用途に合わせて供給するかも課題になります。

JA経由の市場出荷、市場への直接出荷、量販・業務用・加工向けの契約取引、直売など、それぞれに特徴があります。自分の作型、品質、出荷量、労力に合わせて販路を組み合わせることが、収益と供給の安定につながります。規格外品の活用や一次加工も、需要変化に対応する選択肢の一つになり得ます。



「どう作るか」と「どこに出すか」を一体で考える


きゅうりは、年間を通じて需要がある一方で、生産面でも販売面でも変化の影響を受けやすい作物です。これからは、収量を伸ばすことだけでなく、作業体制、気象リスク、販売先まで含めて、経営全体をどう組み立てるかが問われていきます。

環境制御やデータ活用、省力化技術は、そのための選択肢の一つです。ただし、技術を入れること自体が目的ではありません。自分の作型や人員、出荷先に照らして、どの部分を安定させたいのかを整理することが出発点になります。

家庭向けの生鮮需要だけでなく、業務用や加工向けの需要も見ながら、栽培と販売をつなげて考えること。そこに、今後のきゅうり農業を続けていくためのヒントがありそうです。


参考:
農林水産省「令和7年産指定野菜(春野菜、夏秋野菜等)の作付面積、収穫量及び出荷量」
農林水産省:品目別年産区分・季節区分一覧表
農林水産省「野菜の生育状況及び価格見通し(令和8年6月)について」
農林水産省「主要野菜の生産供給動向と国産切替えの推進に向けた課題等」
福島県 スマ農ふくしま「キュウリハウスにおける環境測定装置による安定生産」
農研機構「施E03 JA西三河きゅうり部会生産者(愛知県西尾市)」 | スマート農業実証プロジェクト
長野県南信州地域振興局「きゅうり施設化推進チラシ」
農研機構「キュウリ収穫ロボットの開発」
AGRIST株式会社「キュウリ収穫ロボット2024」
農研機構「日本のキュウリのゲノム配列を初めて高精度で解読」(2025年)


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  1. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  2. 北島芙有子
    北島芙有子
    トマトが大好きなトマト農家。大学時代の農業アルバイトをきっかけに、非農家から新規就農しました。ハウス栽培の夏秋トマトをメインに、季節の野菜を栽培しています。最近はWeb関連の仕事も始め、半農半Xの生活。
  3. 柏木智帆
    柏木智帆
    米・食味鑑定士/お米ライター/ごはんソムリエ神奈川新聞の記者を経て、福島県の米農家と結婚。年間400種以上の米を試食しながら「お米の消費アップ」をライフワークに、執筆やイベント、講演活動など、お米の魅力を伝える活動を行っている。また、4歳の娘の食事やお弁当づくりを通して、食育にも目を向けている。プロフィール写真 ©杉山晃造
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    鈴木かゆ
    1993年生まれ、お粥研究家。「おかゆ好き?嫌い?」の問いを「どのおかゆが好き?」に変えるべく活動中。お粥の研究サイト「おかゆワールド.com」運営。各種SNS、メディアにてお粥レシピ/レポ/歴史/文化などを発信中。JAPAN MENSA会員。
  5. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
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