環境にやさしい農業資材を知ろう 持続可能な農業のために生産者にできること

地球温暖化や海洋プラスチックゴミなどさまざまな環境問題について議論される中、農業においてもSDGs運動など、持続可能性を重視した取り組みが見られるようになってきました。

農林水産省が掲げる環境保全型農業では、地球温暖化や生物多様性の保全を目的に化学合成農薬や化学肥料の使用低減などが推進されていますが、環境へ配慮した取り組みをより一層進めていくには営農するうえで欠かせない農業資材についても見直してみる必要がありそうです。

そこで今回は、環境負荷の低減につながるとして注目されているさまざまなタイプの農業資材を紹介。それらを使用するメリットや注意点などについても見ていきたいと思います。



農業生産による環境への影響とは?


農業は適切な生産方法が行われていれば豊かな生態系の維持や美しい景観形成など、環境にとっていい影響をもたらす一方で、昔は問題がなかった農業資材でも、不適切な使用などにより環境に負荷を与えることもあります。

具体的には、農薬や肥料を過剰に使用することで起こる温室効果ガスの発生、プラスチック資材の不適切な処分方法による有害物質の発生や生態系への影響などが挙げられます。また、最近では海洋汚染の原因の一つとして、稲作で使用した後の被覆肥料のプラスチックが圃場から流出するなど環境への影響が懸念されています。


こうした話題になるとすぐになにもかも禁止する声が上がりがちですが、資材自体が悪いということではなく、使い方や使用する量に問題があるケースが多いようです。まずは日々の管理やそれに合った対策を行うことで、環境への影響を抑えることができる点も知っておきましょう。

持続可能な農業に向けて推進されている取り組み


各企業や産業で環境問題に対応する姿勢が見られる中、自然と密接につながっている農業でもさまざまな取り組みが行われています。農水省が掲げる環境保全型農業で推進されているものをはじめ、環境負荷低減のためにどのような取り組みが行われているかを見ていきましょう。

持続可能な農業に向けた取り組み(1)堆肥や緑肥作物の活用


堆肥や緑肥作物を活用した土づくりを行い、化学肥料や農薬の使用を削減することで、環境面にいい影響を与えるだけでなく肥料代などのコスト削減にもつながります。特に緑肥作物については作物に合ったものを導入することで収量や品質の向上にも効果があるということがわかっています。



持続可能な農業に向けた取り組み(2)プラスチック問題への対応


プラスチックによる環境汚染を防ぐため、農水省は生産者自身による廃プラスチックの排出抑制や適正な処理を行うことを求めています。具体的には、使用後のプラスチックは産業廃棄物として処理するのはもちろんのこと、生分解性マルチや耐久性の高いフィルムを使用することでプラスチックゴミの排出量を大幅に削減することが可能です。

持続可能な農業に向けた取り組み(3)海洋プラスチックゴミ対策


水田で被覆肥料を利用している場合は、浅水代かきや自然落水などの水管理を行うことでほ場外への流出を防ぐことが可能です。また、最近では「ウレアホルム」というプラスチックを使用しない緩効性肥料を使用しても、従来の栽培方法と同等の収量・品質が得られるということがわかってきています。

環境負荷を低減する農業資材


農業資材を扱う企業の研究開発により、これまで以上に環境に配慮した資材が現れ始めています。使用することでどのような効果があるのか、また使用する際の注意点についても紹介します。

生分解性マルチ


生分解性マルチは作物を収穫した後、土壌にすき込むことで微生物によって水と二酸化炭素に分解される農業資材です。通常のマルチでは作物の収穫後にすべてはぎ取って回収する作業が必要ですが、そのまますき込むだけでいいので農作業の省力化にもつながります。

生分解性マルチの価格は通常のものと比べると2~3倍と高めですが、使用後の処理費用がかからないので場合によっては経済的にもメリットのある資材です。

使用する際の注意点として、作物の収獲が終わってしばらく放置してしまうと分解されずに飛散して河川などに流出してしまうことも考えられるため、収穫後はすぐにすき込み作業を行う必要があります。

生分解性ポット


生分解性ポットは、生分解性マルチと同様に微生物などによって水と二酸化炭素に分解される育苗用ポットです。

ポットから苗を出す必要がなく、そのまま植え付けられるので作業性にも優れています。ポットから苗を出したときに根が傷ついてウイルスに感染することで起こる病害の抑制効果も期待できます。



