ヤマハ発動機、自社開発の農業用ドローン「YMR-08」を2019年3月より発売

ヤマハ発動機株式会社は、農業用マルチローター(ドローン)「YMR-08」を2019年3月から発売。同時に、ドローンによる農薬散布のためのスクール「ヤマハマルチローターアカデミー」を2018年11月より全国で開講する。


都内で行われた新製品発表会の冒頭で、同社ロボティクス事業部UMS統括部長の中村克氏が、同社の無人機事業の現状と今後について説明した。ちなみに、「UMS」とは「Unmanned System」の略で、無人機による各種製品を扱う部門。ヤマハ全体としては様々な機器を開発・販売しているが、その中でもマルチローター(ドローンのことをヤマハではこう呼称する)、無人ヘリコプター、無人ボートをUMS事業が統括している。


今回発売するドローンについて、同社は「農薬散布機」として「散布現場で本当に必要なものは何なのか?」を基本設計思想として開発したという。農薬散布に関していかに効率を上げて省力化できるか、という選択肢のひとつとして、新規に開発が進められてきた。

そもそも、この30年で水稲農薬散布面積のシェアが有人ヘリから無人ヘリへと変化していく中、無人ヘリでの農薬散布をサポートしてきたというヤマハ発動機の自負と歴史があってこそのスタンスと言えるかもしれない。


とはいえ、ドローンの開発に関しては世界のドローンベンチャーや中国メーカーが台頭してくる中で、「(他社に比べて)2年ほど遅れている」とも認めている。遅れてしまった理由として中村氏は、「ヘリコプタータイプの製品を中心に開発・販売してきたことと、モーター、バッテリー、センサーもメーカーとして自社でやることをあきらめずにやったことで開発に時間がかかりました」と説明している。

しかし、その遅れもすべては、「日本の農業に貢献させていただく」という思いがベースにある。そして、「ものづくりは自社でやらないかぎり、コストも性能もライバルに立ち向かうことができない」と中村氏。その点では、完全にオリジナルなドローンを開発したことで、ここから先の巻き返しのスピードは一段と早まると予想される。


中期的な施作としては、無人ヘリについては散布性能の強化を今後も追及し、自動化により精密農業との連携を進めていく。こちらも新機種の開発を進めている。

その上で、今回発売される「YMR-08」は基本的に人間が操作するドローンだが、こちらも自動化は進めたいという。時期などについては、「自動化そのものが農家にどれくらいの利を生むかを検証しながら、農業のためになるもの、効率的で扱いやすく安全なものを出していきたい」と、あくまで農家目線の開発を強調。現状では無人ヘリで農薬散布を行っている請負作業者よりも、個々の農家レベルへの提供を視野に入れているという。無人ヘリと比べて格段に操作が簡単なドローンだからこその変化とも言える。

さらにUSMとしては、果樹や畑での無人化を進めるためのUGV(無人地上車両)も開発を進めている。ゆくゆくは、人力から逃れられないとされている収穫作業などについても、ロボット技術で効率化できるとしている。また、圃場の管理や毎年の収穫量などの一元管理のためのサービス事業については、自社のみでなく様々なメーカーと協業しなら進めていく方針だという。

ちなみに、非農業分野でもサービスの拡大を検討しており、ドローンによる荷物や工具などの配送においては、「ヘリコプターだと30kg以上運べるので、重いものでも往復して運ぶことで省人化に技術貢献できればと考えています」とのこと。すでに高所作業や山間部の工事などで運搬も進められているという。

自社開発で安全性を信頼性を高めた「YMR-08」

続いて、ロボティクス事業部UMS統括部営業部長の遠藤征寿氏から「YMR-08」に関して紹介された。

前述のとおり、YMR-08はヤマハ発動機が国内メーカーとの協力関係により開発した、自社開発&メイドインジャパンのドローンだ。1ヘクタールの圃場で、8リットルの薬剤を15分で散布できる能力を備えている。

最大の特徴は、二重反転ローターによるダウンウォッシュの強化だ。8つのローターのうち、両サイドにあるローターは上と下のローターが逆回転することで、下降気流を生む構造となっている。これによって下方向への風を生み出し、薬剤を根元までしっかり届けられるという。一般的なドローンでも下降気流自体は生じているが、ローターそのものが生み出す風量だけでは、横風などの影響により飛散してしまう可能性は低くない。しかしYMR-08は、強い下降気流を自ら生み出すことでより大きな効果を発揮できる構造になっている。


