農業高校生、農家、専門家による農業の「働き方改革」経営者向けガイドとは?

国を上げて取り組みが進められている働き方改革。この流れは、農業にも徐々に広まろうとしている。

2018年3月30日、農林水産省はおよそ3カ月間に及ぶ「農業の「働き方改革」検討会」の取りまとめを行い、その内容を「農業の「働き方改革」経営者向けガイド」(以下、本資料)としてまとめた。省庁だけでなく、教育機関、民間企業がタイアップを組んでまとめられた本資料は、今後の日本の農業に大きな影響を与えるかもしれない。ここでは、本資料の内容を紐解きながら、農業の働き方改革について考えてみたい。


なぜ、農業に働き方改革が必要なのか?

そもそも、なぜ農業に働き方改革が必要なのか。本資料では、その理由について日本の農業を取り巻く環境が大きく影響していると言及している。

担い手の高齢化、人手不足など日本の農業は大きな転換点に差し掛かっている。1995年からおよそ20年で農業就業人口は半分以下に減少し、平均年齢も59歳から67歳に高齢化している。日本の人口が減少に転じている現代において、この問題は農業にも暗い影を落とす。この問題の解決に取り組むことが、日本の農業の発展に必要不可欠といえるのだ。

そこで、本資料ではこれまでと同じやり方では今後農業を発展させるのは難しいだろうと予想している。特に、今後担い手になる若者のニーズに合わせた農業を展開することが重要であると述べられている。

また、これまでの男性中心の農業から、女性も参画できる農業へ変革する必要もある。女性の社会進出が日本では大きなテーマになっているが、農業に従事する女性の比率はこの40年で低下し続けている。

一方で、これらの課題を解決すれば、日本の農業も明るい展望を描くことができる。つまり、若者、そして女性の農業進出を促すような取り組みが今後求められるのだ。それが、農業の働き方改革につながってくるというのが本資料の趣旨となる。

本資料の作成に当たっては、農業経営者では青森でりんごの生産を行っている株式会社アルファーム、北海道で肉牛や酪農を行う株式会社ノベルズ、茨城でフルーツトマトの生産を行う株式会社ドロップなどが参画。また、有識者として教育機関から東京都立園芸高等学校などが参加しており、まさに官民一体となって議論された。

「農業の『働き方改革』経営者向けガイド」が推奨する改革の3つのステージ

しかし、働き方改革という言葉だけが先走っても意味をなさない。具体的にどのようなステップを踏めばいいのか、そこを示してこそ改革に取り組むことができる。本資料では働き方改革を進めるための3つのステージを提示している。実際にどのようなステージを設けているか見てみよう。

ステージ1:経営者が自らの働き方を見つめ直す

まず初めのステージは、第三者から見て経営者の考えがわかるように、自らの働き方を見直すことから始まる。見直すというのは、ただ頭の中で考えるだけでなく、頭の中にある情報を紙に書き出すなどして見える化したり、経営上の課題を洗い出すというものだ。特に、経営上の課題は、生産面積や作目の種類、それを流通させる販路、月や日毎の作業量や人員などを把握して、投資計画や財務管理が適切かどうか判断する必要がある。

また、仮に自分が従業員として関わっていたらどうかという視点を持つことも重要だ。自分以外に頼れる人に意見を求めるなど、できる限り客観的な視点を持つことが必要だ。

現状を踏まえた上で、今後の経営計画を練るために、市場動向や最新技術、国の施策などについて情報収集することも求められる。さらに、経営理念やそこから導き出される具体的な数値目標を作ることも重要であると本資料では言及されている。

ステージ2:「働きやすい」「やりがいがある」実感できる職場を作る

次に大事なのは、従業員の労働環境を整えることだ。年間の作業量の平準化や、労働法などに準拠した雇用を実現するだけでなく、給与体系の明確化や農業の特性を活かして労働時間を短縮することなども重要だろう。

また、人材のミスマッチを起こさないよう、経営理念や業務の意図を共有して、意思の疎通を図ることも求められる。必要に応じて、インターンシップなどを活用してマッチングを行うのも一つの手段だろう。

ステージ3:人材を育成し更に発展する

最後の段階は、今後さらに発展するために人材の獲得、育成をさらに進めるというものだ。ここまでに決めてきた経営理念や目標をSNSなどを通じて発信して、農業に馴染みはないものの組織をデザインして経営者として活躍できる人材を獲得する。

このような人材を確保するためには、採用のミスマッチを防いだり、自社で描けるキャリアパスを提示することが必要だ。また、「人」がやるべき重要な作業に集中できるよう、最先端の農機や技術を導入して作業負担の軽減を図ることも大切だ。

「働き方改革」で新しい農業を築くためのキーポイント

このように、本資料では農業に働き方改革を起こし、衰退ではなく発展するために必要なことを、事例を交えながら解説している。ここで取り上げた内容は、すでに実践しているところもあり、実現不可能なものではない。それでは、今後農業で働き方改革を行う上でキーポイントになるのはどのようなことだろうか。ここでは2つのポイントについて言及したい。

一つは、スマート農業スマートアグリ)といった最新テクノロジーの活用だ。農業は重労働というイメージを少しでも払拭すべく、先ほどもお伝えしたとおり農機や技術で解決できる問題は積極的に改善することが求められるだろう。それが実現すれば、農業に対するイメージも大きく変わるはずだ。

もう一つは、この働き方改革の考え方を、現在の農業従事者が受け入れられるかどうかだ。長年培ってきたやり方を大きく変えるには、農業経営者だけでなく、その関係者も一体となって取り組んでいく必要がある。そして、それを行うというマインドチェンジが必須だ。それをいかにして醸成するか、今後の日本の農業にとって大きな課題になるかもしれない。

<参考URL>
農業の「働き方改革」検討会取りまとめ及び別冊参考資料の公表について
http://www.maff.go.jp/j/press/keiei/zinzai/180330.html
農業の「働き方改革」経営者向けガイド
http://www.maff.go.jp/j/press/keiei/zinzai/attach/pdf/180330-2.pdf

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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
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    川島礼二郎
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    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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