経済事業の立て直しに迫られるJA【窪田新之助のスマート農業コラム】

JAの本業といえば、経済事業である。経済事業とは、組合員が生産した農畜産物を買い取って、卸売業者や量販店に販売したり、反対に組合員が必要とする農業関連資材や生活必需品を販売したりすることだ。その一環でJAグループの量販店「Aコープ」やガソリンスタンド「JA‐SS」、農産物直売所(ファーマーズマーケット)などの運営もするなど、とにかく幅が広い。


ただ、多くのJAにとって経済事業は採算ぎりぎりか赤字で、共済(保険)事業と信用(銀行)事業を合わせた金融事業でその穴埋めをしなければならないのが現状だ。これは、農林水産省が、2019事業年度に全国611のJA(当時)を調べた結果にもあらわれている。

農協の部門別損益(引用元:農協について - 農林水産省(https://www.maff.go.jp/j/keiei/sosiki/kyosoka/k_kenkyu/attach/pdf/index-41.pdf)

JAの赤字を解決するには

では、経済事業で、どれくらいのJAが赤字に陥っているのか。同調査によると、黒字だったJAは105と全体の17%にしかなかった。しかも、このうち67は北海道のJAであり、63%を占める。都府県で黒字だったのは38のJAに過ぎない、つまり9割以上のJAが赤字なのだ。

経済事業の建て直しが求められるなか、これから必要になってくるのは生産情報の「見える化」である。JAの内部だけではなく、取引相手との間でそれを共有することで、活発な取引が生まれていく。

これに関して、注目すべき取り組みがある。以前紹介したことがある、事業者間での青果物の直接的な取引を促進するECサイト「Tsunagu Pro」のJAによる活用だ。

青果物の直接的な取引を促すECサイトの多くは、売り手として農家を、買い手として個人や飲食店を主にしている。対して「Tsunagu Pro」が主な対象とするのは、売り手としてJA、買い手として量販店や食品卸、学校給食事業者などである。

【参考】
JAを“売り手”に流通の本丸に挑む 〜農作物予約相対取引サービス「TSUNAGU」【前編】
物流の短縮化で市場よりも安価に購入 〜農作物予約相対取引サービス「TSUNAGU」【後編】

おおまかな流れは次のとおりだ。JAは農家から、オンライン上で当面出荷する品目や規格、量について日時ごとのデータを集める。それを踏まえて取引先に商品を提案。注文があった分を農家に発注する。逆に取引先から欲しい商品の提案を受けることもできる。


デジタルの活用で赤字を軽減

しかし、デジタル化に対応できない農家は多い。そこで、あるJAは、生産部会を通じて作付けの実績やその後の生育状況などの情報を収集し、時期に応じた収穫量を予測。そのデータを「Tsunagu Pro」で取引先に公開して、買い手を募集する方法を取っている。つまり、農家はデジタル化に対応することなく、いままで通り出荷するだけでいいのだ。

取引している相手は、地元にある量販店や菓子屋など。扱っているのは主にイチゴやトマトなどでいずれも特産品で取扱量が多く、出荷の予測が立てやすい。

このJAでは「Tsunagu Pro」を活用して取引が活発になり、経済事業の赤字を減らしている。

JAが金融事業への依存を高めるによる問題と、それを克服するための経済事業の建て直しなどについて描いた新刊『農協の闇(くらやみ)』(講談社)を出版する。JAに関心がある方には、ぜひ手に取っていただければ幸いだ。

書籍情報

「農協の闇」
著者:窪田新之助
出版:講談社
仕様:新書判・336ページ
価格:1100円+(税)
農協の闇 (講談社現代新書) | 窪田 新之助


【コラム】窪田新之助のスマート農業コラム
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WRITER LIST

  1. よないつかさ
    1994年生まれ、神奈川県横浜市出身。恵泉女学園大学では主に有機栽培について学び、生活園芸士の資格を持つ。農協に窓口担当として5年勤め、夫の転勤を機に退職。アメリカで第一子を出産し、子育てをしながらフリーライターとして活動。一番好きな野菜はトマト(アイコ)。
  2. syonaitaro
    1994年生まれ、山形県出身、東京農業大学卒業。大学卒業後は関東で数年間修業。現在はUターン就農。通常の栽培よりも農薬を減らして栽培する特別栽培に取り組み、圃場の生産管理を行っている。農業の魅力を伝えるべく、兼業ライターとしても活動中。
  3. 槇 紗加
    1998年生まれ。日本女子大卒。レモン農家になるため、大学卒業直前に小田原に移住し修行を始める。在学中は、食べチョクなど数社でマーケティングや営業を経験。その経験を活かして、農園のHPを作ったりオンライン販売を強化したりしています。将来は、レモンサワー農園を開きたい。
  4. 沖貴雄
    1991年広島県安芸太田町生まれ。広島県立農業技術大学校卒業後、県内外の農家にて研修を受ける。2014年に安芸太田町で就農し2018年から合同会社穴ファームOKIを経営。ほうれんそうを主軸にスイートコーン、白菜、キャベツを生産。記録を分析し効率の良い経営を模索中。食卓にわくわくを地域にウハウハを目指し明るい農園をつくりたい。
  5. 田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。