信頼性においては、自社開発ということ以外にも、バッテリーはTDK株式会社と、モーターなどは日本電産と共同開発している。安全性については、HBMS(ハイパワーバッテリー用マネジメントシステム)を完備しており、ひとつのモーターが停止しても飛行を継続できるようになっている。

操縦性については、3つの操縦モードを搭載している。ノーマルモード、ある程度自動で飛行するクルーズコントロールモード、そして、圃場の端でボタンひとつでターンする自動ターンアシストモードだ。スイッチをオン/オフすると、機体が4mの間隔で自動ターンしてくれるので、隙間なく散布できる。

また、ヤマハ発動機ならでは、という点としてデザインも挙げられる。もともと2輪やボートで空気抵抗の軽減や軽量素材の活用といったノウハウを持つ、モビリティメーカーとしてのヤマハ発動機の機能美と造形美が融合したデザインとなっている。


こうした製品自体の魅力に加え、サポート体制もヘリで培われてきた実績が活きている。まず、全国にあるスカイテックの19の特約店にて、パーツの供給などを実施。さらに、無人ヘリの実績を生かした教習もスタートする。講義はeラーニングなのでいつでもどこでも受講でき、技能はシミュレーターを使いつつ、実機でも技能認定を実施する。初心者向けの5日間コースでは、薬剤散布のパターンも練習するところが他社とは異なる部分だ。全国25カ所で実施され、料金は27万5000円となっている(26万円が教習料、1万5000円が認定証)


「YMR-08」の本体価格は275万4000円(税込)。同梱品として、送信機、送信機バッテリー、機体バッテリー、充電器、充電ケーブル、薬剤ジョッキが付属する。なお、薬剤散布装置は別で、今後発表予定だ。

<参考URL>
YMR-08
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  1. 田牧一郎
    田牧一郎
    日本で15年間コメ作りに従事した後、アメリカに移り、精米事業、自分の名前をブランド化したコメを世界に販売。事業売却後、アメリカのコメ農家となる。同時に、種子会社・精米会社・流通業者に、生産・精米技術コンサルティングとして関わり、企業などの依頼で世界12カ国の良質米生産可能産地を訪問調査。現在は、「田牧ファームスジャパン」を設立し、直接播種やIoTを用いた稲作の実践や研究・開発を行っている。
  2. 福田浩一
    福田浩一
    東京農業大学農学部卒。博士(農業経済学)。大学卒業後、全国農業改良普及支援協会に在籍し、普及情報ネットワークの設計・運営、月刊誌「技術と普及」の編集などを担当(元情報部長)。2011年に株式会社日本農業サポート研究所を創業し、海外のICT利用の実証試験や農産物輸出などに関わった。主にスマート農業の実証試験やコンサルなどに携わっている。 HP:http://www.ijas.co.jp/
  3. 石坂晃
    石坂晃
    1970年生まれ。千葉大学園芸学部卒業後、九州某県の農業職公務員として野菜に関する普及指導活動や果樹に関する品種開発に従事する一方で、韓国語を独学で習得する(韓国語能力試験6級取得)。2023年に独立し、日本進出を志向する韓国企業・団体のコンサル等を行う一方、自身も韓国農業資材を輸入するビジネスを準備中。HP:https://sinkankokunogyo.blog/
  4. 川島礼二郎
    川島礼二郎
    1973年神奈川県生まれ。筑波大学第二学群農林学類卒業。フリーラインスの編集ライターとして、テクノロジーをキーワードに、農業雑誌・自動車雑誌などで執筆・編集活動中。
  5. 堀口泰子
    堀口泰子
    栄養士、食アスリートシニアインストラクター、健康・食育シニアマスター。フィットネスクラブ専属栄養士を経て独立。アスリートの食事指導や栄養サポートの他、離乳食から介護予防まで食を通じて様々な食育活動を行う。料理家としても活動し、レシピ提案、商品開発も担う。食事は楽しく、気負わず継続できる食生活を伝えることを信条とする。スポーツの現場ではジュニアの育成、競技に向き合うための心と体の成長に注力している。HP:https://eiyoushiyakko.jimdofree.com/
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