「生産管理が難しい育苗だからこそ、システム化したかった」〜苗最大手企業 ベルグアースの戦略(前編)

自分で育てず買ってくる苗は「購入苗」と呼ばれる。その野菜苗の最大手が、愛媛県宇和島市に本拠を置くベルグアース株式会社だ。

作るには高い技術が必要で、生育が良いことが知られる「接ぎ木苗」を中心に、年間3710万本を売る。苗はかさばるうえに長時間の輸送に向かず、各地に小規模の業者が多く存在する。そんな中で、同社は全国、果ては海外に直営やグループ農場を拡大しており、業界再編の旗手と言える。

そんなベルグアースを一代で育て上げた山口一彦社長に、海外進出やAI導入も含めた戦略を聞いた。

山口一彦(やまぐち・かずひこ)
ベルグアース株式会社代表取締役社長。1957年生まれ。1996年に山口園芸を設立し、2001年にベルグアースを設立。同社は主に接ぎ木野菜苗(トマト、キュウリ、ナス、スイカ、メロンなど)を販売。売上高は48億8500万円(2019年10月期)、従業員294人。岩手県、茨城県、長野県、愛媛県に直営農場を持つほか、全国に30近いパートナー農場を持つ。創業の苦労とビジネスモデル確立の経緯は、東潔著『百姓でも会社経営はできるんや‼ 宇和島発・山口一彦の挑戦』(2007年、アートヴィレッジ)に詳しい。
(写真:山口亮子)

“メシが食える農業”を目指して

――最初に、野菜苗の育苗を事業対象に選んだのは、なぜだったのですか。

山口:最初から、これが絶対にいいと確信していたわけではないんよ。

僕は農家の息子で、もともと切り花と花の苗を作っていたけれど、経営が成り立たなくなった。当時手がけていた野菜苗の受注生産は、100本の注文を取って100本納めれば、1本の単価に100を掛けた売上が確実に入る。これでやっていくしかないと思った。

上が穂木で下が台木。熟練者がミリ単位で切断面や角度を調整する(写真:ベルグアース)

原点にあった思いは、「農業でメシが食えるようにしよう」ということ。

食糧、言い換えればメシを作っている農家が、よくメシが食えんと言っている。親が農業をやっているサラリーマンは、「百姓ではメシが食えんから、私はサラリーマンになりました」と平気で言う。メシが食えん人にメシを作ってもらうのか。そういう世の中を変えたいと思ってきた。

とはいえ、最初は切り花と花の苗の失敗で作った借金を返すのに必死。34歳だった1991年に売り上げが3億円前後になって、注文も増え、やっていけそうだとなった。

――ここ宇和島市津島町北灘は、ベルグアースの前身である山口園芸があった場所なんですよね。

山口:そう。人口7万人強の宇和島市には、上場会社が弊社(2011年にJASDAQ上場)と水産会社でもう1社ある。こんな辺ぴな田舎でと思うじゃろうけど。こんな田舎だからこそ、農業と水産業で生きていくしかない。

――四国というと、消費地からは離れていて、輸送の問題がありますよね。

山口:そもそも購入苗が一気に普及したのは、施設園芸の大産地である高知県。苗の購入比率は全国でトップなんよ。施設園芸の先進県である高知がすぐ近くにあって、購入苗をどんどん導入してくれた。その中で成長していった。

接ぎ木部門では女性が活躍している(写真:ベルグアース)

輸送の問題でいうと、弊社の代表的な商品「ヌードメイク苗」は、断根接ぎ木をした根も土もない状態で運べるから、輸送コストを通常の数十分の一にできる。これは輸送面で恵まれないからこそ出てきた方法。

多くは、全国の直営農場やグループ農場でポット苗やセル苗など使いやすい形に育てて売る。同業者である苗業者や生産者に、ヌードメイク苗の状態のままの販売もしている。

技術の必要な接ぎ木はある程度本社や特定の農場に集約して作って、各地に作った農場でその地域に合った苗に仕上げるという、お客様の近くで仕上げていくビジネスモデル。ここがポイントなんよ。これを可能にしたのが、ヌードメイク苗だった。


