農業の大規模化で失敗しないために|規模拡大前に考えたいこと
農業経営体の減少が進むなか、地域の農地を今後誰が担うかが、日本の農業の大きな課題となっています。
農林水産省によると、農業経営体は2020年から2025年までの5年間で22.3%減少しました。また、2025年の全国の耕地面積は、前年より3万3000ha減少しています。
こうした状況を踏まえ、農林水産省は離農する農業者から農地や事業を引き継ぐ受け皿となる農業者や農業法人の役割が重要になるとし、そうした経営体には、より高い経営管理力が求められるとしています。
周囲から農地の引き受けを打診されたり、自ら規模拡大を考えたりする場面もあるでしょう。しかし、面積を増やした分だけ利益も増えるとは限りません。圃場間の移動、機械への投資、雇用、生産物の販売まで含めて計画しなければ、売上が伸びても所得や手元資金が減ることがあります。
本記事では、大規模化によって起こりやすい「失敗例」をあえて取り上げ、農地の引き受けや規模拡大に向けて、生産者として考えておくべきことをまとめていきます。

「面積先行」を避けるべき理由
大規模化でつまずきやすいのは、借りられる農地を先に増やし、人員や機械、販路を後から整えようとする進め方です。面積は数字で把握しやすいものの、圃場間の移動時間、繁忙期の作業量、設備費、出荷量は、規模を広げた後に負担として表れます。
特に問題となりやすいのは、田植え、防除、収穫などが重なる繁忙期です。平常時には回っていた体制でも、雨や高温によって作業日が限られると、人手や機械が足りず、適期を逃すことがあります。遅れが重なれば、生育や品質、後に続く作業の日程にも影響します。
また、生産量が増えても、選別、包装、保管、出荷、販売が追いつかなければ、増産分がそのまま収益にはなりません。
地域が困っている、耕作放棄地をこれ以上増やしたくないといった事情は理解しつつも、規模拡大に当たってまず考えたいのは「何haまで増やしたいか」ではなく、今の人員、機械、販路で品質を保ちながら管理できる面積はどれくらいか、ということです。
規模拡大前に確認したい4つの落とし穴
規模を広げれば、生産量や売上を伸ばせる余地が生まれます。一方、作業量や人件費、機械・施設にかかる費用も増えるため、売上が伸びても利益が減ることがあります。ここでは、代表的な4つの失敗例を紹介します。
1.圃場が離れているため、移動と段取りに時間を取られる
新たに借りた農地が既存の圃場から離れた場所に点在すると、機械や資材の運搬、見回り、水管理に時間がかかります。区画の形や進入路、水利も圃場ごとに異なるため、同じ面積でも作業時間や燃料費には差が出ます。
農地を借りる際は、既存の圃場からの距離だけでなく、機械や資材を運びやすいか、複数の圃場を続けて作業できるかも見ておきます。
農地をできるだけまとまった形で借りたい場合は、農地バンクへ相談する方法もあります。希望どおりの配置になるとは限りませんが、既存の圃場と合わせて作業しやすい形を探る手段の一つです。
2.せっかく購入した機械や施設を使い切れない
規模拡大を見越して大型機械や施設を購入しても、作付面積が計画ほど増えなければ稼働日数が少なくなり、投資額に見合うだけ使えないことがあります。購入後は、借入返済に加え、保険、保管、点検、修繕にも費用がかかります。
購入前には、年間の稼働日数や1日当たりの処理面積、更新までにかかる総額を見積もることが大切です。そのうえで、共同利用・リース・作業委託なども比較し、使いたい日に作業できるか、天候に合わせて日程を変えられるかまで考え、自分の経営に合う導入方法を選びましょう。
3.作付けしてから売り先を探し、増産分をさばく見込みがない
生産量を増やしてから売り先を探すと、増産分を従来と同じ価格や規格で販売できないことがあります。たとえ販売できても、保管、選別、包装、運搬にかかる手間と費用も増えるため、出荷量の増加がそのまま所得の増加につながるとは限りません。
作付け前には、既存の取引先が受け入れられる数量、価格、規格、出荷期間を確かめます。もし既存の販路だけでは扱いきれない、あるいは新たな売上を生み出したい場合は、新たな取引先を探す時間も見込まなければなりません。
直売や加工に回す場合も、販売対応や加工にかかる人手、保管場所、設備が求められます。作付面積を広げる際は、増えた分をどこへ、どの程度販売するかまで計画しておきましょう。
4.人を増やしているのに、経営者の仕事が減らない
従業員を増やせば、現場の作業は分担できます。ただし、指示や現場での決定が経営者のみに集中したままでは、負担は軽くなりません。人数が増えるほど、勤怠、安全、教育、役割分担などの仕事も増えるためです。
規模を拡大したい時には、すべてを自分が担おうとせず、圃場や作業ごとに担当者を決め、作業手順、終了の基準、異常時の連絡先を共有します。そのうえで、担当者が決めてよいことと、経営者へ報告することを分けます。
ただし、マニュアルを作って渡すだけでは、仕事を任せられる体制は定着しにくいものです。朝礼や作業記録も活用しながら、少しずつ任せる範囲を広げていきましょう。人を雇うだけでなく、仕事を任せられる体制をつくることも、規模拡大には欠かせません。