赤色防虫ネット


赤色の防虫ネットは、これまで防除が難しかったアザミウマなどの害虫の物理的防除法として注目されています。アザミウマが認識することのできない赤色のネットで作物を覆うことで、飛来を防ぐことができるというのが特徴です。

これにより農薬に頼りすぎない防除が可能となり、環境にやさしいだけでなく農作業の省力化にもつながります。価格は一般的なネットと変わらないので、取り入れやすいという点もメリットのひとつといえるのではないでしょうか。

バイオスティミュラント


バイオスティミュラント」は、日本をはじめ世界的に注目を集めている新しいタイプの農業資材です。日本語に直訳すると「生物刺激剤」といって、微生物などの働きを利用して日照不足や土壌環境の悪化など植物が受けるストレスを軽減し、丈夫で健康的な作物を育てることができるようになります。

植物が持つ能力を引き出すことで、農薬や化学肥料の過度な使用を抑えることが可能に。まだバイオスティミュラントの効果や安全性についてはわかっていない部分も多いのが現状ですが、異常気象などによる植物へのストレスを緩和することで収量や高い品質を保つといった効果も期待されています。

自治体によっては補助金が利用できる場合も


環境負荷の低減につながる取り組みを支援するため、農業資材購入費の補助を行ってくれる自治体もあります。

ここでは一部のみの紹介になりますが、環境に配慮された資材を購入する際は、住んでいる自治体でも行っているかホームページなどで確認するようにしましょう。

東京都

対象者
認定農業者、認定新規就農者、東京都エコ農産物認証生産者、GAP認証者
補助対象
生分解性マルチ、生分解性ポット、赤色防虫ネット
補助内容
購入経費の2/3以内、上限額20万円
申請受付期間
2022年10月20日(木)~2022年12月20日(火)まで(終了)
申請先
東京都農業共同組合中央会
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/nourin/nougyou/shinkou/shizai_koutou_kinkyuu2022/

京都市

対象者
・農産物を販売する農業者(個人・法人)
・農業者で組織された団体(市内に事業所を有していること)
補助対象
・化学合成農薬の使用低減に資する資材(生物農薬、光式捕虫器など)
・廃プラスチック削減に資する資材(生分解性マルチ、生分解性ポット)
・その他市長が特に必要と認めるもの
補助内容
購入経費の1/2以内、個人上限額10万円、法人上限額50万円
申請受付期間
2022年8月31日(水)~2022年12月28日(水)まで
申請先
居住地区の農業振興センター
https://www.city.kyoto.lg.jp/sankan/page/0000302944.html

埼玉県本庄市

対象者
市内在住の販売農家または販売農家集団(農業法人含む)
補助対象
生分解性マルチ
補助内容
・対象経費が10万円以内の場合は購入経費の1/2以内、1戸あたりの上限1万5000円
・対象経費が10万円以上の場合は購入経費の1/5以内、1戸あたりの上限5万円
申請受付期間
2023年3月17日(金)まで
申請先
本庄市有機100倍運動推進協議会事務局
https://www.city.honjo.lg.jp/soshiki/keizaikankyo/nousei/osirase/13162.html

長野県飯山市

対象者
市内在住者(市税などの滞納がないこと)
補助対象
飯山市の農地で使用する生分解性マルチ
補助内容
・生分解性マルチ200m巻き一本あたり1000円以内
・1人(1法人)200本限度(20万円)
申請先
長野県飯山市 経済部 農林課 農業振興係
https://www.city.iiyama.nagano.jp/soshiki/nourin/nougyoushinkou/shienseido/seibunkaimaruchi

まずは自らの生産活動を見直してみよう


生産に対する効果を上げることももちろん大切ですが、環境に配慮したものを自分で積極的に選択できるのも生産者です。農薬や肥料をなにもかもゼロにしようとまで考える必要はないですが、適切に使用し、廃棄物の適正処理を心がけることはこれからの時代に必要な考え方になってきます。

今回紹介した資材は、環境面だけでなく省力化や処理費用コストの削減など生産者自身へのメリットも得られます。補助金などを活用しつつ、利用を検討してみてはいかがでしょうか。


農林水産省「環境保全型農業をめぐる事情」
https://www.env.go.jp/council/09water/y0917-03/mat02.pdf
農林水産省「農業生産における生分解性マルチの利用」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/pura-jun/attach/pdf/index-12.pdf
日本バイオスティミュラント協会「バイオスティミュラントとは?」
https://www.japanbsa.com/biostimulant/biostimulant-jbsa.html

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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