変動要因が多いからこそ、生産管理・在庫管理が必要

――いま国内の苗業界は、どういう傾向にあるのでしょうか。

山口:売上や生産本数は増えていて、業界自体の規模は拡大している。農家数や農産物の栽培面積が縮小している中で、購入苗の生産は増えている。大手が量を増やしていて、業界の伸びを引っ張っている状況。

これは高齢化と大規模化の両方が影響している。生産に手間暇かかる苗、特に接ぎ木苗は、買わざるを得ないという状況になっている。

それと、異業種が参入して大規模な農業経営をすることも増えている。育苗は植物の赤ん坊の世話をすることだから、すごく難しいし休みもない。だったらアウトソーシングした方がいいと判断するのもあるね。

――ベルグアースでは、育苗のための生産管理システムも導入していますね。

山口:開発にお金と時間を相当かけて、2003年に「苗生産管理システム」を導入した。生産管理を導入することは「製造業」としては当たり前なんやけど、農業で導入するのは結構難しいんよな。

なぜ導入したのかというと、製造業として分業化をしていかないと、規模拡大できんのよ。より良いものをより安く作るためには、生産管理という考え方が必要。農業分野で、日本で一番最初に導入したと思っている。

接ぎ木前の育苗のようす(写真:ベルグアース)

接ぎ木後の育苗のようす(写真:ベルグアース)

農業って「来週キャベツ何個取れますか、何キロ取れますか」と質問しても、答えられないところがほとんど。でも、それではお客様の信頼が得られないと気付いて、生産・在庫・品質・工程の管理をちゃんとしようと。

それで、会社が今ここまでに成長した。今後も間違いなく、ITやAIを活用した仕組みづくりをさらに進めていく必要がある。

一番こだわっているのは在庫管理なんよ。これをすることで、工程管理や品質管理が機能する。いつ、どこに、何が、どういう状態であるか。それを常にしっかり把握する。農業はそれが難しい。難しいからこそ、やるべきだ。

システムを作ったときに、すごい悩んだんよな。植物の生産は、変動要因が多岐にわたりすぎるから「それをシステム化するってどうなの?」っていう議論から始まった。すごく難しい。それにあえてチャレンジしている。

農業が、IT、AIみたいなものを一番生かさないけん業種だというのは、そこなんよな。


育苗生産管理システムをライバルに提供した理由

山口:そんな、若い子たちが必死で夜中までかかって開発した生産管理システムを、簡単にライバル会社に安く売ったけんね。相当非難されたな(笑)。「なんていうことをするんですか!」と皆、怒った。

――え、売ったんですか!?

山口:お客さんにも「あの会社からあんたところとよく似た伝票が出てくる」って言われる。そりゃそうよ。システム一緒じゃもん(笑)。

苗事業は農家にとって大事な、農産物の元になるものだから、失敗は許されんのよ。苗を安定的に供給するためには、このシステムを共有して、苗業界がお客様から支持されるようになればいい……そう思って安く売ったんやけどな。

システムといっても、自社独自のものと、業界として共有すべきものがあると思うんよな。どこまで共有するか。今は共有するシステムややり方がすごく言われる時代だけど、中小企業になるとそこを出したくないという思いが強いわな。

でも、それではやっぱり発展できないと僕は思っているので。

――ライバルにそのノウハウも含めて提供してしまうって、すごいと思います。

山口:すごくない。一緒に頑張ろうよと。ライバルってのは、蹴落とす相手じゃなくて、共に競う相手だと思っとるからね。


ベルグアース株式会社
http://www.bergearth.co.jp/
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  1. 松橋充悟
    松橋充悟(まつはし じゅうご)北海道十勝在住。高校卒業後にJAに入組。農業に触れていく中で、生産者の求めていることと『スマート農業』の取り組みに乖離を感じ、自分が農薬散布のドローンを活用した防除のプロセスモデルを作れればと思い、転職して農薬散布のドローンを始めました。現場の声を聴きながら協力していただき、ドローンの可能性を広げていきたいと思います。趣味は音楽。
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