シードル原料に規格外品ではなく摘果した果実を使う理由

青森県弘前市で大規模にリンゴを作るもりやま園は収穫物を青果として販売するほかに、シードルやジュースなどに加工している。

加工に使うのは主に摘果した果実だ。なぜ成熟した規格外品ではないのだろうか。

摘果した果実(提供:もりやま園)

成熟果を原料にすると赤字


弘前市の市街地にあるもりやま園に近づくと、広大な園地の手前に黒っぽい色をした2階建てくらいの大きさの建物が見えてくる。ここは農林水産省の2016年度「産地パワーアップ事業」を活用して建てた、シードルとジュースを造る加工場だ。

シードルとはリンゴの発泡酒で、リンゴの果汁をタンクで発酵させて、糖分をアルコールと炭酸ガスに変化させて造る。近年になって大手飲料会社だけではなく、青森県では農家や農産加工会社が相次いで製造に乗り出している商品だ。

シードルの充填作業(提供:もりやま園)
しかし、もりやま園と他社では根本的に考え方が異なっている。それが顕著なのは「原料」だ。

もりやま園は摘果した果実を使用するのに対し、他社は成熟した果実の規格外品を原料とする。このため、もりやま園のその商品名はずばり「テキカカシードル」。ジュースも同様で、これまた商品名は「テキカカアップルソーダ」と命名されている。

森山さんはなぜ摘果した果実を原料にしたのか。これには農業経営と味の両面で意味がある。

まずは、前者について取り上げよう。

「成熟した果実だと規格品でも規格外品でも生産費は変わらないわけです。うちだと1箱20kg当たり3200円。ただ、加工原料の相場は1箱500円。つまり出荷するほどに赤字になってしまう」

それでも農家にすれば「捨てるよりはまし」という感覚なのだろう。ただ、それではいつまで経ってもリンゴづくりに未来はない。それは前回紹介したように、もりやま園が「Agrion果樹」で品種ごとの労働生産性を明らかにした通りである。

代わりに森山さんが可能性を見出したのは、自社で製造・販売することと、原料に摘果した果実を使うことだった。

「摘果した果実はもともと捨てるもの。これこそ“ただ”なわけですから、必ず付加価値がつくわけです」


経営の危機管理にも役立つ


摘果した果実を原料にすることは危機管理にも役立つ。リンゴの収穫時期は台風が来襲する時期と重なる。強い風に吹かれると、果実がぶつかり合ったり、枝に擦れたりして傷がつく。最悪の場合は落下する。たびたび大きな被害が出ているので、テレビで見た記憶があるという人も少なくないだろう。成熟した果実だけを売り物にする農家の場合、下手すれば台風でその年の売り上げがゼロになりかねないのだ。

一つだけ問題があるとすれば、摘果を収穫する期間に使える農薬が限られてくること。

「銅剤や炭酸カルシウム剤など、有機JASで使える農薬に限られます」

もりやま園はシードルとアップルソーダは自社工場で製造しているが、原料果実を搾汁する工程は飲料製造会社・ゴールドパック青森工場に委託している。

森山さんは「つまり、モノづくりがしたいわけではないんです。ブランドづくりがしたいだけ。できる限り他社に任せる方針を取っています」とのこと。

幸運なことに、ゴールドパックの青森工場は畑に隣接している。もりやま園が2020年に収穫した摘果リンゴは42t。同工場で絞ってもらった果汁はドラム缶で165本。冷凍保存している果汁は毎月15本前後を運んできて、もりやま園の加工場でシードルやアップルソーダを製造する。


タンニンが違いを生む


摘果した果実を使うことはシードルの味にも深く関係する。森山さんによれば、成熟した果実を原料にする一般的な国産のシードルは「本場と異なる日本的なもの」だと言い切る。

シードルについて説明する森山さん
「本場のシードルは日本のシードルほど甘くない。何が決定的に違うかといえば、タンニンを含んでいること。タンニンが含まれているから、苦味、渋み、酸味が絶妙なバランスで加わり、美味しくなるわけです。タンニンはリンゴが成熟する過程で果実から失われていきますが、摘果した果実にはまだまだ残っている。だから摘果した果実で本場のシードルの味を出せるわけなんです」

この言葉が確かであることは、2019年にはシードルの国際品評会「ジャパン・シードル・アワード」で大賞を受賞したことが証明している。


他のリンゴ農家を巻き込んでいく


もりやま園の年間売り上げのうち、青果物は32%。残りはすべてシードルやジュース、ドライフルーツなどの加工品である。

干しりんごの作業(提供:もりやま園)
「つまり、季節や自然災害と無縁な売り上げが68%あるということです。農作物を栽培する農家の場合は売り物がリンゴだけしかない。それだと自然災害に遭うと会社はつぶれるしかなくなる。うちの場合はリンゴは32%だけなので、被害に遭っても立ち直れるわけです」

もりやま園は1社だけで儲けるつもりは一切ない。弘前、さらには青森県のリンゴによる農業経営の発展に尽くしたいと考えている。事実、2020年から近隣の農家から摘果した果実の集荷を始めた。なお、いずれの農家も「Agrion果樹」の利用者である。

つまり、農薬の使用をはじめ生産履歴を記帳している。来歴が明確な果実だけをシードルの原料にしているのは、少なくとも国内ではもりやま園だけだろう。

これは出口だけにとどまらない。入口としての生産についてもスマート農業による新しい栽培体系を構築することを目指している。これについては、最終回で触れていく。

もりやま園 (株) MORIYAMAEN Co.,Ltd. |青森県弘前市の農業ベンチャー企業!
https://moriyamaen.jp/

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WRITER LIST

  1. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  2. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  3. さわちん
    2児の父。あるきっかけにより農業のイメージを変えたいと考え、16年間のサラリーマン生活にピリオドを打つことを決意。2020年春、家族で田舎に移住し、新規就農を目指す。自身が「移住×就農のモデルケース」となるために、いろんな方面へ向けて奮闘中。
  4. 福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  5. 窪田新之助
    農業ジャーナリスト。福岡県生まれ。日本経済新聞社が主催する農業とテクノロジーをテーマにしたグローバルイベント「AG/SUM(アグサム)」プロジェクトアドバイザー、ロボットビジネスを支援するNPO法人Robizyアドバイザー。著書に『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』『GDP 4%の日本農業は自動車産業を超える』(いずれも講談社)など。