農地を引き受ける前に決めておきたい3つの基準
農地の引き受けを頼まれると、地域との関係から断りにくいこともあります。ただし、すべてを引き受けることが最善とは限りません。受けられる農地の条件や投資の上限をあらかじめ決めておくと、話が来たときに考えやすくなります。
1.引き受ける農地の条件を決める
既存の圃場からの距離、区画の広さ、進入路、排水性など、受け入れられる条件を決めておきましょう。たとえば、「今ある機械で入れる」「排水改善に多額の費用がかからない」といった基準です。
条件に合わない農地まで無理に引き受けてしまうと、移動や補修に時間と費用を取られます。面積だけで決めず、今の経営に組み込みやすい農地かを冷静に判断しましょう。
2.初年度にかける費用の上限を決める
新しい農地では、排水改善、除草、土づくり、機械の追加など、想定外の支出が生じることがあります。以前の耕作者による栽培履歴が、十分に残っていない場合もあります。収量や販売実績などがわからない段階で他の農地と同じように作業をしても、うまく収穫まで持っていけなかった場合は支出だけが膨らみかねません。
初年度は、既存の機械や作業委託で補える部分を見極め、追加投資の上限を決めておきましょう。実際の作業量や収支を見てから設備や圃場整備などを行うことで、一度に大きな負担を抱える事態を避けやすくなります。
3.続けるか見直すかを決める時期を設ける
農地を一度引き受けると、そのまま作り続けることが前提になりがちです。しかし、想定以上に時間や費用がかかる場合は、作物を変える、作業を委託する、貸借条件を相談するといった見直しも必要になります。
特に新たに引き受けた農地に関しては、作付け後に収量や販売額だけでなく、移動時間、追加費用、人員への負担などを必ず振り返りましょう。その結果をもとに、翌年も続けるのか、やり方を変えるのかを決めます。
自分だけで結論を出しにくい場合は、農業経営・就農支援センターなどへ相談する方法もあります。

大規模化の成功は「増やすこと」より「続けられること」
農業経営体の減少が続くなか、地域の農地の受け皿として、現役の担い手が果たす役割は重要になっています。だからこそ、農地の引き受けを頼まれたとしても、「地域の農業を守りたい」という気持ちだけですぐにすべてを受けてしまうと、かえって続けられなくなってしまうこともあります。
今の体制では難しければ、時期をずらす、一部だけ引き受ける、作業委託を組み合わせるなどして実現可能性を検討する、といった進め方もあります。
実際の作業や収支を見ながら段階的に面積を広げ、次の年も続けられる余力を残しておくことが、地域の農地を長く担うことにつながります。
参考資料
農業経営人材の育成に向けた官民協議会
「農業経営人材の育成に向けた官民協議会」の設置および第1回協議会の開催について
農地中間管理機構(農地バンク)
農業経営等に関する相談
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